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  • 執筆者の写真Byakuya Biz Books

独身の日に62億円も売り上げた“美顔器のエルメス”はなぜ中国で成功できたのか?


皮膚が薄い目もとのケアに特化した、目もと専用の家庭用高級美顔器「The Horuseye」


ARTISTIC&CO. GLOBALは、2017年に設立された高級美顔器メーカーだ。日本メーカーにおける、10万円以上の高級美顔器の全世界販売台数においてシェア約8割、2022年の独身の日ではたった1日で62億円の売上を達成するなど、同社の高級美顔器は売れに売れている。そんな美顔器メーカーを率いるのは、今注目の女性経営者の金松月さん。成功の秘訣を聞いた。



成長を続ける美顔器市場


――美顔器ってどういう目的で使うものなんでしょうか。


美顔器といってもすごく幅広くて、電気を使わずに動かすものもあれば、電気を使う商品もありますが、一般的には電気を使うものがメインです。そして、電気を使うことでお肌本来の力を引き出したり、普段使っている化粧品の浸透性をよくしたりします。食品で例えると、食べ物が化粧品で、サプリが美顔器になりますね。


――やはり女性がメインターゲットですか?


そうですね。年齢で言えば、5~6年前に参入したときは美顔器が必要な世代、たとえば50代以上の方がメインでしたが、今はSNSで美容情報がたくさん出ていることもあって、20代も増えてきました。ただ、すべての女性が美顔器を使っているわけではありません。そういう意味でも、市場がこの先グンと伸びる可能性があります。


だからか、参入する会社が増えていますね。薬のように国家資格を取る必要はないので、医療従事者じゃなくても取り扱うことができます。それゆえ、誰でも参入しやすい市場と言うことができます。工場をはじめとした物理的なハードルはあるものの、資格面ではハードルが低いんです。


――競争が激しいわけですね。


私はいいことだと思っていて、美顔器市場にいろいろな方たちが参入してくれば、美顔器を使いたいと思ってもらえるきっかけにはなります。つまり競合というよりは協業のようなイメージです。もちろん競争はありますから、その中で選ばれるブランドであればいいんです。


――では、エステ業界はどうでしょうか。家庭で済ます人が増えてしまう、といったように敵対視されてしまったりするんでしょうか。


たしかに、美顔器があったらお店に来ないんじゃないかと懸念されるかもしれませんが、実際はそんなことないんです。人間の心理って、お肌がキレイになると化粧したくなり、化粧するともっと手をかけたくなり、次はお洋服が欲しくなり……となる。つまり今の消費者はおうちでのケアがいかに大切かがわかっているんですね。


だから、おうちケアの一つとして美顔器を使っています。エステでその場でよくしてもらうこととは根本的に違うんです。



高級美顔器に欠かせないことは?


――美顔器自体はいろいろな価格帯がある中で、貴社の商品は高級カテゴリーに入るわけですよね。


そうですね。


――高級路線は美容市場で伸びているんですか?


今は海に行ったら日焼け止めを塗るのが当たり前になっていますよね。紫外線を予防したり、保湿をしたり、つまり予防美容という言葉も当たり前のようになってきました。それは、自分への投資なんです。お肌はすごく大切だから、いいものを使いたいというニーズがあって、どんどん高級化しています。化粧クリーム50gで何10万円もするのが女性の美容市場なんです。


――そうした動向を読んで高級路線に?


いえ、最初からです。新商品を作るときもそうですけど、マーケットインという視点で開発しないんです。「ターゲット層はこれぐらいいて」「生産数から逆算して原価をここまで抑えて」というプロセスではなくて、出来上がったものに対して原価がいくらかかり、だから価格はいくらにしようというプロセスを重視しています。


「この価格で買える人はどれぐらいいて」「それに対してどのくらい生産の準備をするか」といった逆算はしますけど、目標販売価格に合わせてコストを削るということはしません。


――それはかなり攻めた方針ですね。


当社の基本方針は、ものづくりに妥協しないことなんです。それはデザインにも言えて、デザインに特にこだわっているんですけど、それはつまり、コストも上がることを意味します。


納得のいくデザインを達成するためには、金型もたくさん作らないといけないし、組み立ての工程も難しくて、いろいろな工程を考えないといけません。その結果、ロスも出やすくなります。そもそも日本国内で美顔器を専門で作っている工場はあまりないと思うんですよ。日本製で、品質、デザインを追求しているので、必然的に高価格帯になっています。


――機能だけでなくて、見た目も大事なんですね。


目を引くことって大切だと思うんです。そもそも美顔器は機能があって当然です。その上で付加価値は何かを考えたとき、体感なんですね。それが家に置いてあってワクワクするデザインだと考えました。


たとえば、高価格の商品の品質や結果が悪かったら何の意味もありません。おそらく、ハイブランドの買い物をするとき、「このバッグって重たい荷物を入れて壊れませんか?」とは聞かないし、エルメスに行って「このバッグってどこで作ってますか? 本革ですか?」とは聞きませんよね。それと同じで、品質はよくて当たり前。見て感動、使って感動、結果に感動っていうのが、お客様との約束ですね。これがブランドとして大事にしていることです。


――ホームページでは「医師が認めた」「5万人突破」といった言葉も並んでいます。メッセージを伝えるときに気をつけていることはありますか?


安心・安全ってすごく大切なんですね。プロではない一般の方でもリスクのない範囲で結果を出すことができる。その特徴をしっかり伝えることを意識しています。それは「医師が認めた」だけではなくて、どれだけの数を販売したかにも表れると思っています。


――というと?


実験はもちろん大切なことですが、エビデンスを取るのも100%ではありません。ですから、データを取りながら、つねに改善していかなければいけません。その点で、100万人に使っていただいたというのは、それだけデータを集めて改善してきた結果だと言うことができるわけです。


シリーズ最高峰にして初のIoT美顔器「ZeusⅢ」



免税店を足掛かりに中国市場を開拓


――現在のメインマーケットは中国とのことですが、売上のうちどのくらいを占めるんですか?


8割近くが中国です。日本の割合をもっと増やそうと思っていますね。


――それは人口の多さも影響がありますか。


それもありますが、もともと日本の場合はクローズドマーケット(特定の人に限定した市場のこと)、中国ではオープンマーケット(不特定多数と商売をする市場のこと)を主体にしていたこともありますね。2年ほど前から日本でもB to Cに力を入れていて認知も獲得しています。元々日本ではプロのエステティシャンに認められた商品だったので。


――最初はB to Bだったんですね。


そうですね。15~6年前ですね。最初はオンライン販売もせず、基本的にはエステサロンさんに卸していたので。


――そこからどうやって市場を開拓したんですか?


私は2015年に通訳・経理担当として入社したんですけど、展示会に参加したり、営業活動にもチャレンジしていたら、中国企業の大型受注に成功したんです。それをきっかけに新会社ARTISTIC &CO. GLOBALが設立されて、私が取締役に就任して。そして、免税店とECを活用して、中国と韓国の販売を強化したんです。


――免税店に最初に目をつけたのはなぜですか?


中国進出したときに、世界で通用するブランドを作りたいと思ったんですね。そしてパッと思い浮かんだのが免税店でした。それが最速の方法だと考えたんです。というのは、いろいろな国の人が通るじゃないですか。特に昔は旅行に行く=買い物目当ての方がとても多かったですから。


――いきなり免税店で取り扱ってもらえたんですか?


もちろんブランド力がないので相手にしてもらえませんでした。ですから、離島の免税店を攻めたり、百貨店の免税店コーナーで実績を作りました。そしてほかの空港、国にも攻めていけるようになりました。私も最初は2週間ぐらい現地に行って、販売店舗に立っていましたね。


――中国市場でいうと、2022年の独身の日では62億円も売り上げたそうですね。


はい。2018年は1日で5億円、2019年は20億円、2020年は30億円、2021年は50億円……と毎年売上を伸ばしました。


――ちなみに、独身の日ってどういうものなんですか?


中国の通販最大手「アリババ」グループがECサイトで行った販促イベントが始まりです。そこから「買い物の日」というイメージが定着して、2020年はセール期間中に9兆円に迫る売り上げを記録したそうです。


1年間で最も安く買える日なので、消耗品を1年間分買ったりする人たちもいましたし、メーカーもものすごく売れることがわかったから、その日に向けて新商品を販売するようになって、一つのお祭りみたいなものです。日本であえて言うなら、福袋が近いかもしれませんね。


ただ最近はちょっとずつ落ち着いてきたように思います。メーカーもわざわざ安く売りたいわけではないですから。当社も多少安くしたことはありましたが、やはりブランドのイメージもありますので、ここ数年は安さでアピールするのではなくて、その日にしか売らない限定品を用意するようにしました。


――現在、中国ではどんな位置づけなんでしょうか。


当社は美顔器のエルメスって言われています。進出してすぐの頃、中国のSNSで「美顔器のエルメスみたい」と言われるようになったんです。もちろんエルメスを意識したわけではありませんが、当社は化粧箱にすごくお金をかけているんですよ。高価なものなので化粧箱に入れていたんですけど、箱の代わりにバッグを作ろうと。そして普段から使えるようなバッグを作ったんですけど、それがたまたまオレンジ色だったんです。そうしたら、作った5000個がすぐに売れてしまいました。


ある意味、お客様に評価していただいた証でもあると思いますし、先方に迷惑をかけない努力をしないといけません。さらに言えば、何かに例えられるのではなく、当社のブランドとしてもっと認知を取れるようにならないといけないと思いましたね。


「M / mika ninagawa」とのコラボレーション商品



インスタライブでリアル感を演出


――中国だけでなく、日本国内の年間販売台数でも18万5031台を記録し、国内のトップシェアを獲得しています。日本ではリアル店舗がメインですか?


百貨店に入っている店舗でお客様が試した場合、ほぼ100%の確率で購入していただけるといった強みはありますが、今はSNSや口コミがあるおかげで、オンラインでも購入していただけています。昔は高価なものをネットで試さずに買うなんてことは、なかったかもしれませんが、今は高級品だからといって、必ずリアル店舗で試してから買うばかりではないんです。


――最初のタッチポイントは、オンラインが多いですし、そのままオンラインで購入されるんですね。


そうですね。ユーザー情報を得るのはやはりスマホが多いので、当社も積極的に強化していきたいと思っています。その一つがInstagramでのライブ配信で、だいたい週1で行っています。海外では当たり前の手段で、これは日本の消費者のためになるものだと思っているんです。


なぜかというと、日本では周囲に気を使う人が多いので、たとえば百貨店でいつも資生堂の店舗で化粧品を買っていたら、隣のSK-II(エスケーツー)の店舗には入りづらいと考える人が多いんです。もしクレームや聞きたいことがあっても遠慮して言えなかったり。ライブ配信では自分の身分を明かさずに発言できますし、ほかの視聴者がいる場所で発言できる。お客様の質問に対して返事してくださる視聴者もいて、そういう意味ではリアルに一番近い場所がライブと言えます。


――ライブは反響がいいんですか?


はい。インスタライブでは社員が出ていたり、インフルエンサーの力を借りることもありますが、メーカーの立場でできることと、第三者ができることは違うので、それぞれの特徴を活かしながら行なっています。


また、年に3回だけ、24時間ライブを配信しています。タイムセールを実施したり、24時間の中で合言葉をいくつか出して、答えられた方にプレゼントを差し上げたり。お祭りみたいなノリですね。


――ライブ配信でクレームが来てしまうのは、リスクではありませんか?


メーカーにとってはリスクかもしれないんですけど、ちゃんと向き合えば信用につなげることもできます。ちなみに、問い合わせの連絡をしたとして、日本なら1~2日お待ちいただくのはふつうかもしれませんが、中国の場合だと10分でクレームになってしまいます。


――たった10分で!?


そうです。 だから、基本的にチャットでのやり取りをしています。当社の場合も、積極的に取り組んでいますが、それがある意味、お客様にとっては一つの感動につながるわけです。


――日本では、リアルとオンラインの割合はどのくらいだったんですか?


リアル9:オンライン1ぐらいでしたね。逆に中国では8割ぐらいオンラインです。


――ちなみに中国ではどんなライブ配信アプリを使っていますか?


中国版TikTokの「Douyin(ドウイン)を活用したほか、ほとんどのオンラインショップにライブ機能が備わっているんですよ。インフルエンサーが実演販売してくれたり、ショップチャンネルみたいなものですね。


――今後はもっとオンラインでの販売が増えていくでしょうか。


今は何をもって「オンライン」と言うかが難しくなっていると思っています。オフラインで販売しても、ほとんどの百貨店もオンラインショップを持っています。オフラインで体験してオンラインで買ったり、オンラインで知って、オフラインで実際に体験して買ったり。もうオンラインとオフラインが融合されている状態ですね。だから相乗効果というか、結局は一緒だと思っています。


当社もコロナ禍で販売はもちろん、実店舗での体験が難しくなっているという点で大きな影響を受けました。ただそれをきっかけに、オンラインで無償で1カ月試していただくとか、サブスクの導入とか、リアルに近いオンラインのあり方を模索することができましたね。




中国と日本の違い


――中国と日本のビジネスの違いにはどんなものがありますか?


まずは在庫に対してのバランス感覚です。日本では半年待っても欲しいと言われるものってあると思いますが、中国では一つのブランドが半年欠品させたらおしまいですね。もちろん在庫切れ自体はしょうがないですが、長期間を切らせてはいけない。そうすると乗り換えられてしまいますから。伸びるチャンスがあるだけに、急激に落ちるリスクもある。チャンスとリスクは必ず比例するものですから。


それと、スピード感も重要です。日本と中国のユーザー層の違いでは、もちろんキレイになりたいというニーズは共通していますが、中国では、自分への投資と考える人が多いんです。株を買うのも投資ですけど、自分の美容にお金をかけるのも一つの投資だと考えて、貯金よりも美容に投資する傾向があります。日本のユーザーより積極性はありますね。スピード感はB to Bでも同じことが言えて、決定権を持った人じゃないと、なかなかうまく進められないと思います。


さらにもう一つ挙げると、「日本製だからいいもの」という認識は捨てたほうがいいと思います。「日本製」と書いておけば売れるというものではないということですね。「日本製」に対して求められるものが、日本人が考えるよりも高度なものです。少しでも質が悪いと、「日本製なのになんで?」と言われてしまう。当社の製品の中には、24金を使っているものもありますが、やわらかいので傷がつきやすいんですね。すると、あらかじめ説明しておかないと、「なんで傷がついているの?」と言われてしまいますから。


――最後に今後の課題、または重視していきたいことはなんでしょうか。


この数年は認知度アップだけではなくて、お客様の共感を生むことも重視しています。これまで累計100万台を販売してきた中で思うのは、やみくもにプロモーションするのではなくて、今のお客様を大切にすることで、それが口コミになり、紹介につながるということです。今いるお客様を大切にできなかったら、新しいお客様ももちろん大切にできないと思っていて。今年は特に、既存のお客様へのアフターフォローに力を入れてやっていきたいと思っています。


 

金松月さん/日本メーカーにおける、10万円以上の「高級美顔器」の全世界販売台数においてシェア約8割という美顔器メーカーARTISTIC&CO. GLOBAL代表。1983年6月10日中国 吉林省に生まれる。 2015年ARTISTIC&CO.に通訳・経理担当として入社。入社半年後に通訳として参加した展示会で大型受注を獲得。先代社長から能力を認められ、ARTISTIC&CO. GLOBALが設立される。ECと免税店を活用した販売戦略があたり設立2期目売り上げ156億円を記録。

https://artistic.co.jp/

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