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  • 沖 俊彦

クラフトビールはどこで誰に飲まれているのか?

更新日:4月29日



大手メーカーのナショナルブランドに比べて、地産地消のイメージが色濃いクラフトビール。実際、どこで誰が飲んでいるのか? 今回はクラフトビールと消費者、場所テーマに、消費形態としての地産地消の変化から人口減少、関係人口までテーマを広げて解説していただく。



地産地消が意味するもの


 今回はクラフトビールと地域、およびその消費の関係にスポットを当ててみたいと思います。地方創生やコミュニティー作り、マーケティングなどに携わる方の参考になればうれしいです。


 1994年、規制緩和が行われて地ビールが生まれました。当時地ビールは高価にも関わらず品質が伴っていなかったとよく言われます。そのためか平成15年をピークにかなりの企業が撤退、廃業しました。醸造所数の推移については前回の記事をご覧ください。


 さて、地ビールの「地」は地酒からの援用であると言われ、地域を象徴するビールという意味合いで、地産地消のイメージも含んでいたとされます。地産地消というと地域住民が生産し地域住民が消費するように思われがちですが、実は必ずしもそうでもありません。農林水産省は地産地消をこう表現しています。


「地産地消とは、国内の地域で生産された農林水産物(食用に供されるものに限る。)を、その生産された地域内において消費する取組です。食料自給率の向上に加え、直売所や加工の取組などを通じて、6次産業化にもつながるものです」

https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gizyutu/tisan_tisyo/


 農林水産省はその地域で生産されたものをその地域で購入、消費することが地産地消であり、その消費の主体は必ずしも地域住民でなくても良いとしています。観光客が道の駅で地元産品を購入することも、宿泊先で地元産の食材を料理として消費することもそれに当たります。そういう意味では観光地の地ビールレストランは地域外からの来訪者を中心にした地産地消を担う場であったと言えるのではないでしょうか。地ビールの消費者は地域外にいたと言い換えることもできると思います。



ローカルからハイパーローカルへ


 さて、時代は下って2010年代、アメリカからクラフトビールというカルチャーがやってきました。クラフトビールカルチャーの考え方の1つに「ローカル(地元)」があります。Nationwide(ネイションワイド、全国の意)、つまり津々浦々に展開するのではなく、地元に目を向けようという考え方です。


 アメリカにはLocal Brewery(ローカルブルワリー)を掲げる醸造所も多く、上記の地産地消と違って基本的にその地域で生産し、その地域住民をターゲットにしています。アメリカでは現在9000軒以上のクラフトブルワリーが稼働していて州単位で地元と捉えると競合が多すぎて埋もれてしまいます。州外からも有名ブランドの商品がどんどんやってくるため、州ではなく群や町といったもっと小さな単位にフォーカスし、地域コミュニティーとの関わりを深めて自社のプレゼンスを高めるのが現在のトレンドです。クラフトビールの消費者を地域の内側に求めると言い換えることもできるでしょう。


 こういう考え方をローカルに対して「もっとローカル」と言う意味を込めてHyper Local(ハイパーローカル)と言います。おらが州のビールではなくて、おらが町のビールというポジション取りをして小さなマーケットでまずは勝とうというわけです。ランチェスターの言う「弱者の戦略」の一つの例と言えます。


 日本でもアメリカと同様に地元にお住まいの方に向けてビールを造り、地元にビールを中心に据えたコミュニティーの形成を目指す企業も多く見られます。地域密着と言う意味では前回ご紹介したブルーパブはその典型と言って良いでしょう。こういう取り組みはすばらしいと思う一方で、日本中どこでもこれが実行可能かと言うとそうでもないように思うのです。クラフトビールの商品性質と具体的なコミュニティー形成には関係があると思われるからです。


 前回の記事で指摘したとおり、クラフトビールは大手のビールに比べて高いものです。瓶や缶で安いと300円前後で400〜500円は当たり前、飲食店で樽生を一杯飲もうとすると1パイント(16oz、473ml)で1000円はします。100円程度で缶チューハイが飲める今、こういうものを頻繁に飲める、もしくは好んで飲む方たちはそれなりに所得のある方たちだと考えて良いと思います。また、クラフトビール消費の中心は30〜40代と目されていますから、クラフトビールが地元で飲まれるためには可処分所得にある程度余裕のある30〜40代が相当数いなくてはなりません。


 政府が公開しているデータを見てみると、死亡による自然減、転出による社会減が進み人口減少している地方自治体は多いです。大幅な人口減少でなくても高齢化が進み、それと同時に子育て世代がおらず子供が増えていない地域も少なくありません。社会減については進学を機に都会に出ていってそのまま戻ってこないとか、就職の関係で地元を離れ移住先で結婚して帰ってこないなど、さまざまな理由が考えられます。稼げる仕事が少ないという理由もあるでしょう。


 醸造所を起点にしてその地元での消費、購買力のある人口のボリュームに主眼を置くと、アメリカ的なハイパーローカル戦略を採れる場所ばかりではなさそうです。可処分所得にある程度余裕のある30〜40代の多さから、今のところクラフトビールは都会もしくはその周辺のベッドタウンと相性が良い可能性が高いと考えられます。



ハイパーローカル的な地産地消か、地域外への販路拡大か?


 消費者や商圏の面から考えると醸造所はハイパーローカル的な地産地消で完結する比較的小さな規模感で経営するか、地域外への販路を持って拡大を模索することになります。前者は前回ご紹介したブルーパブをイメージしていただければ良いと思います。後者の場合、直接対面で消費者に語ることができないので購入して飲んでいただく前に認知・関心を獲得しなくてはなりません。そのためにはまず地域外の消費者にその存在を知っていただく必要がありますが、現在その方法は多岐に渡ります。


 まずツールとしてクラフトビールにおいても今SNSの運用は必須です。TwitterやFacebookでの写真やテキストの投稿はもちろん、インスタグラムで目立つようラベルデザインにこだわることもクラフトビール時代には大切なことになっています。また、テキストや画像でのコミュニケーションだけでなく実際に飲んで感じる体験も極めて重要です。「おいしい」という感覚がブランドの名前やイメージと繋がることでファン化を促進します。そのアプローチとして積極的にビール祭りなどの各種催事に出店することも大事なマーケティング施策と言えるでしょう。加えて、催事以外の飲用体験の場として飲食店の重要性も見逃せません。パブをはじめとする飲食店に自社のクラフトビールを瓶や樽生で扱ってもらうこと、つまり業務用市場での営業力も求められます。


 このほかに、家飲み、すなわち家庭用市場についても考えておきましょう。こちらは主に瓶、缶の流通に関わるものです。一般的に瓶、缶のビールはスーパー、コンビニ、酒販店の店頭で購入されるものですが、新型コロナウイルスの蔓延で特に通販が注目されています。現在お酒全般で通販が好調で、楽天やAmazonのようなモールへの出店のみならず自前のECサイトを運営する醸造所も急増しました。とはいえ、全国には競合となるブランドも多く存在し、通販サイトを立ち上げれば自ずと売れる環境ではありません。数多ある中から選ばれるためにはそれなりの工夫が必要です。


 そこで近年注目されているのが関係人口です。国土交通省は関係人口を「関係人口とは、移住や観光でもなく、単なる帰省でもない、日常生活圏や通勤圏以外の特定の地域と継続的かつ多様な形で関わり、地域の課題の解決に資する人などのこと」(※1)としていて、非訪問系の具体例としてふるさと納税を挙げています。地域外に暮らしていてもその地方と関わりを持つ一つの形としてふるさと納税を位置づけ、活用していこうという流れです。近年納税先の自治体内で作られたビールを返礼品としてお届けする事例が近年急増しています。これもある意味で通販の一形態とも考えて良いでしょう。

※1 https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/content/001391466.pdf


 そのほかにもクラウドファンディングを活用して新たな関わりを作ろうとする事例や、音楽やアニメなどのこれまでビールとは直接的な関わりのなかったジャンルとコラボレーションしてリーチする範囲を拡大しようとする動きも活発です。新規顧客開拓と言ってしまうと身も蓋もないのですが、知っていただく、興味を持っていただくきっかけ作りを積極的に行い、地元から遠方へとリアルな空間が広がるだけでなくバーチャルな世界にもコミュニティを醸成していく流れは確実に強まっていると感じます。クラフトビールを流通と消費者およびそのコミュニティーの場と関連付けて考えてみるのもおもしろいのではないでしょうか。


 さて、テクノロジーの進化でコミュニケーションの形式も随分様変わりしてきました。このような流れになっていくのは必然的かつ不可逆的なものです。しかしながら、一抹の不安を覚えるのです。ここ2年以上まん延防止措置や緊急事態宣言によってなかなか人に会えなかったり気軽に飲みに行けなくなった結果、消費者は各種ツールを駆使して情報を集めて「できるかぎり会わずに、話さずに買って飲む」ようになりました。そのため、醸造所側もそれに合わせて「できるかぎり会わずに、話さずに買っていただくための情報提供」を意識し始めているような気がしてなりません。


 語弊を恐れずに言えば、ビールそのものの出来よりも飲む前においしいと確信できる情報の創出が優先されがちな空気が一部に感じられます。過度に傾けばクラフトビールそれ自体が消費社会の記号と化し、地ビール同様一時的なブームに終わってしまうかもしれないと危惧している次第です。ビールの質が置いてけぼりになるような空虚なコミュニケーションにならないように注意したいものです。

 

沖俊彦(おき・としひこ)

CRAFT DRINKS代表

1980年大阪府生まれ。酒販の傍らCRAFT DRINKSにてクラフトビールを中心に最新トレンドや海外事例などを通算750本以上執筆。世界初の特殊構造ワンウェイ容器「キーケグ」を日本に紹介し、販売だけでなく導入支援やマーケティングサポートも行う。2017年、ケグ内二次発酵ドラフトシードルを開発し、2018年には独自にウイスキー樽熟成ビールをプロデュース。また、日本初のキーケグ詰め加炭酸清酒“Draft Sake”(ドラフトサケ)も開発。ビール品評会審査員、セミナー講師も務め、大学院にて特別講義も。近年自費出版の形でクラフトビールに関する書籍を発行中。

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