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  • 執筆者の写真前山都子

【書評】科学的に幸せになれる脳磨き

更新日:2021年8月20日


『科学的に幸せになれる脳磨き』

著者:岩崎一郎

出版社:サンマーク出版/ISBN:9784763138422



誰もが豊かで幸せになれる、脳磨きのすすめ


 この本を手に取ったきっかけは、本書の「集合知性」という話がFacebookで紹介されているのを見たことでした。

「集合知性」とは「個人では至らないような、天才知性にも勝るすぐれた能力」のことで、人材育成や組織変革に関わっている私にはとても興味深い言葉で、すぐに購入したのでした。

 実際に読んでみると、最新の脳科学で導き出された、誰もが幸せになれる方法として「脳磨き」が紹介されていました。

 著者は京都大学大学院修士課程修了後、25年にもわたり、ノースウェスタン大学医学部脳神経科学研究所など、米国を中心に世界最先端の医学脳科学研修に従事してきた脳科学者・医学博士岩崎一郎氏です。

 実は、欧米では約50年も前から「どうすれば人は幸せに生きることができるのか」が研究され、多くの研究結果が蓄積されているのです。そこで、あまり研究が進んでいなかった「脳の部位」に、その人が豊かで幸せに生きられるか大きく関わっていることがわかってきました。その一つが「島皮質」と呼ばれる部位で、この部位を鍛えると人生が豊かになれるというのです。つまり脳磨きとは、島皮質を筋トレのように鍛え、脳全体をバランスよく協調的に働かせるようにすることなのだそうです。


 著者は、自身の経験を踏まえ、一人でも多くの人が脳磨きを身につけて、自分らしい幸せな人生を歩んで欲しいと願いから本書を書いたそうです。

 本書が特にすばらしいのは、最新の研究論文も含めた250以上の論文を確認した上で、脳磨きのポイントが書かれていることです。また、すぐれた研究と思えるものを抜粋し、脳科学など無縁の私にもわかるように、簡潔かつやさしく紹介されています。

 それでは、どのように脳を磨けばいいのでしょうか。

本書では紹介されている「脳磨き」のポイントは意外と誰でもできる次の6つでした。


・感謝の気持ちを持つ

・前向きになる

・気の合う仲間や家族と過ごす

・利他の心を持つ

・マインドフルネス(脳トレ坐禅)をする

・Awe(オウ)体験をする


 どれも、脳内の「エゴ」という汚れを落とすもので、実践すれば脳の活力が高まると紹介されています。

 6つの中で、特に興味を持ったのは第7章で紹介されている「大自然で感じる『Awe(オウ)体験』で脳はどうなるのか?」です。脳科学では、圧倒的な自然の前で“ちっぽけな自分”を感じることを、Awe体験と呼んでいます。このような体験をすることで、人は謙虚になり素直な気持ちを持ち、「世の中のため、誰かの役に立ちたい」という思いを強くするというのです。このとき、脳は通常の何十倍、ときには何百倍も活性化するそうです。

 そしてAwe体験を頻繁にしている人は、未来も今と同じように価値があると実感することができ、明確な人生の目標を持っていることなどがわかっています。さらにAwe体験は、体が慢性的な炎症を起こすときに出るインターロイキン6の濃度を下げ寿命を延ばすこと、またこの体験をしている人は見破る力、だまされない思考力を持つようになる、つまりAwe体験は、心身に良い影響をもたらすとされています。


 一方で、大自然に関する体験はネガティブなもの、ダークサイドがあると述べています。たとえば、無数の星が光り輝く夜空を見たときに、「なんて宇宙は広大で悠久なんだ」と感じる人、逆に「自分はちっぽけで無力な存在だ」と落ち込む人もいます。実は島皮質が厚い人の方がポジティブなAwe体験をしやすいという研究結果があり、脳磨きを続けて島皮質の厚みが増せば、ポジティブなAwe体験をしやすくなり、そこから生まれるさまざまなメリットを得やすくなるとも言えるようです。

 今はコロナ禍の中で、実際にAwe体験がしづらいかもしれませんが、先に紹介したAwe体験以外の5つの「脳磨き」を実践し続けることで、Awe体験をしたのと同じような効果が得られるとも解説しています。


 そしてもう一つ、第4章の「島皮質を鍛えるには『よき人間関係』」をご紹介します。幸せで豊かな人生を過ごす人は、何が違うかを長年にわたり研究した結果、幸せで豊かになる人の共通点は、温かみのある、心をひとつにできる人間関係をずっと持ち続けられていることでした。ちなみに、生まれ育った環境や知能知数や頭の良さは、相関関係は無いということがわかってきたそうです。

 その例の一つに、現生人類であるホモ・サピエンスの進化が紹介されています。特に注目されているのはネアンデルタール人で、彼らは身体が頑丈で力も強く、ホモ・サピエンスと同等の、あるいはそれ以上の知性を持っていたと考えられています。一方、ホモ・サピエンスの身体は華奢で、仮に両者が一対一で戦えばホモ・サピエンスは負けるだろうと言われています。

 しかし、生き残ったのはホモ・サピエンスです。ネアンデルタール人は家族単位という小さな社会で暮らしていました。他方でホモ・サピエンスは、血縁関係を超えて多くの仲間を作り、力を合わせる「他者と共に生きる」という社会性を築き、島皮質を鍛えるような脳の使い方をしてきたからこそ生き延びてこられました。つまり、良き人間関係を築くことは大切だと説いています。


 そこに関連するのが、集合知性です。組織やチームのメンバーが互いのことをよく理解し、心を一つにできるような関係になったとき、その関係性がメンバー個々の能力をいつも以上に引き出す、あるいは新たな能力を開発すると解説し、集合知性を発揮する具体的な3つの要素を上げています。


・お互いの気持ちや視点を受け入れて、お互いの立場に立てる

・対等に発言できる、あるいは本音でぶつかれる

・メンバーが共感できる共通の目標に向かって心を一つにできる


 つまり、心を一つにできるような関係を作り集合知性を発揮させる、実は組織のマネジメントやリーダーシップ、具体的にはチームビルディングの極意に繋がるのだと感じました。企業、団体など、まだまだトップ牽引型のリーダーシップを発揮し、硬直している組織が数多く存在しています。

 しかし、これらリーダーのほとんどは、必ずしも自身のエゴだけでリーダーシップを発揮しているのではなく、誰もが会社や職場の繫栄と同じように、働く仲間の幸せを願っているでしょう。しかし、VUCAと呼ばれる変革の時代にそぐわないその手法は、必ずしも願いを叶えられるものではありません。


 本書は誰にも読んでほしいと思いますが、特にリーダーの立場にある人こそ、自身のリーダーシップの一助にオススメしたいと思います。

 数年前、何かにもしくは誰かに「ありがとう」と感謝したことを毎日5つ報告するという課題に挑戦したことがあります。毎日「ありがとう」を5つ見つける課題は厳しいものでした。

 しかし、感謝のアンテナを立てているうちに、何気ないことに自然と感謝を感じられるようになり、不満を感じることが圧倒的に少なくなりました。

「人は誰でも幸せで豊かな人生を築くことができる」と筆者は締めくくっています。誰もが習慣化できている「歯磨き」と同じように、「脳磨き」で幸せ習慣をはじめませんか。


 

前山都子(まえやま・みやこ)

インスピーレマネジメント代表/人材開発コンサルタント/理念策定・浸透パートナー/キャッシュフローコーチ(日本キャッシュフローコーチ協会認定)

三重県津市生まれ。百五銀行に就職し、営業店の融資・内部業務、12年間の行員の人材開発部門、計4店の支店長を経て、人事部副部長兼人材開発課長(研修所長)として約2500人の行員の能力開発に携わる。2014年に同行を退職し、人材開発戦略コンサルティング会社「インスピーレマネジメント」を立ち上げる。百五銀行での経験を生かし、人材開発コンサルティングや講演、執筆、企業研修講師として活躍するほか、働く人が主役になれる組織環境をつくるため、企業の理念策定・浸透パートナー、キャッシュフローコーチとしても活動中。

 

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