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  • 執筆者の写真竹本勝紀

社長が斬る! 銚子電鉄の通信簿(2020年まとめ)

更新日:2022年5月5日


銚子電鉄

「ぬれ煎餅を買ってください。電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです!」のフレーズで一躍全国区の知名度を獲得したローカル鉄道の銚子電鉄(千葉県・銚子市)。そんな銚子電鉄の歴史は、なりふりかまわない副業の歴史とも言える(詳細はこちらの記事を参照)。たい焼きの販売をはじめ、銚子名物の「ぬれ煎餅」、スナック菓子「まずい棒」などのヒット作を連発することで、本業である鉄道部門の赤字を補填してきたのだ。また、本業でも観光鉄道としてユニークなイベントを実施して集客。利用客を増加させてきた。ところが、少しずつ上向いた経営状況を直撃したのが新型コロナウイルスだ。ただでさえ厳しいと言われてきた銚子電鉄の経営状況は大丈夫なのか? 代表取締役社長の竹本勝紀さんが自社の1年をふり返る。



昨年の台風被害に続き、今年は新型コロナウイルス……どうなる銚電!?

 銚子電鉄の受難は昨年9月の台風(令和元年房総半島台風)から始まりました。房総半島ほど被害はありませんでしたが、大事な書き入れ時にお客さんが減ってしまった。2019年の前半までは結構、快調に飛ばしていたんですよ。銚子電鉄は時速40キロですから、飛ばすといっても限度はありますが……それでも、2019年の4月と7月はそれぞれ前年比1000万円のプラス。そして4~8月で前年比2600万円プラスの売り上げと、ずっと黒字ペースが続いていたはずでした。


 そして今年は新型コロナウイルス。特に緊急事態宣言時、鉄道の売り上げはほとんどゼロになってしまった。副業の売り上げ、助成金や給付金、そしてコロナ対策の緊急融資(9000万円)でなんとかしのいでいる状況です。消費税などの納税猶予、社会保険料の納付猶予もあって。ただし、来年になると、猶予分の納付が始まりますから、預貯金が目減りするのは必至です。コロナ禍がこのまま続くと、新たな融資を得なければならなくなります。つまり、借金だけがふくれ上がる。負のスパイラルに陥っていくことは明白です。


 この1年を通して思うのは、いつの時代になっても人類――鉄道会社も含めて――天災と疫病には抗えないんだなということです。とはいえ、ただ手をこまねいていたらあっという間につぶれてしまいます。こういうときこそ心に余裕がなくてはいけません。当社のスローガンが「絶対にあきらめない」。あきらめないという気持ちをもって行動する。銚子電鉄に何ができるのかをずっと考えていた1年でしたね。



銚子電鉄の経営をつないだのは? 各部門の通信簿

■鉄道部門 2/5

 

 緊急事態宣言時(4月7日~5月25日)はまったくお客さんが来ませんでした。鉄道は金食い虫で、固定費が莫大なわけですよ。鉄道を運行するのに1日で人件費や電気代で50~60万円のコストがかかります。でもお客さんは乗らないので、窓を開けて、新鮮な空気だけを運ぶ日々。象徴的だったのが、4月18日(土)です。その日の運賃収入はなんと4480円。


 そしてゴールデンウィーク中の5月4日。昨年は100万円の売り上げだったのが、今年は何もイベントができず、たったの3万円という結果となり、実に前年比マイナス95.8パーセント。大打撃なんてものじゃないわけですね。こうした状況は緊急事態宣言が解除されるまで続きました。7月以降は徐々に利用客も戻ってきましたが、第三波がやってきたことで、緊急事態宣言時の状況に逆戻りしてしまった。


 また、利用客が戻った8~10月の売り上げも前年比8割ぐらいに留まっています。というのも、4月に30パーセントの減便をしたのですが、現在も減便したままなので、本数が少ない分だけ収入も減っている状況なんです。


 なぜすぐにダイヤを元に戻せないかというと、車検です。今年は銚子電鉄が所有する3編成のうち2編成の車検が重なってしまった。もともと老朽化した車両を使っていて、夏場も社内のエアコンが壊れて動かなかったくらいで。そんなマイナートラブルが頻発していたんですね。いまは2編成をちゃんと整備して走れるようになりましたから、来年3月のダイヤ改正でなんとか元に戻したいと思っています。


画像提供:銚子電鉄

■食品部門 4/5

 当社の主力商品は「ぬれ煎餅」と「まずい棒」です。特に、「経営状態がまずい」にかけて命名された「まずい棒」は、約2年で200万本を売り上げて「ぬれ煎餅」と並ぶヒット商品になりました。そして今年の9月に「チーズ味」をリニューアル。「まずさ倍増?! さらにまずくなりました。経営状況が」というキャッチコピーで、「か~るいチーズ味」になりました。そのほか、老朽化した車両を見て「わ、錆……!」と思ったのがきっかけで生まれた「わさび味」も投入しました。


 新商品を続々と投入していますが、当社の場合、鉄道部門が減収になると、食品部門の売り上げも同じように減収になります。なぜなら、観光客が減ると、売店で販売している商品の売り上げも減るからです。駅だけでなく、パーキングエリアや道の駅に卸していますが、そちらもダメになってしまいます。緊急事態宣言以降はおみやげ屋の需要も7割減ってしまった。鉄道の売り上げがほぼゼロ、食品の売り上げが7割減……このままでは売り上げが10分の1ぐらいになってしまうという状況でした。


■EC部門 5/5


 当社の年間売上は全体で5億円ちょっとなんですが、食品部門の売り上げが7割減になると1億5000万円ぐらいになってしまう計算です。その減収分を補ってくれそうなのが、ECでの売り上げです。鉄道のお客さんが減ったので、オンラインショップに力を入れなければならないのは自明でした。


 オンラインショップへの集客は、SNSやYoutubeを使いました。たとえば、昨年の台風で大量に仕入れた「まずい棒」が余っていて、賞味期限が迫ってきた。そのためTwitterで「まずい棒、賞味期限迫る。早い者勝ち」というわけのわからないツイートをした(笑)。それがバズッて、たくさん売ることができました。その経験を生かそうと。今年開設したYouTubeも同じ理由です。オンラインショップに誘導して商品を売る。社長が前面に出るというのは、ジャパネットたかたみたいですね。


 オンラインショップでは売れ筋の「ぬれ煎餅」「まずい棒」だけでなく、さばやいわしといった地元の魚の缶詰もよく売れます。実は、銚子はさばの水揚げ量が日本一なのですが、いまいちブランド化されていません。我々は臨時列車「3843(さばよみ)号」を走らせてお笑いブランド化を推進しているんですけどね (笑)。そのほか、新発売の「銚電マンシール」を新発売し、さらに「線路の石」は累計で何千個も売れています。石ころが2つ入って、おみくじ付き。見せ筋商品の一つですが、これだけでなく「ぬれ煎餅」と一緒に買っていただくことが多いので、クロスセルとしてうまくいっています。


 ネットショップの売り上げは4月後半だけで1300万円を記録しました。前年の売り上げが年間1000万円でしたから、たった半月で前年度以上の売り上げを確保することができた。年間の売り上げも1億円ほどと、前年比10倍という成績を残せそうです。


画像提供:銚子電鉄

■エンタメ部門 /5

 当社が社運をかけて製作した『電車を止めるな!』。12月18日からついに劇場公開となりましたが、本当に間の悪いタイミングになってしまいました。『鬼滅の刃』が大ヒットして、「ウチも続こう!」と思っていた。もちろん比較にはならないし相手にもされませんが、ヒット作が出ると「ほかの映画も観てみよう」という人が増えるんです。それなのにこの第三波ですから。


 映画がヒットするかどうかは紙一重だと思うんです。導火線にいかに火をつけられるか。ウチはお金がないから、テレビCMを打つことはできません。ですから、メディアに取り上げてもらうしかない。結果が出るのは来年でしょうか。10年前は「ぬれ煎餅」に社運をかけましたが、いまは映画です。映画に社運をかける鉄道会社(笑)。


 ただ、この映画は当社のスローガン「絶対にあきらめない」の一つの具体例でもあるんです。映画業界では門外漢ですよ。無謀な挑戦だというのはわかっています。でも、電車に乗るお客さんがいないからしょうがない。この映画はホラーが10パーセント、ギャグが90パーセントのエンタメ映画ではありますが、その中に、鉄道の存続をかけた人間たちの熱い思いが込められています。厳しい試練を笑って乗り越える。そういう我々の気概を感じてほしい。苦しいときに苦虫を噛み潰したような顔をしたってしょうがないから、上を向いておもしろおかしくやっていこうじゃないか、と。これは自分の人生観かもしれません。



地域貢献をするために電車は止められない!

 鉄道以外にもいろいろ副業をやっているのは、鉄道の存続が目的ではないんです。鉄道の存続を前提として、地域に何ができるのか。地域貢献というとおこがましいかもしれませんが、銚子電鉄からの恩返しなんです。創業して97年も続くのは、(観光客の存在も大きいですが)まずは地元の人が乗ってくれたからです。そんな地域へ恩返しをするには、我々は存続しないといけないわけですよ。


 では、どんな恩返しができるのか? それは、メディア発信が強いことを生かした「銚子電鉄×○○」という「かける事業」によって、地域の皆さんに利益を少しでももたらすことです。銚子電鉄の知名度を使うことで、相手にもメリットを生み出すことができる。そこに銚子電鉄の存続意義があると思うんです。


 いま具体的に考えているのは、ちょぼくり(長九郞)稲荷神社のブランド化です。銚子にはまだまだ埋もれている観光地がたくさんありますが、ここもその一つ。外川駅から10分くらいのところにあるのですが、うっそうとした森の中にある細い遊歩道を抜けると、パーッと青い海が開ける――その景観がすばらしいんです。


 さらに、鳥居が鯛や鰯を模していて、見ているだけでも楽しい。青い空に青い海、そして、真っ赤な鳥居には鯛や鰯がいる。インスタ映えしますよ。ここを観光地化するために、宮司さんといろいろ考えています。神社だけで何かするよりも、鉄道会社、公共交通機関がやるということで話題になる可能性がある。お客さんが来れば、銚子電鉄も収入になります。


 鉄道会社は地域住民の足であり、観光資源でもあります。でも、それだけではなく、地域の広告塔であり、情報発信基地であるんです。このことを強く意識して、地域の皆さんと手を組み、街を少しでも盛り上げていきたいですね。

 

竹本勝紀(たけもと・かつのり)

銚子電気鉄道(株)代表取締役社長。税理士を本業とし、2005年より銚子電気鉄道の顧問

税理士として同社に関わる。2012年、銚子電鉄の代表取締役社長に就任。電車の運転免許

も取得し、みずからイベント列車を運転することも。

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