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廃線危機を脱した近江鉄道 次なる一手は?

更新日:8月20日


近江鉄道 廃線

近江鉄道は滋賀県東部地域で3路線、総沿線距離59.5キロメートル、33駅を走るローカル鉄道。1896年(明治29年)の創業以来、120年以上も地域住民の足として利用されてきた。ところが、2016年に利用客数の減少から廃線危機を迎えてしまう。関係各所との協議の結果、存続は決定したものの、課題はまだまだ残る。これからの近江鉄道について、現場で奮闘する社員の皆さんに話を聞いた。



廃線危機の近江鉄道を救ったのは……?


近江鉄道は現在、近江鉄道本線(米原~貴生川)、八日市線(八日市~近江八幡)、多賀線(高宮~多賀大社前)の3路線で運行。その距離は59.5キロメートルで10の市と町にまたがっている。


「近江鉄道はJRとの接続駅が4つ(米原駅、彦根駅、近江八幡駅、貴生川駅)あり、主にJRへのアクセス鉄道として活用されています。営業キロが59.5kmあっても、お客さま一人あたりの乗車キロ数は8.1キロメートル(2020年度)です。つまり、自宅の最寄り駅からJRの駅に向かっての区間利用、もしくはその逆が大半を占めているんです。米原から貴生川を通して乗車される方は全体の0.08パーセント(2020年度)ですね」(和田さん)


近江鉄道 路線図

利用客数が最も多いのは、近江八幡駅と八日市駅(画像提供:近江鉄道)


乗客数は年間で369万人(2020年度)。1日あたりで計算すると1万人になる。そのうち、通勤、通学の乗客が約7割を占めているが、モータリゼーションの変革や少子高齢化の影響で、乗客数はピーク時(1967年の1126万人)の3分の1以下。1994年からは赤字経営が続く。


ちなみに、国土交通省によると、国内には95の地域鉄道が存在し、そのうち経常収支で黒字を達成したのはたったの21パーセント。残りの79パーセントに当たる74の事業者が赤字となった(令和元年度実績/「国土交通省鉄道局HP『地域鉄道の現状』より)。


1994年度に営業赤字に転落して以降の赤字額を累計すると57億円にも達する近江鉄道。「民間企業として経営を維持するのは困難」と判断し、2016年に地域における公共交通のあり方の検討を県および沿線5市5町に要望した。


自治体や学識経験者を交えた協議で、あらゆる可能性について議論が交わされた。中には、赤字が続く路線は廃止し、バスに切り替える選択肢も検討されたとか。


「バスに切り替えると、さらに費用がかさむという試算が出たんです。たとえば、鉄道なら2両で200人以上を運ぶことができます。ところが、バスだと何台も必要になってしまう。バスも運転手の数も足りないし、道路の整備も追いつかないので、鉄道を維持存続するほうが代替交通手段よりメリットが大きかったわけです」(和田さん)


最終的には、2024年度からの上下分離方式への移行が決まった。これは自治体が鉄道施設を保有、管理し、民間は運行に専念すること。こうして、近江鉄道の全線維持存続が決定したのだった。

左から構造改革推進部の和田武志さん、管理部の村田和也さん、鉄道部の山口至誠さん、高橋哲治さん


謎解きイベントで広く人を集めたい!


2024年までに、近江鉄道は鉄道事業の分社化も検討している。その動きから、収支を明確にしたいという姿勢が見て取れる。となると、鉄道事業として収益をプラスにすることが必要で、鉄道が装置産業である以上、実際に来て、乗ってもらう――つまり乗客を増やす施策が重要になる。


「鉄道部の考えとしては、地域住民の利用促進も、県外から観光目的で来る方の利用促進も進めています」(高橋さん)


その方針は、近江鉄道の最近の施策にも表れている。一つが7月10日から開催中の「近江ナゾトキ鉄道『まちがいだらけの案内本〈ガイドブック〉』」である。近年、人気を集めつつある謎解きイベントだ。鉄道部の山口さんが中心となって企画した。


「周遊型と呼ばれる形式で、近江鉄道の駅を回りながら、謎を解き、目的地を目指します。もともと関東や関西の鉄道会社を中心に開催されているのですが、話題性もあり、沿線内外から広く呼び込めると期待しています」(山口さん)


山口さんは近江鉄道に就職後、親会社である西武鉄道に研修で数カ月在籍。西武鉄道が謎解きイベントを開催していたため、その可能性を肌で知ったという。


「謎解きイベントは特定のイベント会場や施設を利用することが一般的です。その点、駅や電車という特殊なシチュエーションを作り出すことができます。今回は株式会社いろあわせさんとの共催ですが、製作者にとってもやりがいがあり、参加者には利用したことがない駅で降りて、沿線の対象施設や駅周辺の魅力も味わっていただける。いろいろな人にメリットがあるんです」(山口さん)


大手の鉄道会社ではなく、ローカル鉄道ではあまりなかった謎解きイベント。期間は3カ月程度を想定。シートがなくなり次第、終了となる。


「例年は地酒電車やワイン電車、ビア電といったイベント電車を運行していました。私は2年前に地酒電車を担当したことがありますが、イベント電車はお酒を取り扱うので、大人が対象です。一方、若年層の参加が多い。知見もなくゼロからのスタートでしたから、苦労することもたくさんありました。その分、どういう反応があるか楽しみですね」(山口さん)


新八日市駅。1944年から近江鉄道の駅として使われている


沿線外からの集客といえば、2019年に八日市駅の2階に「近江鉄道ミュージアム」が開館。観光資産としても活用できそうだが、実は改札内にあるので、乗客なら誰でも入場することができる。


「ここは、もともとテナントが入るスペースなんですよ。家賃収入が入りますからね。ただ、テナントが入りにくい2階だったので……」(高橋さん)


「鉄道の本数が少ないので、乗り換えに20~30分待っていただくケースもありますから、その際に立ち寄っていただければという感じですね」(和田さん)


1916年に開業した長谷野駅。牧歌的な風景も魅力



みらいファクトリー、ガチャのるっ!……地域住民とつくるこれからの近江鉄道


近江鉄道のもう一つの重要な施策が、2019年からスタートした「みらいファクトリー」だ。地域住民を交えたタウンミーティングを開催し、社員と参加者がグループワークで近江鉄道を楽しくするアイデアを出し合い、一緒になって実現に向けて取り組んでいる。


これまで3回開催され、200以上ものアイデアが生まれた。コロナ禍により限定的になったものの、その中から駅にフリーピアノを置いたり、地域住民と駅の清掃活動をしたり、PR動画を作るなど、いくつかのアイデアが実現した。


「社内では最初、『タウンミーティングに参加するのがイヤだ』という声もあったんです。皆さんから苦情をたくさん言われるのではないかと怖気づいていた。ところが、実際に参加してみると、前向きな意見がたくさん出たんです。それまで地域の方と直接話をする機会がありませんでしたから、近江鉄道のことを考えてくれる人がたくさんいることに気づくことができなかったんですね」(和田さん)


近江鉄道は全33駅中、19駅が無人駅。さらに、朝の2時間、通勤・通学の時間だけ駅員を置く駅もあり、終日駅員がいるのはJRと接続している駅などたったの4駅。駅はその地域の玄関口でもあるから、無人駅が多いと、交流も減ってしまうということだ。


「だからこそ、これは新しい発見でしたね。これから近江鉄道を守っていくためには、地域の人たちと一緒に取り組まなければならない。改めて認識が変わったエピソードです」(和田さん)


桜川駅は1900年に設置。近江鉄道の駅舎の中で最も歴史がある


地域住民との連携。この意識から誕生したのが、近江鉄道パートナーズクラブ「ガチャのるっ!」だ。これもみらいファクトリーでのアイデアが形になったもの。


「『ガチャのるっ!』は、単なるサポーターを集める仕組みではないんです。他社などでは、鉄道好きの方を集めるべくファンクラブやサポーターズクラブという名称が多いんですけど、私たちは地域の皆さまと共に取り組むべくパートナーズという言葉にこだわっているんです」(和田さん)


この「ガチャのるっ!」は、1000円を払うことで、近江鉄道に終日乗り放題の「1デイスマイルチケット」引換券や会員証の発行、沿線協賛店でのサービスといった特典が得られる。1デイスマイルチケットが900円なので100円追加するだけという破格の金額だ。


「1000円という価格設定は、地域の方に近江鉄道の沿線地域にお出かけしてもらいたいという気持ちがあるからなんです。たとえば彦根に住んでいる方が、貴生川に行く機会はそうありません。沿線のいろいろな施設に協賛をいただいていて、割引特典などが得られるようになっているので、沿線にお出かけするきっかけにつなげたいんです」(和田さん)


なんとも地域住民の財布にやさしい(?)仕組みだが、利益は大丈夫なのだろうか……。


「営業意識はなかったですね(笑)。そもそも1デイスマイルチケットにプラス100円くらいだったら、誰でも入りやすいと考えた金額ですから。もちろん商売ではありますが、近江鉄道の存続問題がある中で、地域の皆さんに『こんな利用方法ができるんだな』とか、『沿線にこんな楽しいところがあるんだな』と興味を持っていただいて、少しでも乗車回数が増えていけば、この鉄道をみんなで守っていくという一体感が生まれるのかなと」(和田さん)


「そもそも、1デイスマイルチケットの900円という値段設定は、利用者が一番多い八日市―近江八幡の間を往復料金である920円より若干安い値段で作りたかったからなんです。ただ、将来的には値上げしたいという意見もあるんですけどね(笑)」(高橋さん)


最近では、クラウドファンディングを利用する鉄道会社も少なくない。主催者が幅広く支援を求めるこの仕組みなら、地域住民だけではなく全国から応援してもらうことができるが、その予定はないのだろうか。


「将来的には考えていく必要はあるのかもしれませんが、今のところ予定はないですね」(高橋さん)


「2017年に、『日本最古級』近江鉄道日野駅を未来に残すプロジェクトが実施されました。もともと日野駅の駅舎の改築をしてほしいという要望があったのですが、駅舎の維持管理が課題で、また自社全額負担で改築することは難しい状況でした。そこで、駅前の商店街の人たちが中心になって、クラウドファンディングを立ち上げて、駅舎の改修費用を集めていただいたことはありますね」(和田さん)


取材の最後、高橋さんは「地域の皆さんと一緒にできるイベントを開催したいですね。これまでは近江単独でするイベントが多かったですから」と付け加えてくれた。近江鉄道は全線を維持したまま、地域住民とともに次世代へとつないでいく。

近江鉄道株式会社

滋賀県彦根市駅東町15番1

TEL.0749-22-3303

https://www.ohmitetudo.co.jp/railway/

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