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  • 執筆者の写真中澤真弥

【書評】LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

更新日:2021年8月20日


『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』

著者:リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット/翻訳:池村千秋

出版社:東洋経済新報社/ISBN:9784492533871



新しい時代を生き抜くためのミッション「私の人生戦略」


「人生100年。あなたはどのように生きますか?」。そう問いかけられているようなタイトルに思わず立ち止まった。片手だけでは不安になるほど、ずっしりとした重みを落とさないように手に取る。本屋のメインコーナーに堂々とたたずんでいる書籍に惹かれたのは、私だけではない。ふらっと店内に入ってきた人を、マグネットのように惹きつけて離さない世界的ベストセラーの力を小さな書店でひしひしと感じていた。同様に手にした人を見つけると、まるで100年ともに戦う戦友のような気持ちになった。「これからの人生どうすればいいと思いますか?」と勢いに任せて声をかけたくなったほどだ。


 本書が出版されたのは4年ほど前。当時、私は病院を辞めてフリーランスとして2年目を迎えようとしていた。自分らしくイキイキ働きたいと決意して、いざ組織の外へ出たものの、「本当にこれでよかったのか」と少し自信をなくしていた時期だった。正直、目指すべき方向を見失っていたのかもしれない。というのも、看護師でフリーランス、しかもセカンドキャリアとしてフリーライターへ働き方をシフト。近くに相談できる相手もいなかったので、孤独との戦いでもあった。本書はそんな迷子になりかけていた私をこんな言葉で勇気づけてくれたのだった。


まわりのみんなと同じ行動を取るだけで上手くいく時代は終わったのだ。

 本書のテーマは「人生100年時代をどうすればうまく生きていくことができるのか?」。今までは学校へ通い、卒業したら就職をする。そして定年と言われている年齢がきたら引退。この教育、就職、引退という3つのステージは、ふつうの人生として私たちにすり込まれ続けてきた。しかし、そんな3つのステージは終わりを告げ、「マルチステージ」の人生へ様変わりしていく。そのため、今までの“あたりまえ”はもう通用しない。なぜなら、60歳で仕事を引退した場合、残りの40年をどう生きるのかという大きな課題が残るからだ。40代の私は40年間がとにかく長い年月であることを重々承知している。だからこそ「備えあれば憂いなし」という言葉が頭をよぎる。


長期化をめぐる議論は、お金の問題に偏り過ぎている。

『LIFE SHIFT』より引用


 本書には70歳、40歳、18歳と3人の人物が登場し、それぞれの働き方や生き方が解説されている。私は中間層の40代。自分に置きかえてみると妙に納得することが多くあった。少子高齢化が進み、健康寿命が伸びているいま、年金をはじめとした制度は破綻していくはずだ。問題となるのはお金だけではない。今後どのように生きていくのかを時代の流れに乗りながらしっかり考えておく必要がある。ここまで読み進めていくと、少し誇らしい自分がいた。それは今の働き方、生き方にリンクしている部分を発見することができたからだ。


無形の資産は、それ自体として価値があることに加えて、有形の金銭的資産の形成を助けるという点で長く生産的な人生を送るためにカギを握る要素なのだ。

『LIFE SHIFT』より引用


 個人で働くようになって、私はとても大切な気づきを得ることができた。それは目先の報酬ではなく、「やり遂げたい」という自分自身の挑戦があるということだ。つねに新しいステージを求めていくうちに、いろいろな人や企業と関わることが自分自身の可能性を引き出すきっかけになった。専門職であるがゆえ、雇われ続けていたら味わうことのなかった感触だ。無形資産は人や環境づくりだけではない。有形資産を形成する助けにもなる。感覚的に行動して漠然と感じ取っていたことが本書を通じて腑に落ちた。


平均寿命が伸びて100年生きることを前提にすると、私たちは生き方を変えなければならない。

『LIFE SHIFT』より引用


 予想をはるかに超えたニューノーマルの時代に、私たちの生き方、働き方は今後もさまざまな変化が起ころうとしている。「そのとき、自分は何者であるのか?」「何をするべきであるのか?」「どう生きていきたいのか?」。こうした自問自答をくり返しながら、人生100年時代の土台となるものをつくり、向き合っていくことが必要になる。それが新たなステージを生み出し続けていくことになるのだ。また、生き方や働き方だけにとどまらず、健康や人間関係、資産形成、企業や国の課題にも向き合うことになる。


 本書を読み終えたとき、目先の金銭や仕事だけにとらわれず、もっと心の豊かさを追求したくなる。そして、自由な人生を送ってもいいという安心感を得ることができる。人生に迷いを感じたとき、100年生き抜くためのヒントがここにある。新しいステージは自分で築くことができるのだ。

 

中澤真弥(なかざわ・まや)

専業主婦から一念発起し看護の道へ。転職、復職、潜在看護師を経験。両立の難しさ、疲弊するばかりの働き方を見直し、自分らしい働き方を求めて看護師ライターとして独立。現在は看護師ライターの養成講師として約100名を超える受講生を輩出するほか、看護大学教員、介護専門学校講師、メディカルマーケティング、アドバイザーなど幅広く活動中。著書に『看護の現場ですぐに役立つ循環器看護のキホン』(秀和システム)などがある。


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