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累計販売本数450万本! 驚異の工具「ネジザウルス」から読み解くヒットの法則

アイデアを聞いた人: エンジニア 高崎充弘さん(大阪府大阪市)/#大阪府 #ネジ #理論 #ネジザウルス #エンジニア

「工具は年間1万本も売れれば大ヒット」という市場だ。そんななか、累計450万本も売れたすごい商品が、今回紹介する「ネジザウルス」だ。工具業界の常識をくつがえす商品をつくったのは、大阪にある(株)エンジニア。もともとはプロ用作業工具専門の製造販売会社だったという同社が、なぜ大ヒット商品を生み出すことができたのか。代表取締役の高崎充弘さんに、ネジザウルス誕生のきっかけからヒット商品のつくり方までを聞いた。



「ネジザウルス」はどのようにして生まれ、どのようにしてヒットしたのか?


「ネジザウルス」はプライヤーという工具の一種です。プライヤーとは先端部分を開閉して物をつかんだり切断したりする工具の総称で、ペンチやニッパーの親戚ですね。ネジザウルスがほかのプライヤーと違うのは、ネジを外す機能に特化していることです。「ネジ頭をつかんで、回して外す」という動作にすぐれているので、ドライバーでは外せなくなってしまった頭のつぶれたネジや、さびたネジなど、どんなネジでも外すことができます。


先端のタテとヨコの溝(左)でネジの頭をしっかりキャッチし、どんなネジでも外すことができる(右)


今でこそシリーズで450万本も売り上げていますが、最初に商品化した「小ネジプライヤー」(2000年発売)は年間で800本ほどしか売れませんでした。それでも、流通の担当者の評判がすごくよかったので、もっと売れるという手ごたえはありました。エンジニアに入社して20年間、私は800アイテムほどの新商品を開発してきましたが、そうした反響は一度もなかったからです。


市場の広がりはわからないけど、ドライバーで手に負えないネジを外すニーズは確実に存在する。そこで、まず価格を下げることにしました。発売当初の3600円から2400円にしたのです。さらに、商品にも手を加えました。よりしっかりとネジ頭をつかむことができるように、「コマネチ角度」という改良を施したのです(特許を取得)。


コマネチ角度(左)とは、ネジ頭をつかむ先端部分に施した傾斜角のこと。従来のプライヤー(右)よりもガッチリつかむことができる


しかし、値下げしても、機能が向上してもまだ売れませんでした。そこで、当社としては思い切った一手を打つことにしました。それまでとは売る場所を変えて、ホームセンターや金物店で販売してみたのです。創業以来、プロ用工具を専門に扱ってきたので、これまで一般向けの販路をあまり開拓してこなかったのです。


販路開拓にあたって、パッケージデザインを変え、商品名も親しみやすい「ネジザウルス」に変更しました。ネジザウルスという名前は、ネジ頭をつかむ先端部分をティラノザウルスの頭部に見立てたのが由来です。そして、ネジザウルスとして生まれ変わった商品は、2002年8月の発売とともにすごい勢いで売れ始めました。その年に売れた数は7万本です。


その後も順調に推移して、2、3代目を発売すると、シリーズ累計は42万本に達しました。しかし、2008年のリーマンショックで状況は大きく変わってしまいました。不況による打撃や原材料の価格が高騰して、利益率が急激に悪化し、経営危機におちいってしまったのです。


そんな状況で開発を決意したのが、のちに大成功した4代目の「ネジザウルスGT」です。ネジザウルスGTの最大の特長は、「トラスネジを外すことができる」こと。お客さまの声を手がかりに、潜在ニーズを探り当てることに成功したのです。その結果、2009年の販売数は7カ月で7万2000本。その年はわずかながら黒字に転じ、翌2010年には経常利益が約6000万円まで伸ばすことができました。


トラスネジというのは頭の部分が低いネジのこと



ヒット商品を生み出す法則「MPDP理論」


ネジザウルスGTの大ヒットをきっかけに、私はヒット商品には法則性があることに気づきました。それを体系化したのが「MPDP理論」です。それぞれM=マーケティング、P=パテント、D=デザイン、P=プロモーションを表しており、この4つの要素を意識した開発や販売促進活動を行ったとき、その商品やサービスはヒットする確率が高まるというものです。


なかでも重要なのがマーケティングです。1960~70年代はプロダクトアウトというメーカーが売りたいものを売るという考えが主流でした。しかし、作れば売れるという時代でないことはみんなが気づいています。今はマーケットインという買い手が必要とするものを提供するという考えが主流です。


マーケティングにはお客さまへのアンケートやネットのレビュー、お店の担当者に話を聞くなどいろいろ考えられますが、いずれにせよ、留意すべきなのはたんなるお客さまの声ではなく、お客さまの声なき声をすくい上げることです。つまり、潜在ニーズを察知するのです。


ネジザウルスGTを開発するとき、当社に届いていた1000通の「愛用者カード」に着目しました。「グリップをにぎりやすくしてほしい」「先端を細くしてほしい」など多数を占める要望だけでなく、少数意見だった「トラスネジを外せるようにしてほしい」という要望を取り入れたことで、成功させることができたのです。


ただし、少数意見がすべて潜在ニーズであるとはかぎりません。まだほとんどのお客さまは気づいていないけど、一握りのお客さまだけが「あったらいいな」と感じていること。そして、目の前に示されてみると、「そうそう! こんなのが欲しかった」と感動されることでなければなりません。


具体的にいえば、製品と特徴を説明して「……」と約3秒後に理解してもらえることが重要です。3秒より短いと誰でも考えつくレベルなので驚きがありません。逆に3秒より長いとわかりにくいレベルと言えます。


残念ながらわかりづらくなってしまった商品で、「ムッシュマグニ」という携帯用ルーペがあります。最大の特長は可変型で、マグネットがついていることです。


ムッシュマグニ。もともとは細かい作業をする精密ペンチ用として開発された


コンビニや書店でも売りましたが、コンビニではイマイチ、書店ではまあまあという結果でした。動画をつくったり、いろいろプロモーションもしたものの、肝心のネーミングが10秒経ってもわかってもらえなかったのです。


ムッシュマグニという名前の由来。この動画を観てその由来に気づく人ははたして何人いる!?



プロモーションで失敗する「わかりづらい」商品たち


MPDP理論ではマーケティングがもっとも重要だとお話ししましたが、せっかく潜在ニーズを実用化した商品がつくれても、お客さまにしっかりアピールできないと意味がありません。


「ネジザウルスリキッド」という製品は、お店の担当者から聞いた「ネジザウルスGTを買う人は、さび用スプレーも買う人が多いんです」という何気ない一言がきっかけで生まれました。


さびついているネジは、十字ドライバーで回そうとするとなめる(つぶれる)可能性が高くなります。かといって、ネジザウルスで回そうとすると、パワーがありすぎてネジ頭だけ取れてしまう可能性がある。それならば、まずはさびを落とそうという発想です。


ネジザウルスリキッド。ネジの頭やすき間に浸透して、赤さびを分解する


製品開発にあたって、市場に出回っている製品を調べてみると、意外なことがわかりました。さびを取るためのものか、さびを予防するためのものかがわからないものばかりだったのです。さびを取ることと、さびを予防するものは有効な成分がまったく異なります。


でも、売るメーカー側も、販売するお店側も、なんとなくミックスされて売られているという状況でした。さびたネジをはずすことが目的なら、赤さびを分解して、きれいな地肌を出すことが必要です。だから、ネジザウルスリキッドは、「さびが取れる」ことを前面に押し出して、売る人も買う人も一目でわかるようにPRしたわけです。


1年ほど前に発売した「泡タイプ」は、現在、ネジザウルスGTの次に売れています。プライヤーは一度買えばあまり買い替えません。しかし、ネジザウルスリキッドは消耗品なので、リピートがあるという点でマーケットが広がりました。これまで当社にはなかったことです。


プロモーションの最大の目的は商品の特長をしっかりアピールして買っていただくことです。ネジザウルスGTもネジザウルスリキッドも、特長は一つではありませんが、「これぞ!」というものを1つ選んで独自の強みとして表現するのです。


ネジザウルスGT発売時に誕生した「ウルスくん」。プロモーションで効果的な役割をはたした


MPDP理論によって、当社の新商品開発をめぐる取り組みは大きく変わりました。私が800もの新商品を作ってきたような「数打ちゃ当たる」ではなく、潜在ニーズを探り当てた新商品を開発しています。


お客さまの声を聞こうとしない態度は論外ですが、お客さまの声だけを聞いてつくった商品もまた、失敗の可能性を高めます。商品に「そうそう!」という驚きや感動の発生する余地がないからです。


当社には個性的な社員が少なからずいます。英語や数学といった学校の勉強は苦手かもしれませんが、工具が好きでしょうがない社員が何人もいるのです。そんな社員が「こんな工具があったらいいな」と感じていることを形にする。


お客さまが必要としているものをつくるというマーケットイン、メーカーが売りたいものを売るというプロダクトアウトの融合こそ、大ヒットを生む商品開発に欠かせないことだと最近強く感じています。


そうした意味で、つくり手側のこだわりも大事にしたプロダクトアウトの発想も必要なんです。



アイデアのひらめきは圧力釜と似ている


私がネジザウルスシリーズのコアである「ネジ頭をつかんでそのまま回転させて外す」というアイデアを思いついたのは、単なる偶然ではないと思っています。たしかに知識と発明との間に単純な因果関係を見出すのは不可能ですが、少なくとも知識や情報、経験の枯渇からひらめきが生まれることはありません。


高崎充弘さん。東京大学工学部卒業後、造船会社勤務を経てエンジニアに入社。大学時代に学んだ機械工学、造船会社時代にトライボロジー(潤滑や摩擦を対象とする学問)を研究した経験が「ネジザウルス」誕生の布石に


ひらめきが生まれるプロセスは圧力鍋を使った料理に似ています。材料と水を入れた鍋にフタをして加熱したら、最後に弁をゆるめて減圧する。その手順が、新商品などのアイデアを考える際のプロセスとよく似ているのです。


圧力鍋は頭脳で、できるだけ質のよい食材、つまり情報と経験を入れます。そして、ネーミングを考えたり、課題を解決したりするなど、集中して取りかかる。そのあと、頭の中をからっぽにすると、アイデアが形として出てくる。


このとき大事なのは、心身ともにリラックスできる状況をつくることです。私の場合、眠りから覚めたときやサウナがそうです。あえて頭の中を空っぽにできる場所です。その意味で、日々の作業と、新規事業を考えるときは、場所を変えたほうがいいと思っています。


当社では、自由にアイデアを出す「ボケ文殊」「Friday Lab」というミーティングを行っていますが、気が抜けるような雰囲気でアイデアを出しあいます。会社にそういう仕組みがなければ、最初は2人や3人でそういう機会をつくって、何かアイデアが出たら上司に提案してみる。上司がおもしろがってくれれば、会社公認で、いつもとはちょっと違う空間を設定することにつながるはずです。


ネジザウルスも15品種まで進化しました。頭が少ししか出ていないネジ、まったく頭が出ていない皿ネジ、プラスやマイナスではなく六角穴付ボルト、さびついてしまったネジなど、あらゆるネジトラブルに対応できるネジザウルス・ワールドができています。


ネジザウルス・ワールド。どんなネジトラブルも一網打尽にできるラインナップ


メインのトラブルはネジザウルスGTなどで解決できるので、それ以外のニーズはマーケットとしては小さくなります。したがって、売り上げという意味ではアイテム数に比例して上がるというものではありません。


しかし、単なる1品、2品のネジ外し工具では得られなかった「ネジザウルスの世界観」ができつつあるのです。「ネジのトラブルならネジザウルス」というブランドが周知、認知されていくメリットは非常に大きいです。現在はアメリカやヨーロッパなどにも進出していますが、「世界中」に広めてゆき、地球上のネジでお困りの方に愛されるようになればと願っています。




 インフォメーション 

株式会社エンジニア

場所:大阪市東成区東今里2-8-9

電話:06-6974-0028

http://www.engineer.jp/



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