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  • 執筆者の写真日下賢裕

仏教界のスーパープログラマー【ぼんやり仏教⑤】


どんな俳句を検索しても必ずヒットする全俳句データベースに阿弥陀を見た!? 今回も僧侶・日下賢裕(くさか・けんゆう)さんが、ネットで話題になったサイトから思考をめぐらします。



すべての俳句が必ずヒットする「全俳句データベース」


 ここ数年、俳句が再注目されています。俳句がバラエティー番組でも人気となり、俳人の夏井いつきさんのことは知らない人がいないほど。

 そんな俳句の世界に、つい最近、とうとうとんでもない技術的革新が起こってしまったことをご存じでしょうか? それは「全俳句データベース」と名付けられたデータベースです。


全俳句データベース


「全俳句データベース」は文字通り、五・七・五からなるすべての俳句を網羅したデータベースです。どこが革新的なのか、それは、「文字通りすべて」というところにあります。つまり、過去から現在までに生み出された俳句だけではなく、これから、すなわち未来において作られるかもしれない俳句すら、この「全俳句データベース」にはもうすでに記録されているという代物なのです。


「未来の俳句まで? そんなバカな!?」と思われる方もおられるでしょう。その気持ちはよくわかります。私も半信半疑で、2年生の息子が作った、まだ世には出していない俳句をデータベースで検索しました。すると、見事にヒット。これは本物だと確信しました。


 ……というのは冗談で、実際には「全俳句データベース」はすべての俳句を収録しているものではありません。このウェブサイトでは、俳句を構成する十七文字に「あ」から「わ」までのすべてのひらがなを当てはめて、「総当たり攻撃」のように生成しているのです。一種のジェネレーター(生成器)ですから、まったく意味をなさない、17個のひらがなの文字列になることがほとんど。しかし、時々意味を成す言葉となり、さらに稀に、季語の入った俳句ができあがることがあります。松尾芭蕉や小林一茶の名句も、十七文字のひらがなの音から作られたものなので、「総当たり」したものの中に含まれることになり、記録されナンバリングされているように見える仕組みです。


 同様に、今生まれたばかりの俳句を入力しても、ナンバリングされてすでに記録されているようにも見えますが、これも「あああああ あああああああ あああああ」から数えて何番目になるのかを表記しているに過ぎません。ですから、本当は「ジェネレーター」と名付けるべきものなのですが、これを「データベース」と名付けたところに非常に面白味が感じられました。


 それもそのはず、このデータベースの着想はなんとコントから生まれたのだとか。あまりネタバレしても面白くありませんので、ぜひ実際のコントをご覧いただければと思います。


Gパンパンダ コント「俳句名人」リンク挿入


 さて、そんな「全俳句データベース」、なぜか私に非常に刺さりました。なぜだろうか?としばし考えていたのですが、これは「阿弥陀仏」という仏さまに通じるものがあるからでは? ということに思い至りました。



すべての人間に向き合いたい


「阿弥陀仏」はこれまでにも触れてきましたが、主に「浄土教」と呼ばれる仏教のグループで大切にされる仏さまです。阿弥陀仏がどういう仏さまなのか、を一言で表現するならば、「過去から未来に至るまで、ありとあらゆる有情(命あるもの、但し植物は除く)を苦悩から救済する」という誓いを打ち立て、それを実現可能とした仏さま、と言えるでしょうか。


 といっても、同じ人間でも抱える苦悩がそれぞれに違っています。そのため、お釈迦様は「対機説法」という方法で、一人ひとりの違いに応じて教えを説き、導いていました。しかしお釈迦様も人間。寿命には限りがある存在です。多くの苦悩の有情を救いたいと願ったはずですが、全ての命を網羅し尽くすということは叶いませんでした。しかし、その無謀とも言える難題に挑まれ、仏となったのが阿弥陀仏なのです。


「命にどれだけ違いがあっても、間違いなく救われていく(=仏と成れる)ようにするためにはどうしたらいいだろう?」


 あらゆるパターンを網羅し、すべての違いに適応し尽くすために、まず「五劫」という時間をかけて思考しその方法を見つけ出しました。ちなみに「劫」というのは古代インドにおける時間の単位で、最長のものであり、「4000里四方の城に芥子粒がぎっしり詰まっており、その中から100年に1粒ずつケシ粒を取り出していって、城の中のケシ粒が完全になくなっても一劫に満たない」と例えられるほどのとんでもない長さの時間を表します。「五劫」とは、その5倍ということになりますから、これまたとんでもない長い時間です。


 そしてその「五劫」の思惟の果てに、ありとあらゆる有情を苦悩から救済する方法を見つけるわけですが、今度はその方法(システム)の構築に、さらに長い長い時間をかけます。『仏説無量寿経』には「兆載永劫」と表現されていますが、我々人間ではもはや計り知れない時間ということでしょう。そうやって、ありとあらゆる有情を苦悩から救済する方法を完成させたのが、阿弥陀仏です。




スーパープログラマーが生んだ「阿弥陀仏」!?


 阿弥陀仏は、仏と成る前は法蔵菩薩、という存在でした。例えるなら、法蔵菩薩というスーパープログラマーが、過去から未来におけるありとあらゆる命が「仏と成れる」システムを開発したいと願い、その方法を「五劫」という時間をかけて考え、さらに長い時間をかけて構築した。そのシステムは「阿弥陀」と名付けた。その中には、ありとあらゆる命が網羅され尽くしてあり、私たちはそこに「南無阿弥陀仏」というたった6字の言葉でアクセスが可能となっています。


 まるで「全俳句データベース」で新たな句を検索した瞬間、すでにデータベースに記載されているように、「南無阿弥陀仏」というこの言葉を念じてアクセスした瞬間、私の存在も、これを読んでくださっているあなたの存在も、その「阿弥陀」のシステムの中に収まっていくのです。それによって、お釈迦様のように自分で修行をして仏と成れない存在である私もまた「仏に成る」ことが、実現可能になっている。適切ではないかもしれませんが、こんな例え方をしてみると、わかりやすいでしょうか。



天文学的な数の悩みに対応


「全俳句データベース」のように、俳句を構成する17文字それぞれにひらがなをすべて当てはめて網羅し尽くす「総当たり攻撃」は、コンピュータを使って実現可能となりました。17文字とすべてのひらがなという条件をつけてもそのすべてを網羅すると、6溝(※)というとんでもない数になるわけですが、過去から未来に至るまでのありとあらゆる命、というのは、これを遥かに凌ぎ、そこから弾き出される数は、天文学的という言葉ですら表現できないものとなるでしょう。それを実現可能として仏となったのが、阿弥陀仏であるわけです。阿弥陀仏、恐ろしい子……!


(※「溝」は、兆・京・垓・ジョ〈のぎへんに予〉・穣の次の数の単位)


 ちなみに「阿弥陀」という名前は古代インドの言葉が語源であり、「時間的無限・空間的無限」ということを表現する名前だそうです。過去から未来に至るまでのありとあらゆる命を救済するためには、それそのものも有限の存在であっては実現不可能であることから、無限の存在となっていった、というわけです。「全俳句データベース」にも驚かされましたが、どうやら阿弥陀仏はそれ以上にとんでもない仏さまでした。


今日の一筆


 

日下賢裕(くさか・けんゆう)

1979年生まれ。石川県にある、浄土真宗本願寺派の白鳳凰山恩栄寺(はくほうおうざん おんえいじ)の住職。インターネット寺院「彼岸寺」の代表も務めている。法話は時事ネタを扱うことが多い。


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