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  • 執筆者の写真Byakuya Biz Books

元・お笑い芸人はなぜ「のぼり屋」になったのか?(後編) たった1つの個性のつくり方

更新日:2021年8月20日



前編では、「のぼり旗専門」の会社であるエンドライン株式会社が、どういう視点で他社と差別化を図っているのかを紹介した。その秘けつは「早い」「安い」だけでなく「効果」に注目した商品展開にあったわけだが、後編となる今回は、元・お笑い芸人の山本啓一さんはなぜ、のぼり旗の会社を立ち上げたのか? 本人のキャリアを振り返りながら、事業を成功させるために必要な考え方などもあわせて見ていこう。



ブラック企業での激務を経て、のぼり旗で独立


福岡吉本をやめた後、1年間のフリーター生活を経て、サラリーマンになりました。そこがのぼり旗を売る会社だったんですけど、これが今で言うブラック企業でしたね。朝6時に出社して、9時には営業で外に出る。20件回って、5件名刺をもらって、3件見積もりを取るのがノルマでした。社員は3人くらいしかいなくて、私は4年半続きましたけど、みんな1日で辞めていきます。1日目で「山本さん、この会社おかしくないですか?」と聞かれるほどでした(笑)。


当然、毎日のノルマをこなすことは難しいですから、達成できていない分は土・日でカバーします。のぼり旗を買ってくれるのは飲食や不動産などが多いので、イベントやお祭りに出店している会社やデパートの飲食店街へ営業に行かされるんです。たいてい嫌がられますよね。そんな感じで毎日働いていたから、誰かと話す機会もなくて、これが当然だと思っていましたけど、さすがに31歳になったとき、おかしいことに気づきました。


のぼり旗は飲食店や不動産で使われることが多い


また、当時は福岡県出身の堀江貴文さんが活躍していて、同世代なのにかっこいいなって。ここでもまたあこがれからですが、独立を決める要因になっていました(笑)。それで2004年の9月25日にのぼり旗を売る事業で起業しました。朝から晩まで飛び込み営業と電話営業をしました。めちゃくちゃ営業して、めちゃくちゃ行動して、めちゃくちゃ売るだけ(笑)。特にビジョンも何もありませんでしたね。


そもそも、ビジネスモデルは、のぼり旗をメーカーに発注して売る、これだけです。営業先のお客さんからの要望をぼくがデザインして、メーカーに印刷してもらって仕入れる。どんどん安売りしていたから、粗利(売上総利益)も20%いかないくらいで、当時はキャッシュフローも悪かったです。


それでも、創業期は一般的な起業に比べたら、ラクなほうだったと思います。創業からわずか2年、ほぼ一人で年間の売り上げは1億円を超えました。ただ、その後がマズかった。さらなる売り上げの増加を考えて、営業を増員しました。でも、いくら社員を雇い入れても、売り上げは上がりません。当時は「数字が上がらないのは営業マンの気合と根性が足りないからだ!」と考え、日々社員に発破をかけていました。しかし、売り上げは一向に上がりません。


売上低下の原因を考えもせず、日々発破をかけるだけの私についていけず、一人、また一人と社員は辞めていきました。どんなにがんばっても売り上げは毎年落ちていくばかり。そして、ぼくはその原因を「のぼり事業」のせいにするようになりました。



「ぼくたちのやっている仕事に意味はあるんですか?」


売り上げが伸びなくて悩んでいた頃、IT系の動画制作をしている会社の社長と仲良くなって、食事会や会合に参加するようになりました。すると、自分のビジネスがすごくしょぼく見えてきて、価値を感じられなくなってしまいました。創業当初から「のぼり旗に集客効果なんてない」と思っていたので、プライドもなく仕事をしていました。そんな理由もあって、「のぼりはダサい。何かもっと新しくてカッコイイ仕事がしたい」と思いはじめたんです。


今でも思い出す出来事があって、創業2年目ぐらいに入ってきた新入社員に「ぼくたちのやっている仕事に意味はあるんですか?」と言われたんです。すごく腹が立ちましたけど、実際、ぼくらがやっていたことといえば、広告代理店からデータが来て、それをメーカーに横流ししてのぼり旗を作ってもらって、お客さんに納品に行くことでしたから。


当時は2007年ぐらいだったと思いますが、スマホもこれからで、グリーやミクシィが盛り上がっていて、ネットがすべてをひっくり返すみたいな空気がありました。その一方で、ぼくたちは看板設営もしていたので、炎天下で真っ黒になりながら看板を設営して、営業は飛び込み。ある知り合いからは「今どき、そういう(のぼり旗)時代じゃないよね」とまで言われて、もうやめようと思ってしまったんです。


でも、社員が4人いましたから、のぼり旗もやりつつ、新しいことを始めました。動画製作、企業研修、WEBコンサルタント……お笑い研修なんていうのもやりましたね。自分はあがり症なのに(笑)。どちらかというと、人の上に立とう、という商売を始めていました。ただ、動画制作でも研修でも、その分野で生きるプロがいるわけです。いくら安くしても、クオリティーが低いから、売れるわけがありません。事業を広げれば広げるほど、売り上げは下がる始末。何をしている会社なのかわからないんですからね。


現在では社員11名、その多くが20代という若い社員で構成されている


その結果、本業の売り上げが5700万円まで落ちてしまいました。4期連続赤字です。今でこそ断言できますけど、年商2~3億円の個人事業主や中小企業の経営者で、名刺に3つも4つも事業が書いてあったらアウトですよ。うまくやれる人もいるでしょうけど、基本は1つに事業を絞らなければいけません。



明確なミッションが生まれるきっかけとなった、お客さんのひと言


とにかくこの時期は迷走していて、IT系の次は飲食に進出しました。のぼり旗を売るために飲食店のオーナーが集まる会に入ったんです。飲食業は非常に厳しい世界ですけど、儲かる人はとにかく儲かる。そこで、「そうだ。BtoBの商売が私に合っていないんだ。目の前でお客さんが喜んでくれる商売をしよう!」という言い訳を思いついたんです。


そして、知り合いの社長さんから、うどん店を買いました。100万円か、200万円というなけなしのお金を払って。日中はうどん店、夜は居酒屋という業態です。うどん店なのに、スーパーで買ってきた冷凍うどんを出していたから、もちろんお客さんはあまり入りませんでした。広告費をかけるお金もなかったですし。


当時のうどん屋


ただ、それでもたまにお客さんは来てくれました。広告も出していないのになぜだろうと思って、お客さんに聞いてみたんです。すると、「外ののぼりを見たからだよ」という答えが返ってきました。そのとき、「のぼり旗は効果がある」と気づいたんです。それまでお金を稼ぐ納品物でしかなかったのぼり旗が、のぼり旗を使うユーザー側になって初めてその効果を実感することができた。それから、いろいろ実験してみると、おもしろいことがわかりました。


「肉うどん」ののぼり旗を出した日は、「肉うどん」の注文が増える。

「辛みそうどん」ののぼり旗を出した日は、「辛みそうどん」の注文が増える。


その日の立てるのぼり旗によって売れるメニューが変わったんです。この頃から、「のぼり旗で集客できる。効果がある!」と思うようになりました。そして、「効果のあるのぼり旗を届けたい。のぼり旗で町を盛り上げたい」という思いが強くなり、うどん屋を閉めて、のぼり旗一本に絞ることにしたんです。事業を絞った結果、少しずつですけど、赤字から黒字へ転換するようになって、現在に至ります。


当時ののぼり旗


ぼくはかなり苦しんだ末、やっと芯となるミッションができました。そして、そのミッションを軸にいろいろなアイデアが生まれました。結局、自分の体験からしか出ないんです。だから、社員には、いろいろなことに挑戦して、見たことがない世界を見たほうがいいと伝えています。



のぼり旗は今こそ、効果を発揮する販促ツール


エンドラインを創業して約15年が経ちました。紆余曲折を経ましたが、ぼくたちはこれに命をかけています。のぼり旗はたくさんある販促ツールの一つでしかないんですけど、のぼり旗は費用対効果がいいツールなんです。1枚数百円ですから、10枚頼んでも1万円以下で告知できます。看板を設置したら100万円はかかりますよ。


さらに、のぼり旗は手軽に取り替えられます。こんな販促ツールはなかなかありません。ぼくが迷走していた頃、のぼり旗は時代遅れだと言われましたけど、今こそ効果を発揮するツールです。


小売業でも飲食業でも、いかに来客数を増やすかが最大の課題です。なんでもデジタル化が当然のような時代ですが、実店舗に関して言えば、ネットは来客にあまりつながらないんです。多くの人が勘違いしていますが、ネットはあくまでも遠隔戦であって、接近戦をどうするかといえば、のぼり旗やポップなんです。


最近、店先で「PayPay(ペイペイ)使えます」というのぼり旗を見かけませんか? 店内でもアマゾンや電子マネーのポップがレジ横にありますよね。最も影響力が強いのはレジ横、その次が店舗の外、一番弱いのがネットです。リアルな現場ではとても強いツールなんです。


ムーンバナー(左)。専用フックで壁に設置可。ポールフラッグ(右)。吸盤でガラス面に簡単に固定でき、小さく軽量なので持ち運びにも便利。


最終的にぼくたちが目指しているのは、オリジナル品を売るのではなく、既製品をECサイトで売っていくことです。お客さんはおもしろいのぼり旗を買いたくても、具体的なものをイメージしづらいんです。デザインから受注するよりも、「1000種類あるから、選んでください!」とECサイトでデザインがラインナップされていれば、「これ、おもしろいな。じゃあ買おう!」とシンプルになります。当社では、社名やロゴを入れるなどの単純なデザイン修正のみで済みますし、ご入稿いただく際のデザインの参考にもなりますよね。


まずはECサイトで、そのあとはサブスクリプションも考えています。「月額5万円で○枚交換できる」という形です。お客さんは、いろいろ試して費用対効果を実験することができます。サブスクが流行しているから、そのままウチでもやろうというものではりません。あくまでも効果にひもづいていないといけません。新しいアイデアを考えるときはいつもそうです。


こうしたビジネスモデルを実現するためには、自分たちから情報を発信して、興味を持ってくれた人たちにアプローチする必要があります。ブランディングの重要性は、年々高まっていると思います。「のぼり 製作」で検索すると、山のように業者が出てきます。そのなかで当社にアクセスしてもらうのは相当難しい。だからそうではなくて、「エンドライン」なり「おもしろいのぼり旗」などで検索されるようにならないと、決して勝つことはできません。だから、のぼり旗=エンドラインというブランドを確立したいと思っていますね。


のぼり旗はニッチな業界です。のぼり旗の会社と聞いて、パッと思い浮かぶ会社はありませんよね。牛丼といえば吉野屋、ビールならアサヒビールとか、何か一つは会社や商品の名前が出てきますけど、それが出てこないということは業界自体がニッチということです。だから、ぼくが積極的にメディアに出るようにして、なるべく業界自体の認知度をあげていくことも必要だなと思っていますね。

 

エンドライン株式会社

福岡市中央区天神2-3-36 ibb fukuokaビル4F

TEL:050-5269‐2990

 

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