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鉄道を残したい! 副業で経営をつなぐ銚子電鉄の生存戦略

■話し手:銚子電気鉄道(株)竹本勝紀さん

#千葉県 #鉄道


銚子電気鉄道(以下、銚子電鉄)は、千葉県最東端の銚子市を走る全長6.4キロの小さな私鉄だ。多くの地域住民の足として活躍する一方、開業時から続く慢性的な赤字経営に苦しんできた。そんな同社は、あるとき副業の食品事業に活路を見出すことで、なんとか現在まで経営をつないできた。「食料品製造業を営んでおります」とあいさつする銚子電鉄の代表取締役社長の竹本勝紀さんに、他社にはマネできない独自の生存戦略を聞いた。



鉄道なのに食品事業で食いつなぐ?


銚子電鉄は大正12年の創業以来、じつに97年も鉄道事業を続けていますが、これまで何度も赤字に悩まされてきました。そうした危機を乗り越えてこられたのは、副業である食品事業のおかげです。


最初に副業をはじめたのは昭和51年です。創業当初からずっと赤字続きでしたから、何か収益の柱を別につくって鉄道を支えないといけない。そこで、終点の外川駅長で労働組合委員長でもあった方の発案で、たい焼きの販売をはじめたんです。


赤字続きでは会社の存続がおぼつかない。労使一体となって何とかしなければという思いがあったのでしょう。銚子には有名な今川焼(さのや)はありますが、たい焼きはなかったので、当時のヒット曲である「およげ!たいやきくん」にあやかって、売ることにしました。


場所は門前町として多くの人でにぎわっていた観音駅(現在は犬吠駅で販売)。多いときには年間で2000万円も売り上げたと聞いています。


竹本勝紀さん。税理士を本業とし、2005年より銚子電気鉄道の顧問税理士として同社に関わる。2012年、銚子電鉄の社長に就任。電車の運転免許も取得し、みずからイベント列車を運転することも


平成7年には犬吠駅で「ぬれ煎餅」の販売をスタートしました。実はこれも先述の外川駅長(当時総務部長)の発案でした。そして平成18年、あることがきっかけで、「ぬれ煎餅」と銚子電鉄は全国的な知名度を獲得することになります。


当時、社長が横領で逮捕されて県や市からの補助金がカットされ、さらには国交省から業務改善命令が出され、老朽施設の改修や車両検査に多額の費用を払わないといけなくなりました。


でも、借金を抱えていたので首が回らない。こうなったらぬれ煎餅を売りまくるしかない。当時顧問税理士であった私は、なかば勝手にオンラインショップを立ち上げました。当初の売上は1日約1万円。これでは焼け石に水です。もういよいよダメかというとき、経理課長がホームページでこんな一文を掲載しました。


「ぬれ煎餅を買ってください。電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」


これがネット掲示板で話題になると、瞬く間に拡散され、全国から注文が殺到したんです。その年の売り上げは4億2000万円を超えました。前年比200パーセントの売り上げです。さらに鉄道の売り上げも1億6000万円と1.5倍を記録し、鉄道事業は依然赤字でしたけど、全体で黒字にすることができたわけです。


その後も食品事業に力を入れて、平成30年には「まずい棒」、昨年は「バナナ車掌のバナナカステラ」という新商品を投入しました。現在も続く厳しい経営状況の改善に大きく貢献してくれています。


「ぬれ煎餅」。うす口、濃い口、甘口の3種類をラインナップ


ただ、食品事業には課題もあります。ぬれ煎餅は原価率が意外に高いんです。ぬれ煎餅は自社生産ですが、だからといって利幅が大きいわけでもない。


工場は借りものだから家賃がかかります。さらに機械にも投資しています。昨年度は自動で袋詰めする機械を導入したら5000万円ほどの費用がかかりました。煎餅の生地やしょうゆといった材料の仕入れだって必要です。


自社生産といえど、基本的には煎餅生地やタレなどの材料を仕入れて、加工をしている形ですから、利益率があまり高くないわけです。また、ぬれ煎餅は天気や湿度で失敗も多くて。歩留まり(投入した原料に対して、実際に得ることができた出来高の割合)は8割弱しかありません。歩留まりの改善は喫緊の課題です。


一方で、「まずい棒」や「バナナ車掌のバナナカステラ」はOEM(製造委託)です。最近になってOEMも結構おいしいなと(笑)。OEMだと在庫リスクを抱えることになりますけど、メリットも大きい。今後どう展開していくかは悩みどころですね。



完全な民間企業だからこそ、副業が必要だった


鉄道はとにかく維持費にお金がかかります。電車の検査に1500万円かかったり、線路1メートルを直すのに10万円かかったりします。鉄道を維持するためには、もう鉄道本体だけではとうていムリです。JRだってそうですよね。エキナカやホテルとか、不動産で利益を出しているわけです。


鉄道で副業をはじめたのは当社が最初です。ある意味、副業の最先端だった。副業で本業を支える。逆説的ではあるけれども、鉄道を残すために鉄道以外のことで収益をあげるのは必須だと思います。


早い時期から副業に大きく舵を切ったのは、当社が第三セクターではないことも原因の一つと言えます。第三セクターというのは、国や地方自治体(第一セクター)と民間(第二セクター)との共同出資の事業体のことです。いわゆる半官半民ですね。


銚子電鉄本社(仲ノ町駅)。もともと銚子遊覧鉄道という名前で鉄道事業をスタートした同社。廃線や親会社の倒産などを乗り越え、経営を続けてきた


本社社内。現在の社員数は全体で60名弱(うち正社員は約20名)


ローカル鉄道の半分近くはもともと国鉄の路線です。国鉄が民営化されるとき、輸送密度の低い路線は廃止して、残った路線をJRとして運営しようという話になりました。輸送密度は1日当たりの平均輸送量のことで、具体的には4000人以下の路線は廃止することになったんです。


ところが、それでは自治体が困ってしまう。学生や高齢者など、地元の人たちにとって必要だからです。だから、自治体がめんどうを見ることになった。現在、全国にローカル線は90社以上ありますが、そのうち元国鉄路線の第三セクター鉄道は約40社にのぼります。


これに対して銚子電鉄は開業当初から完全民営です。資本金は僅か6910万円。零細企業といってもいいでしょう。弱小私鉄である銚子電鉄が生き残れたのは、副業のぬれ煎餅のおかげです。


公的補助を受けてはいるものの、鉄道事業は苦しい。いまだにぬれ煎餅を中心とした食品事業が収益の柱であることは間違いないから、販路の拡張、新製品の開発に余念がないんです。


現在の売上比率は大ざっぱに言って、食品事業75:鉄道事業25といったところです。鉄道を残すためにはじめた食品事業のほうが大きくなり、主従関係が逆転してしまいました。ただ、鉄道を残すためにやっているという意味では、オンリーワンのビジネスモデルだと言えなくもない……と思います。


仲ノ町駅。昭和レトロな雰囲気が人気


仲ノ町駅のホーム



日本一のエンタメ鉄道として乗客を集める


当社では数年前から「日本一のエンタメ鉄道を目指そう」というスローガンを掲げています。銚子電鉄の乗客数は昭和50年代に150万人を切ると、平成に入って100万人を下回り、今では新しい電車も買えず、本数も大幅に減らしたことも影響して40万人弱という状態です。


当社の輸送人員にもっとも影響を与えているのが、観光客とJRの利用客です(銚子駅で乗り入れするため)。それらが減ると死活問題になる。ところが、われわれには観光客やJRの利用客を増やすことはできません。外部要因でコントロールできないからです。もっと大きな問題である人口減少だって同じです。外的な要因による脅威が、輸送人員の減少につながっている。


となると、みずから新しい需要を喚起することが求められます。つまり、私鉄各社が力を入れている観光鉄道的に運営していくしかない。


しかし、銚子鉄道は観光鉄道としては非常に弱い。まず、銚子電鉄と言いながら内陸部を走っているので海が見えません。鉄橋もなければトンネルもありません。絶景ポイントがないから観光鉄道として成立しえないわけです。


「海の見えない銚子電鉄。出口も見えない銚子電鉄。鉄橋もなければトンネルもない。ただ、当社の経営状況だけが長いトンネルの中にある」(竹本さん談)


そのうえ、全長が6.4キロと短い。観光列車の多くは食事を楽しむことができます。でも、銚子電鉄は片道20分程度なので、フルコースの前菜を食べたら終わってしまうんです。


では、どうやって需要を生み出すべきか? そこで定めた方向性が、日本一のエンタメ鉄道でした。私たちには機能的な優位性もなければ、何か最先端の技術があるわけでもない。だから、感情的な価値を追求するしかありません。それは、人の心をゆさぶることであり、お客さまに喜んでいただくことです。


たとえば、電車内でお化け屋敷を体感する「お化け屋敷電車」や、イルミネーション電車など、乗って楽しいイベントをたくさん企画しています。


エンタメを推進していくために欠かせないのは、世間の注目を集めることです。「なんか、おかしなことをやっているな」と注意をひきつけて、「おもしろいじゃん、行ってみよう」と行動してもらう。私がいつも意識しているのは、アイドマ(AIDMA)の法則です。


※アイドマ(AIDMA)の法則……消費者の短期的な購買行動プロセスを説明する法則。Attention(注意)→ Interest(関心)→ Desire(欲求)→ Memory(記憶)→ Action(行動)の頭文字を取ったもの


そして、アイドマ(AIDMA)のA、つまり注意を引きつけるのに有効なのが、当社が得意とする自ギャグマーケティングです。



ついつい応援したくなる自ギャグマーケティング


自ギャグマーケティングとは、自虐ネタ+ギャグを取り入れたPR方法のことです。自虐は他人を傷つけませんが、自分を傷つけてしまうし、聞いているほうも気分が悪くなってしまう。だから、自虐にギャグをくっつけて笑いをとる。


一言で言えば変化球ですね。かたいイメージのある鉄道でこんなPR方法を採用している会社はないと思いますけど、既存のルールや常識を突き抜けたことをしないと、世間の注意を引きつけることはむずかしいんです。


13年前にぬれ煎餅が大ヒットしたものの、苦しい状況は今も変わりません。だからといって、もう一度「ぬれ煎餅を買ってください」とストレートにお願いしても通用しないんです。


だから、まずい棒を作った。味がまずいのではなく経営状況がまずい、と。意表をついて、クスッと笑ってもらう。そして、「大変そうだな」「買ってあげようかな」と応援していただく。実際、発売1年で100万本以上売ることができました。


また、「鯖威張る(サバイバル)弁当」は、「経営がサバイバル」「存続に向かって頑張っている」という自ギャグを入れた商品ですが、1年で1万5000個も売れました。


ぬれ煎餅がヒットしたときの感動ストーリーを知っている人は、今の自ギャグ戦略に眉をひそめるかもしれませんけど、当社の方向性は一切変わっていません。ストレートではなく変化球を投げているだけなんです。


つまり、銚子電鉄は多くの人に助けてもらわないと存続できない会社ということです。皆さんの善意によってのみ存在している会社とも言えます。そんな会社が日本に一社ぐらいあってもいいんじゃないか。笑いながら「しょうがないな」と応援してもらえる会社。


各駅のネーミングライツも重要な収入源。終着駅の外川駅は「ありがとう」


これからもエンタメを基調としたイベントや商品開発を全力で進めていきます。限りある経営資源を均等に投入して、外部の力もお借りして、会社全体の利益をかせぎ出していく。


先ほど申しあげたとおり、当社は完全民営企業です。当然、資本の論理から逃れることができないわけで、収益の確保は至上命題です。そうしてなりふり構わず収益を出し、鉄道を残すことで、地域の足が守られる。ここはやっぱり重要です。小学生や高校生たちが銚電に乗って通学しているのです。鉄道は交通弱者の足として欠かせません。


先日、免許を返納したご夫婦がそろって本社まであいさつに来てくださいました。「免許を返納してきた。これからお世話になるのでよろしく」と。私たちは鉄道を残してほしいという負託に応えなければなりません。そのために社員一丸となって、鉄道を守る。


鉄道のない街はさびれてしまいます。地域が衰退すれば、鉄道もダメになる。要するに表裏一体なわけです。鉄道は地域とともに生き残らなければならない。そこに鉄道会社の存在意義がある。鉄道を残すことで、97年間支えてくれた地域に恩返ししたい。そんな思いがあります。


これまでのように、これからも難しい局面は何度でも訪れると思います。ただ、どんな問題があっても、解決できると信じています。私はよく講演に呼ばれてお話しするとき、作家の佐藤富雄さんの「問題は解決できるから起きたんだ」という言葉をお伝えしています。


当社はこれまでぬれ煎餅のヒットにかぎらず、多くの想定外のことに助けられてきました。一生懸命がんばっていれば、想定外のことが起きて問題が解決されることが多いから、あきらめちゃいけません。


銚子電鉄はこれからも日銭を稼ぎながら、日本一のエンタメ鉄道として皆さんに楽しんでもらいたいと思っています。まずは鋭意制作中の映画『電車を止めるな!』を完成させたいですね。


6年前に脱線事故が起きたときは、車両の修繕費を地元の高校生がクラウドファンディングで集めてくれた(右)

3K(暗い・汚い・怖い)と地元住民に不評だった本銚子駅は、日本テレビ「24時間テレビ」の企画でキレイにリノベーションされた


銚子電気鉄道

千葉県銚子市新生町2-297

TEL:0429-22-0316

https://www.choshi-dentetsu.jp/

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