(画像提供:ラグジュアリーカード)
数ある富裕層ビジネスでも参入障壁が特に高いと言われるのが、高級クレジットカード業界。年会費無料の一般的なクレジットカードとは異なり、高級クレジットカードはステータスカードと呼ばれ、コンシェルジュや会員限定の優待などさまざまなサービスを受けられる。また、審査が厳しいことと高額な年会費もさることながら、申し込みたくても申し込めない、完全招待制の場合が多いことも特徴だ。ラグジュアリーカード(以下、LC)はアメリカ発のクレジットカードで、いわゆる外資系カードである。ただでさえハードルが高い日本の金融市場に外資系であるLCが参入した理由や現状を発行元のラグジュアリーカード代表取締役社長、林ハミルトンさんに聞いた。
ガラパゴス日本に進出! アメリカ発の高級クレカ
――LCは2008年にアメリカで誕生したクレジットカードで、2016年には日本、2018年には中国でもサービスを開始しました。まず日本に進出しようと考えたのはなぜですか?
世界のGDPのトップ3はアメリカ、中国、そして日本です。我々はこの3つの市場で成功させたいと思っています。日本はサービスや商品のクオリティーが非常に高い国です。そこで成功することができれば、ほかの国でも成功できる――そんな確信を持っているので、世界進出の足がかりとして日本を選びました。
――日本はいまだに現金での決済が多いことに加えて、護送船団方式と言われる規制もあるなど、参入へのハードルは非常に高かったのでは?
たしかに、外資系のクレジットカードが日本市場に参入するのはむずかしいと言われています。実際、HSBCやシティバンクといった大手ですら撤退しました。ただ、アメリカと日本では文化が違うので、ビジネスの進め方が異なるのも当然です。
ところが、多くの外資系は香港やシンガポールで成功すれば、日本でも同じように成功できると思ってしまう。日本の特異性を理解していないのです。また、外国人の役員をうまく説得する力も必要です。この2つを兼ね備えていれば、日本でビジネスを進めるのは決して不可能ではありません。
LCは日本でのブランド力はゼロ、実績もなし、何にもコネクションもない状態からのスタートでした。それでも地道な営業活動の結果、最終的に今のパートナーである新生銀行グループにたどり着くことができました。
林ハミルトンさん。ラグジュアリーカード代表取締役社長。LCの創業者であるスコット・ブラムさんからのオファーを受け、単身日本へ。日本のクレジットカード業界で働いていた経験を生かし、ゼロベースから日本市場を開拓、現在の成功へと導いた(画像提供:ラグジュアリーカード)
――アメリカ市場と比べたとき、日本市場の特徴はどんなところにあるのでしょうか。
アメリカは国民性としてリボ払いを利用するユーザーが多く、カード利用時に加盟店から入る加盟店手数料も高いのが特徴です。その分、カード会社の数が多くて競争も熾烈です。各社はつねにサービスの刷新や年会費の値下げなどを行い、会員の取り込みに躍起になっています。
一方、日本はキャッシュレスが進んだとはいえ、現金決済が依然として主流です。そのためにカード会社の数も少なく、積極的な変化も必要ないと考えられています。10年前のサービスがいまでもメインのサービスとして提供されているぐらいですから。
――ターゲット層である富裕層に違いはありますか?
クレジットカードに何を期待するかが異なりますね。アメリカの富裕層は経済的なメリットを重視する傾向がありますが、日本の富裕層(※)は経済的なメリットだけではなく、ステータス性も意識するように思います。
そのため、年会費以上のお得感に加えて、ステータス性もうまく高めなければなりません。ただ、我々はターゲット層を富裕層というよりは、「ライフスタイルアクティブ」層をセグメントとして捉えているので、富裕層をターゲットにする競合他社とは少し展開の仕方が違うのです。
※参考:株式会社野村総合研究所が調査した日本の富裕層について
――ライフスタイルアクティブ層とは?
当社が考える「ライフスタイルアクティブ」層とは年収、年齢に関わらず、自身のライフスタイルを豊かにするための投資を惜しまない層という位置づけです。具体的には、ガジェット好きで毎年最新のiPhoneに買い替えたり、20代だけど高級時計だけはたくさん持っていたり、海外を飛び回る生活をしているといった収入の高いアクティブな成熟層など、たとえ高額でもそこから得られる体験に価値を感じている層です。
――富裕層という言葉が持つ一般的なイメージとは少し異なりますね。
日本の富裕層向けクレジットカードはステータスカード色が強く、年齢層が高い、成功した人たちが持つものでした。ただ昨今では、「働き方」の多様性が広がり、会社員をしながら副業では事業主としてビジネスを展開したり、20代前半の起業家が世界的にも当たりまえになったりと、ビジネス環境が変化しているため、若い世代にも十分ニーズがあると考えています。
また、創業者であるスコットがLCを発行するに至った理由も関係していますね。スコットは金融のキャリアバックグランドを持たない、IT/ECビジネスで成功した人物で、自分や友人のライフスタイルにフィットするクレジットカードがないことに不満を持っていました。そして自ら欲しいと思える機能や役割を込めて作った結果、ステータスカードとして注目されたのです。
――会員はどのような職種の人が多いんですか?
6割近くが経営者です。年会費が高額になればなるほど、金銭面で自由があり、年会費も経費で処理することができる経営者層の法人ユースの申し込みが多くなる傾向にあります。感覚的な印象にはなりますが、その中でも6割近くというのは多い数字だと思います。逆の見方をすれば4割の方が給与所得者という立場でも当社のカードを持っていただけるのは大変うれしいことです。
優待の雨が降る!? 質と量の両立を可能にしたLCの戦略
――2020年11月1日で5年目を迎えました。現在の状況をどう評価していますか?
日本参入後、右肩上がりで会員数を伸ばし、コロナ禍を経てもなお、過去最高の売り上げを更新し続けています。単純に会員数が増えたことによるものだけではなく、一人当たりの利用単価も上がっていることが大きいですね。
実際、LCの会員はエンゲージメント率が非常に高いのが特徴です。我々はアプリをメインのコミュニケーションツールにしていて、月に6~10回の頻度で優待サービスの情報をプッシュ配信しています。この開封率がすごく高いのです。
一般的なアプリの「お知らせ」開封率よりも3割以上高く、メールの開封率も5割を超えます。予約制のサービスや購入するプロモーションはだいたい5分以内には会員から問い合わせが入るため、パートナー企業も驚かれますね。
知名度のあるブランドから新しいブランド、そしてさまざまなジャンルの優待を開発していますが、たとえ知らないブランドやメーカーの案内であったとしても、ラグジュアリーカードがおすすめしているのであれば、試してみようと思っていただけるお客様が多く信頼されていると感じています。
(画像提供:ラグジュアリーカード)
――高級クレジットカードの特典といえば、どの会社でもコンシェルジュサービス、ダイニングサービス、トラベルサービスなどをベースにしていますよね。LCだけが差別化できたポイントは何ですか?
ターゲットのニーズを把握できていたこと、サービス開発がタイムリーかつ、その時々のニーズにあったものであること。そして何より、他社では出していないものを提供していることです。ここで重要なポイントは、リスクを取る勇気があるかということです。他社が実施していないことは大抵リスクが伴います。当社では失敗を恐れずにリスクを取ってでもまずやってみるという姿勢を大事にしています。
スピードに関しては、他社なら2~3カ月間かかるようなことでも、当社では最速2日~1週間でサービス開始が可能です。くり返しになりますが、ステータスカードの市場は変化が非常に遅い。特にコロナ禍で我々の生活様式はガラリと変わりました。時代がこうも変化しているのに、サービスが変わらないのは時代遅れだと言わざるを得ません。社会の変化を察知して、サービスを改善していく必要があるのです。
――他社にはないサービスを迅速に展開できるのはなぜでしょうか。
少数精鋭のスマートな組織運営をしているためです。それはチームメンバーの全員がクレジットカード業界の経験者であり、富裕層マーケットへの理解があるからこそできること。そして少数精鋭であることでスピーディーに展開できるだけでなく、優待に注力できるというメリットもあります。
平均月6~7回更新されるシーズナル優待。会員からは「優待の雨が降る」と形容されることも。写真はラグジュアリービール「Rococo Tokyo White」。発売当初は一般の販路では購入できなかった超高級ビールも、LCの会員は直接購入することができた(画像提供:ラグジュアリーカード)
――評判のよかったサービスで印象に残っているのは?
ソーシャルアワーですね。毎月、五つ星ホテルを含む4~5カ所の会場で、会員同士がワインを片手にソーシャライズできる場を提供していました。決して安くない年会費を払っている会員が集まるため、横のつながりを求める方が多く、人気のあるイベントです。
ソーシャルアワーをはじめとしたオフラインイベントは、現在の状況をふまえて開催を見合わせていたますが、オンラインでは「LCオーナーズコミュニティー」というサービスを開始しました。LCという一つの共通点を通し、会員同士が繋がれる相互利益型のサービスです。
オンラインであれオフラインであれコミュニティー機能に力を入れているのは、よりコアなファンをつくるためには、エモーショナルな部分での結びつきが大事だと考えているからです。コミュニティーを強化することで、横のつながりができ、それがまた会員でいたいという気持ちをいっそう強くさせると考えています。
プライベートでもビジネスでも使える空間を提供する「ラウンジアワー」。写真は「Larboard(ラーボード)」(画像提供:ラグジュアリーカード)
知識と挑戦するメンタリティーがあれば成功できる
――日本に参入する際、広告費をかけて一気に認知度を高め、会員を獲得することは考えませんでしたか?
大々的にテレビCMを打つといったマス向けの広告は考えませんでした。積極的な変化が必要ないという日本市場の特徴をふまえて、新しいものにはすぐ飛びつかないだろうと判断したためです。
ビジネスはターゲットの設定が非常に重要です。クレジットカードの場合で考えれば、「お得」をどう捉えるかでその舵取りは変わります。「無料=お得」と考える人もいれば、「投資以上のものが得られる=お得」と考える人もいます。
前者ならフリーモデルが一般的でしょう。フリーモデルはボリューム勝負になりますから、マスに向けた広告は有効かもしれません。でも、我々は後者に対してビジネスを展開しています。特に日本ではクオリティーにこだわる人が多いので、満足度の高いサービスを提供することが大事です。
――ということは、むやみに会員数を集める必要もないということでしょうか。
そうですね。ターゲット層の期待に応えることに注力すれば、数字はついてくることがわかっています。急いで100万人の会員を集める必要はありません。そう断言できる背景には、クレジットカード業界ならではの事情もあります。よく言われていることですが、年会費無料のカードの場合、作るだけ作ってまったく使われていないものが相当数あるのです。
年会費が無料ですから、まったく使わなくても無料です。そうなると、カード会社は人的リソースを使って発行数を増やしても、使用額が少なければ意味がありません。クレジットカードは販売手数料も大切な収入源ですから。その点、LCは年会費が高いことに加え、積極的に使う会員が多い。
このことは、我々の広告戦略にも表れています。クレジットカードのバナー広告では、大胆な割引や「入会で○ポイントをプレゼント」という言葉を使うことで、「まずは入会してください」というメッセージを打ち出します。
しかし、我々はインセンティブを中心とする広告は行っていません。「入会するときにお得なら入ってもいいかな」という理由ではなく、「年会費を払っても入りたい」と思う人に入ってほしい。だからこそ、LCにはエンゲージメント率の高い会員が多いのだと思います。
「無料だから」「ポイントをもらえるなら」という理由だと、利用額は増えないでしょう。競合他社と同じことをすれば、会員数はいまの何倍になるかもしれませんが、長期的に見たらメリットはないのです。
LCは「チタン」「ブラック」「ゴールド」の3券種。ゴールドの表面には24金が使用されている。年会費はそれぞれ5万円、10万円、20万円(すべて税抜き/画像提供:ラグジュアリーカード)
――今後、力を入れていきたいことや課題はありますか?
SDGsの観点から、LCとしてできることを推進していきたいですね。リムジンサービスをできるだけ電気自動車やハイブリッドに切り替えるなど、地球にやさしい体制を模索していきます。すでに電気自動車、ハイブリットカーが占める割合はかなりありますが、さらに上を目指していきます。
課題は女性層へのアプローチです。最近の調査などで女性が選ぶステータスカードといった内容でランクインすることも増えており、女性への認知度が上がってきたことはうれしいことです。それでも、日本人のステータスカードへの意識の壁は非常に高いと感じています。
現在LCに男性会員が多いのは、ほぼ男性をターゲットにしたブランディングをしてきた影響もありますが、ステータスカードに対する日本の文化的・社会的価値観も関係していると考えています。
日本のクレジットカード関連のランキングは、その多くが「クレジットカードを主体的に持つのは男性」という目線で作られています。日本だと女性がビジネスで成功者であることがまだまだ文化的にめずらしいと思われがちです。周囲の男性が引いてしまう、生意気に思われる……そういう傾向がまだまだ強いように感じます。この点は我々も取りかるべき課題だと考えています。
――最後にあらためて、外資系ながら日本でもビジネスを成功させることができた理由を教えてください。
ローカル市場の知識と、外資系の挑戦するメンタリティーです。この二つがうまく組み合わされば、どんな業界でもチャンスはあると思います。特に挑戦するメンタリティーは重要です。
たとえば、新しいアイデアをブレストするとき、アメリカではできない理由を考えるのではなく、どうやって成功させるかをまず先に考えます。つまり、ソリューションを考えるのが我々の仕事なのです。
――リスクにひるむことは?
リスクを取らないと成功はありません。現状維持は守りの体制です。守っているだけでは下がる一方です。我々は若い企業です。まだまだポテンシャルがあると思うので、どんどん挑戦していかないと、より大きな成功を収めることはできないと思っています。
クリエイティブで革新的なことを提供しているからこそ、会員の皆様からの反応もたくさんあるわけです。その期待に応えられるよう、新しい商品を引き続き開発していきたいですね。
TEL:0120-080-070
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