「歯医者が好きですか?」と聞かれれば、たいていの人は「いいえ」と答えるだろう。私たちは無意識のうちに歯医者への苦手意識をもってしまっている。田北デンタルクリニックの田北行宏先生は、そんな状況を生む原因のほとんどが歯科医の側にあると言う。新刊『子どもが帰りたがらない歯科クリニックの院長が教える 歯医者を好きになる方法』では、そんな患者側の歯医者嫌いを対話形式によって一つずつ解きほぐしていく。40代以上の8割がかかっているといわれる歯周病の章から、一部を公開する。
国民病といっていい歯周病、40代以上の8割が歯周病ってホント?
皆さんは、日本人に多い病気というと何を思い浮かべるでしょうか? がん、糖尿病、胃潰瘍、脳梗塞……。そう、たしかにこれらの病気は誰でもかかる可能性があるし、家族や身近な人の誰かが経験していることでしょう。
では、日本の成人の8割がかかっている病気があることをご存じでしょうか? 「エッ、そんな病気があるの?」と驚かれると思いますが、実はあるのです。それは、歯周病です。
ある調査では、20代で7割、30~50代では8割、60歳代ではなんと9割が歯周病とされています(日本生活習慣病予防協会資料)。
もっと、すごいデータがあります。あの有名なギネスブックには「世界で一番多い伝染病」として、なんと歯周病が認定されているのです。
これは毎年、世界的に大流行するインフルエンザよりも多いということです。これほど多い歯周病ですが、10年ほど前の日本人は、歯周病にはあまり関心がありませんでした。むし歯さえなければ「歯は健康だ」というのが一般常識でした。
最近でも、歯周病という病名を知っていても、その正体についてはあまり知らないという人が多いのではないでしょうか。
ある日、私のところに、広告代理店に勤務しているサトウさんがやってきました。彼は「最近、歯がしみる」という理由で受診されたのですが、ここ10年、歯医者にかかったことがないそうで、妻に行くように強くすすめられ、しぶしぶやってきたというわけです。
サトウ「先生、最近、歯がしみるんですけど、むし歯ですかね? 妻からは『口が臭い』って言われるので、もしかして……と思ったんですけど」
先生「口臭の原因は、たくさんありますよ。むし歯や歯周病だけでなく、体調の悪化や
胃腸の病気、鼻やのどの病気、糖尿病でもなりますね。ストレスで唾液が減ることがあるんですが、その場合も口臭が出るんです。重大な病気、たとえば、がんでも特有のにおいが出ます。まずは、原因を突き止めないといけません」
サトウ「エッ、がん!? 実は、妻から『胃が悪いんじゃないの?』って言われたことがあ
るんです。でも、会社の健康診断では、どこも問題なかったんですけど……」
先生「ごめんなさい、ちょっと脅しちゃいましたね。消化器や呼吸器など、他の病気がないなら、口の中に原因がある可能性が高いですね。口臭の原因の9割は口の中にあるんです。そのほとんどが、歯周病やむし歯。他に、歯垢(プラーク)や舌の汚れ(舌苔)があります。口の中を不潔にしていると細菌のかたまりが歯や舌につくんですが、これが歯垢や舌苔です」
サトウ「何か食べた後、長時間、歯をみがかないでいると、歯の表面がザラザラするやつですよね? でも、歯みがきすれば落ちるし、僕は大丈夫ですよ」
先生「そう思っている方が多いんですけどね。自分でいくら歯みがきやフロスをしていても、プラークは落とせないんですよ」
サトウ「そうなんですか?」
先生「ええ。口の中の大量の細菌が固まって、がっちりとスクラムを組んでいるのがプラークです。細菌は自分たちを守るために、その外側に抗生物質や歯みがきでは取り除けないバイオフィルムという膜をつくります。流しやふろ場のぬるぬると同じもので、これが厄介なんです」
サトウ「そんなものが口の中に……。想像すると恐ろしいですね」
先生「そうですよ。そのプラークの中には大量のむし歯菌や歯周病菌がいるんです。これが虫歯や歯周病の原因となります。バイオフィルムに守られて、これらの菌はより強力になるんです」
サトウ「菌を守ってより強力にするって、最悪じゃないですか~」
気づきにくい歯周病
診察の結果、サトウさんは歯周病でした。
先生「サトウさん、やはり歯周病ですよ」
サトウ「本当ですか? 僕、どこも痛くないですよ?」
先生「歯周病というのは最初、痛みや大きな自覚症状がなく静かに進行するんです。いわゆる『サイレント・ディジーズ』というやつですね。だから、気がつかないで放置してしまう人が多いんです。むし歯なら痛みが出ますから、たいていは歯医者に行くでしょう。でも、歯周病は痛みが出ないから、受診しようという気にはなかなかなりませんよね。わかります」
サトウ「僕の友人に、むし歯の治療で歯医者にかかったら、歯周病の治療もすすめられたやつがいます。彼は歯周病だなんて思ってもいなくて、診察料が高いってぼやいていました」
先生「そういう人は多いですね。むし歯や詰め物が取れて、しかたなく歯医者に行ったら、むしろ歯周病のほうが深刻で、治療に時間がかかる人は多いんです」
サトウ「時間がかかるんですか」
先生「深刻な場合はそうですね。でも、40代ともなれば、歯周病でない人のほうが少ないですし、気づかずに放置している人も多いんです。むしろ発見されて、治療を始められたご友人はラッキーですよ。ところで、サトウさんは、歯茎から出血したことはありますか?」
サトウ「あります。歯をしっかりみがいた証拠ですよね!」
先生「いえいえ、出血も歯周病のサインなんですよ。昔、『りんごをかじると歯茎から血が出ませんか?』というCMがあったの、覚えてないですか?」
サトウ「覚えてます。でも僕、りんごでは血は出ませんよ」
先生「歯みがきで出るのも同じことですよ。でも、サトウさんみたいに放置してしまう方が多いんです。口の中の粘膜は出血しても治りが早いので、何もしなくてもすぐに回復しますしね。だから、大したことないと思ってしまうんです。できれば、その時点で受診していただきたいんですけど」
サトウ「歯医者にはできれば来たくないですよ。仕事も忙しいし……」
先生「お忙しいのは、よくわかりますが、実は仕事ができる人や忙しい人ほど、歯医者にこまめに通ったほうがいいんです。現に、超多忙な起業家や経営陣には3カ月ごとに定期検診する人も少なくないんですよ」
歯周病のサイン
サトウ「歯茎から血が出る以外に、歯周病とわかるポイントはあるんですか?」
先生「ありますよ。まずは歯茎そのものをチェックしてみてください。健康な歯茎はきれいなピンク色で引き締まっていますが、歯周病になると、赤くなり、腫れるようになります。サトウさんの歯茎もそうですね。鏡で見てみますか?」
サトウ「たしかに、ちょっと赤いような……」
先生「ブヨブヨとして腫れてもいますよ。腫れて出血したら、すぐに受診ですね。その前にもサインがあるので、本当はそちらを見逃さないでほしいんです」
サトウ「どんなサインなんですか?」
先生「たとえば、朝起きた時に口の中がネバネバする、冷たい飲み物や食べ物が歯にしみるといったことですね」
サトウ「歯がしみるのも、歯周病が原因なんですか!」
先生「はい。早期発見、早期治療が大事なのは歯周病も同じです。軽い歯肉炎の段階なら、歯医者で専門的なクリーニングをして、自分で口腔ケアをきちんと行えば、早く治ります」
サトウ「歯周病と思って見てみると、歯茎が昔より下がったような気がします」
先生「よく気がつきましたね! 歯周病になると、歯茎が下がってくるんですよ。そうすると、歯と歯茎の間にすき間ができて、そこに食べた物が余計に挟まるようになり、ますます悪化していくんです。歯茎が下がると歯が長くなったように見えますから、これもサインですね」
サトウ「たばこを吸った後、歯茎がムズムズすることがあるんです。もしかして、これも何か関係していますか?」
先生「歯茎がムズムズするのも、サインのひとつですよ。軽い炎症があって歯茎が敏感になっていると、なにかの刺激でムズムズすることがあります。たばこの煙にはニコチンや一酸化炭素が含まれていますから、それが歯茎に悪影響を及ぼします。そもそも、たばこそのものがよくない」
サトウ「わかっちゃいるんですけどね。まさか、歯茎にも悪いとは……」
先生「歯周病になりやすくするし、歯周病を悪化もさせます。たばこを吸うと毛細血管が収縮して、歯茎に届くはずの酸素や栄養が減ってしまうんですね。血液内の免疫細胞にも悪影響を及ぼしますし、免疫力も低下します。悪影響がサトウさんだけになら、本人の自由といえるかもしれませんが、たばこは周囲の人にも影響しますからね。親が喫煙していると、子どもの歯肉にも悪い影響があるともいわれています。家族のためにも禁煙したほうがいいですね」
歯周病早期発見チェック
【1】歯茎の色がピンクから赤くなり、腫れたようになる。
【2】歯をみがいたとき、かたいものを噛んだときに歯茎から出血する。
【3】口の中がネバネバする。
【4】口臭がする。
【5】冷たいものがしみる。
【6】歯茎が下がって、歯が長く見える。
【7】歯に食べたものが挟まる。
【8】歯がぐらぐらと揺れる。
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