SNSで定期的に「ぶた」のイラストや漫画をアップするふじいむつこさん。その舞台となるのはふじいさんのお兄さんが経営する古本屋「弐拾dB(ニジュウデシベル)」だ。お兄さんの仕事を手伝ったり、傍観したり(?)と、妹目線でさまざまな日常が描かれている。本連載では、そんなふじいさんに古本屋のリアルを描いていただいた。古本屋ってどんな仕事があるのか? 新刊と古本は何が違う? 古本屋で食べていけるのか? 全5回に渡ってお届けする。
古本屋は大変だけど、魅力的?
「兄は古本屋です」と言うとたいていの人に驚かれる。4人兄妹の末っ子である私は自己紹介をするとき、特に取り柄のない自分の話をするよりも兄妹の紹介をしてしまうのだ。
「姉は教師、上の兄は会社員、もう一人の兄は……」と続くのが「古本屋」となれば驚くのも無理はないのかもしれない。
「え、古本屋って……?」と聞き返されることがほとんどである。かくいう私も、兄が尾道で古本屋をはじめたと聞いたときは同じ反応だった。しかも店舗になる建物は元医院で、開店時間は23時から翌3時と深夜営業らしい。
今から6年前、23歳で兄が古本屋をはじめたとき、私は20歳で大学生だった。当時の私のお粗末な知識では古本屋と言われて思いつくのは青と黄色が禍々しく際立つブックオフぐらいであった。
全国の古本屋や古本を愛し古本のために生きている人にとっては無礼千万だが、きっと世の中の古本屋の認知度はそのぐらいのものだろうと自分の無知さを棚にあげる。
そもそも新刊書店と古本屋の違いも怪しい。文字通り読み終わった古い本を売っているのかな?ぐらいの認識だ。あまりに無知な私に、兄は新刊書店と古本屋の違いを大きく2つ教えてくれた。
1つ目は、仕入れ先の違い。新刊書店は出版社から出版取次という流通業者を通して本を仕入れることがほとんどである(まれに出版社と直接取引することもある)。対して、古本屋は個人の不要になった本を買い取って仕入れることが主である。
そんな都合よく古本が集まってくるもんかしら?と思うが、これが意外にも店を開けていると集まってくるらしい。兄の場合、尾道という立地も幸いした。尾道では空き家が多く、要らなくなった家財道具を整理する中で本を譲り受けることもある。まさに捨てる神あれば拾う神あり。
ただいくら神様でも店主が欲しい本ばかり拾わせるわけではない。店の雰囲気、分野、客層に合わない、店主の趣味ではない本を買い取ることもある。そのため、古書組合という古本屋のための組合が開く市(交換会)で、自店で取り扱うことが難しい本を他店に買い取ってもらったり、逆に他店が出している本から好みの本を仕入れたりすることもあるのだという。
古書組合はほぼ各都道府県にあり、一定の加入条件を満たし、加入金や組合費を払えば入会することができる。しかし入会金はうん十万するようで、開業したての古本屋にとっては少々ハードルが高い。
そのため、お金もない、知名度もない、開店当初の兄は自身の手持ちの本を並べていたらしい。実家にあった本を持ち出したという話も憤慨した父親から聞いたことがある。
2つ目は、扱う本の違い。もとより新刊書店で扱わない本があるということ自体が寝耳に水である。新刊書店で扱っていない本というのは戦前に出版された本、絶版本、初版本、美術館の展覧会図録などである。もう手に入れることができないかもしれない本に出会い、実際に触れることができるというのは古本屋ならではの魅力だろう。
また幅広いジャンルの本が大量にある新刊書店に比べ、古本屋は店主の趣味や意向で本のラインナップに偏りが見られるのも特徴的だ。兄の店の場合なら、詩集や純文学、人文科学系の本が多い。そういった点から古本屋同士を比べるのもおもしろい。
さらに古本屋では本だけでなく、古地図や古絵葉書、個人の手紙や写真なんてものも扱っていることがある。もはや古い紙ならなんでもいいのではないかとすら思えてくる。
最近は個人の古本屋もしくは本屋も増えてきたように思う。それも比較的若い人がはじめている。カフェやバー、ギャラリーを併設したようなお店もあり、本にあまり興味がない人でも近づきやすくなっている。そうは言っても古本屋という商売はめずらしく、さらに新卒で古本屋を開業するのはかなりマイノリティーだろう。
兄が就職先を決めずに大学を卒業し、その後古本屋をはじめると聞いたとき、「お兄ちゃん、大丈夫?」と思ったものだが、気づけばお店は6年目に入り、常連のお客さんもいる。やや細身で顔色が悪いときはあるが朝昼晩ちゃんと食べていけている。
私は私で大学卒業後上京し、転職を繰り返した末に尾道に移住。兄の店の向かいにある今にも崩れそうな木造3階建てのシェアハウスに住み、兄の古本屋話を4コマにしてSNSに投稿している。
珍奇な兄妹である。ただ古本屋をしている兄は楽しそうで、それを描く私も楽しいのだ。どうやら古本屋は魅力的な仕事らしい。
ふじいむつこ
1995年生まれ。広島県出身。物心ついた頃からぶたの絵を描く。2020年に都落ちして尾道に移住。現在はカフェでアルバイトしながら、兄の古本屋・弐拾dBを舞台に4コマ漫画を描いている。
Twitter:@mtk_buta
Instagram:@piggy_mtk
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