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  • 執筆者の写真日下賢裕

異世界転生に憧れたらブッダになれた件!?【ぼんやり仏教③】



異世界転生の楽しさって、仏教でも味わえるもの!? 今回も、浄土真宗本願寺派の僧侶・日下賢裕(くさか・けんゆう)さんがぼんやり思考をめぐらせました。



「異世界転生」が流行っているけれど……?


 ここ数年一大ブームとなっているのが「異世界転生」をテーマにした作品。ライトノベルからマンガ、アニメ、ゲームと一大ジャンルとして確立された感があります。


 異世界転生ものの醍醐味といえば、やはり「チート能力」ですよね。私たちの生きる現実世界では絶対にあり得ない超能力やパワーを獲得し、「無双」状態となってあらゆることを自分の思い通りにできる。そして何者でもなかったモブがヒーローとなっていく。この爽快さが大きな魅力として人気となっているのでしょうか。


 とはいえ、異世界転生ものも多様化が進み、一概にそのようなものばかりではなく、異世界だけどやたら現実的、なんてシニカルな物語もあったりするようです。それでもこれだけ「異世界転生」というジャンルの作品が多く見られるようになったのは、チート能力に憧れるだけでなく、「今とは違う人生を歩みたい」とか「ここではない別の世界で生きてみたい」という願望のようなものを持つ人が増えたから、と考えられます。裏を返せば、それだけこの現実世界がシビアで思い通りにならない、辛い世界であるのかもしれません。


 しかし、いくら異世界転生に憧れてみても、残念ながらこれらの物語はフィクション。現実には異世界転生なんてことはあり得ないでしょう。もちろん私が知らないだけかも知れませんし、「憧れの異世界転生」を実現させたいと思って生きることもおおいに自由です。ただ、本当に起こりうるかを考えると、やはり非現実的なものであるという結論に至るのではないでしょうか。



往生極楽のススメ


 異世界転生はあり得ないのか……とお嘆きのあなたに朗報です! 私たちには「往生極楽」という道が開かれています!


 「往生極楽? なにそれ?」と思われる方もきっとおられることでしょう。そんな方のために少し説明をいたしますと、「極楽」とは「極楽浄土」という世界のことです。「浄土」とは「仏国土」とも呼ばれる仏の世界、さとりの世界を表す言葉であり、いろんな仏様がそれぞれに「浄土」を持っておられます。その一つである極楽浄土は、阿弥陀仏という仏様によって建立された世界。「安楽国」とか「安養国(あんにょうこく)」という別名もありますが、その名の通り、苦しみや悩みの全くない世界です。


 そして「往生」とは、その「浄土」に「往き生まれる」こと。ですから、往生極楽とは、阿弥陀仏の極楽という世界に往き生まれることを意味しています。


 でも、おそらく皆さんはこう思うことでしょう。「本当にそんな世界があるの?」とか、「それもフィクションでしょ?」と。私にもはっきり「ある」と証明することはできません。しかし、ただのフィクションと異なるのは、この阿弥陀仏という存在や極楽という世界が、あのブッダの教えであるお経の中に説かれている点です。私たちには見ることができないけれど、ブッダのようにさとりを開いた人には見える世界がある。実際にブッダはそれを見るための方法を説かれており、そしてその往生極楽をブッダ自身が勧めています。


 ですから、異世界転生に憧れる人は一度、往生極楽を目指す教えを聞いてみるのも良いのではないでしょうか。



チート能力もあるよ!


 そして私が異世界転生に憧れる方に、往生極楽をオススメするのは、なんと極楽に生まれると、もれなくチート能力も得られてしまうからです。


 極楽に生まれると、私たちはそこで仏となることができます。「仏になるとどうなるかというと、6つの超能力=「六神通」が身につきます。どんな超能力か簡単に表現するとこんな感じ。


・神足通(じんそくつう)

自由自在に思う場所に移動できる力。飛行に水面歩行、壁抜けもできちゃう。


・天耳通(てんにつう)

あらゆる音や声を聞き取る力。


・天眼通(てんげんつう)

あらゆる世界を見通す力。因果の道理も全部見通せちゃう。


・他心通(たしんつう)

他人の心の中がわかっちゃう力。


・宿命通(しゅくみょうつう)

人の過去世(前世)が見える力。


・漏尽通(ろじんつう)

煩悩がなくなり、二度と苦しみの世界に生まれ変わることがない(=解脱した)と覚知する力。


 いやあ、素晴らしいですね。これらを用いれば、あらゆることが自分の思い通りにできてしまう、まさにチート能力です。



ホスピタリティも充実!


 さらに「極楽」では、素晴らしいホスピタリティが充実しています。


 例えば食事。我々の世界では、材料を購入して自分で作るか、あるいはお金を払って食事をしなければなりません。しかし「極楽」ではそんなことをする必要がないのです。「お腹が空いたな」と思うと、瞬時に食事が目の前に現れます。そしてそれを見た瞬間に、空腹が満たされる。なんと食べる必要すらないのが「極楽」です。


 さらに衣服の心配をする必要もありません。着たいと思うだけで、思うがままに着たい服を着ることができ、衣服を作ったり染め物をしたり洗濯だってする必要がありません。


 そして気候は常に暑からず寒からずちょうどよく、また身体を清めようと沐浴すれば、水はちょうどよい温度となり、水位も膝から腰、腰から首と自由自在、もちろんシャワーのように身体に注ぎかけることもできちゃいます。


 私たちの日常でしなければならないことの全てが、何の煩わしさもなく自由自在、思うがままにできてしまう。そんな最高のホスピタリティがあなたを待っている。それが極楽という世界なのです。




往生極楽の真の目的


 いかがでしたでしょうか。私たちの現実を遥かに超えたチート能力とホスピタリティが待つ極楽浄土。だんだんと「往生してみたい……!」という気持ちが高まってきたのでは!? しかし、これらのチート能力もホスピタリティも、実は単なるオマケに過ぎません。


 ブッダのお弟子であり親族であるダイバダッタという人物も、六神通というチート能力に憧れて、それを手に入れたいとブッダに懇願したことがあります。ところがブッダは、「そんなものはただのオマケだから」と取り合ってくれなかったそう。

 六神通は確かにものすごいチート能力なのですが、それは極楽浄土に生まれ仏となる本当の目的ではなく、ただのオマケ、副産物にすぎないからです。


 では、極楽浄土に往生し、仏となることの本当の目的とはなんなのでしょうか。それは、苦しみを抱えたあらゆる命を救うことにあります。六神通はそのために必要な、いわば手段に過ぎません。あらゆる命を救うために必要な力こそが、六神通というチート能力なのです。


 異世界転生の物語では、チート能力は悪者を打倒し、自らがヒーローになっていく、いわば自分の願望を満たすための道具です。しかし、仏と成ることで得られる力は、自分が無双するためのものでも、現実世界では実現できない願望を満たすためのものでもなく、あくまで他者を救うための力、「利他」の力なのです。仏となることは、自己に執着することなく、自己の欲望や願望すら吹き消えて、全てが他者のためという「慈悲」に目覚めた姿です。そして苦しみを抱えたあらゆる命を救うことを実現していくことこそが、極楽浄土に往き生まれること、そしてそこで仏となることの、真の目的なのです。


 異世界転生に憧れを持っている皆さん。異世界転生もよいですが、ぜひ一度、往生極楽を目指すための教えに出会ってみてはいかがでしょうか。



今日の一筆



【今日学んだお坊さんのことば辞典】

極楽浄土(ごくらくじょうど)

阿弥陀仏によって建立された世界。苦しみや悩みのまったくない世界

 

日下賢裕(くさか・けんゆう)

1979年生まれ。石川県にある、浄土真宗本願寺派の白鳳凰山恩栄寺(はくほうおうざん おんえいじ)の住職。インターネット寺院「彼岸寺」の代表も務めている。法話は時事ネタを扱うことが多い。


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