• Byakuya Biz Books

廃線危機が一転! 乗客がどんどん集まる岳南電車の魅力

■話し手:岳南電車株式会社 本多功典さん、フジパク 鈴木秀実さん、國分義久さん

#静岡県 #鉄道 #夜景


岳南電車は、静岡県富士市内の吉原駅と岳南江尾駅を結ぶ全長9.2キロのローカル線だ。沿線の工場地帯や昭和レトロな駅舎、牧歌的な風景を楽しむことができるほか、日本で唯一、全駅から富士山が見える路線としても知られる。もともと工場を結ぶ貨物輸送で地元の産業を支えたものの、2012年に貨物輸送が廃止されると収益が悪化。旅客輸送のみとなったあとは、乗客数の減少から長年苦戦してきた。ところが、地場の魅力を存分に生かした「夜景電車」がメディアやSNSでバズると、乗客数は徐々に回復し、この5年間で9万人も増えたという。夜景電車はどういうきっかけで生まれたのか。地方創生のヒントとしても役立つ取り組みを紹介しよう。



夜景電車はボランティアの働きかけから始まった


本多

静岡県富士市は昔から製紙産業が盛んで、市内には製紙工場がたくさんあります。この工場のパイプラインを結ぶ目的で、岳南鉄道は開業しました。ただ、沿線の製紙会社の縮小などを理由に2012年3月に貨物輸送が廃止になると、収益が悪化しました。


乗客数は1967年に510万7000人を記録したものの、2003年には66万9000人にまで減少。旅客部門だけでは鉄道事業が維持できないので、岳南鉄道の鉄道部門が岳南電車として分社化され、富士市から年間6500万円の補助金が交付されることになりました。


工場地帯を抜ける岳南電車(岳南原田駅)


岳南富士岡駅。右は貨物輸送廃止まで使用された機関車「ED501」


富士市内には製紙工場が今も多数稼動する


主力だった貨物輸送がなくなり、乗客数も減るなかで、何か手を打たなければならない。富士市は人口が26万人ですが、地元の人は岳南電車のことを知りません。とくに、岳南電車が走るのは市内の東側で、西側に住む人はほとんど乗ったことがないんです。公共交通は必要がなければ乗りませんよね。


だから、まずは岳南電車のことを知ってもらい、乗車してもらうきっかけづくりをしたいと考えていました。その最初の取り組みが、フジパクさん(富士山博覧会)からお声がけいただいた夜景電車でした。2011年2月のことですね。


鈴木

フジパクは、富士山周辺地域で街歩きイベントを行うボランティア団体です。岳南電車が廃線になるかもしれないと聞いたので、もっと岳南電車のことを知ってもらうために「夜の岳南鉄道、工場萌え~!な途中下車の旅」という企画をお願いしたんです。


それから年に一回程度、岳南電車夜景ツアーを開催しながら、くらやみの中から浮かび上がる電車、ほのぼのとした灯りの駅舎、電車から見える昔懐かしい車窓の夜の風景を「鉄道夜景」という新しい切り口でPRを続けました。


その成果が実を結び、2014年7月、一般社団法人夜景観光コンベンション・ビューローが制定した「日本夜景遺産」に認定されたんです。鉄道本体としてははじめてのことでした。

それから岳南電車に定期的な運行を持ちかけて、現在は月に2回、1日2便の運行に至るというわけです。


日本夜景遺産に登録された夜景電車(画像提供:岳南電車)



日本一暗い?夜景遺産


本多

夜景電車は通常の列車と異なり、室内灯を消し、窓を開けて外の夜景が楽しめるようになっています。車内では夜景観光士が、沿線の情報や写真の撮り方なども案内しています。


國分

今の形に落ち着くまで、1年くらいかかりましたね。最初は試行錯誤のくり返しでした。実際に何度も乗って、乗客の目線で足りないものを探して。


本多

社内では最初、夜景電車に対して反対意見ばかりでした。夜景電車は2両編成で後尾車だけ消灯するので、「暗い電車を走らせても意味がない」とか、「こんなくらい夜景を見てもおもしろくない」とか。


鈴木

そう。夜景はふつう明るいものだと思いますよね。ただ、ここの夜景は暗いのが特長なんです。日本夜景遺産にいよいよ登録されるとなったときも、夜景という夜景がないという話になったんですけど、「日本一暗い夜景として誇ればいい」と言っていただけて。


日本一暗い夜景遺産。ほのかな灯りが癒しを感じさせる(画像提供:岳南電車)


車内が消灯されると歓声が上がる


夜景観光士の資格をもった乗務員による案内も魅力


本多

たしかに派手な夜景ではないことはわかっていましたけど、夜景電車は富士市にしかないものです。背伸びする必要はなくて、その土地にしかないものを見せればいい。


夜景評論家の丸々さんや長崎市長の田上さん、フジパク代表の山崎さんたちと話すなかで、「お金を出せば、何でもできる。お金がないなら、今あるものをもう一度、資源として磨きなおしなさい」と教わったんです。だから、フジパクさんとタッグを組んで、会社を説得しました。

鈴木

実際、暗ければ暗いなりの魅力があるんです。東京や都会に住んでいる人たちはつねに光のなかで生活していますから、逆に癒しを感じてもらえる。

車窓から見る工場夜景は格別


國分

夜景電車に来てくれるのはほとんどが県外からの観光客なんです。貨物が廃止になって、岳南電車は廃線も考えていたときでさえ、沿線に住む人以外はそんなに関心がなかった。だから、興味をもってくれる観光客にまずアプローチして観光地として有名になれば、市民も興味をもってくれると思ったわけです。


鈴木

観光列車は全国にたくさんありますけど、わざわざ岳南電車のあの車両で観光列車をやる価値があるのかと、よく言われました。当たりまえに思っているものに対して、私たちはあまり魅力だと気づくことができない。


よく県外の方に「富士山を見てどう思いますか?」と聞かれるんですけど、富士山ですら、見慣れた当たりまえの風景なんです。県外の方から質問されて、はじめてその魅力に気づくことができる。


圧倒的な迫力の富士山も毎日見ていると当たりまえの風景になってしまう


本多

私は長崎県出身で、つまりここではよそ者でした。だからこそ、その魅力に早くから気づくことができたのかもしれません。一昨年ほど前から、学校で授業をする機会をいただくんですけど、県外から来た者として「自分たちが大きくなったとき、外に出てみると、ふるさとのスゴさがわかるよ」といった話をします。


地方はとくにどんどん人が減っています。地域を活性化させるためには、外の人に「ここにはいいものがあるよ」と訴えかけたほうが早いように思いますね。


本多功典さん(右)は夜景の本場である長崎市出身。夜景電車の発案者



「鉄道会社×ボランティア」が成功のヒミツ


鈴木

夜景電車が成功したのは、メディアに取り上げられたり、SNSで話題になったりしたおかげです。夜景電車は往復1時間程度のものですけど、毎回100人近くのお客さんが来てくれます。


本多

宣伝するお金はなくても、協力してくれる人たちがいました。みんなで協力して、口コミしたくなる魅力をうまく発信することができた。そして、その中心にいたのが市民の人たちだった。「日本一暗い夜景遺産」は、今では私たちの勲章です。


鈴木

「鉄道会社×ボランティア団体」という組み合わせはなかなかありません。夜景電車は毎回、岳南電車の乗務員が2名、ボランティアが2名入ります。もし鉄道会社だけで開催していたら、毎回4名必要になる。社員が少ないところで4人も借り出されてしまったら大変ですよ。


國分

実際、地方から視察に来た鉄道会社の方から「どうやって成功したんですか?」「イベントをしたいんだけど、なかなか周りがついてきてくれない」といった相談を受けることもあります。結果的に人件費が高くついてしまって、「やればやるほど赤字」なんてことも起こりかねない。鉄道会社が最終的に悩むのはそこで、結局、実現できない。


鈴木

よくメディアの方から取材を受けるとき、「なんで手伝っているんですか?」と聞かれるんです。岳南電車が続いてほしい気持ちもありますけど、やっぱり楽しいからです。もう趣味みたいなものですね。


フジパク 鈴木秀実さん(左)、國分義久さん(中央)


本多

今は多くの夜景ファンや一般客にウケていますけど、夜景電車だけではきっと「飽き」が来てしまう。だから、次の手を模索しています。夜景電車がきっかけになって、社内でもいろいろ考える人が増えてきました。


クリスマスの時期に電車を貸し切りにして、実際に走る電車に落書きするイベントや、完全予約制の貸し切りで運行する「ナイトビュープレミアムトレイン」なども開催しています。


鈴木

富士市に来てもらったあとも課題ですね。今日も(取材当日のこと)街歩きをしたんですけど、愛知や千葉から来た方がいたので、どこに泊まるか聞てみると熱海だったんです。


つまり、富士市には泊まらないということです。そもそも岳南電車の沿線にはホテルがありません。泊まろうと思ったら、新富士や富士宮、三島、静岡になってしまう。富士市にどうやって滞在してもらうか。いろいろデータも集めているので、今後は関係各所に働きかけていきたい。


本当は、富士市全員が「全線1日フリー乗車券」を買ってくれればすぐに黒字ですよ。でも、市民全員に乗ってもらうことは現実的じゃない。だからイベントで市外、県外から人を集めて、ある程度収入を得てもらう。


「全線1日フリー乗車券」(720円)。厚紙の硬券は今となってはめずらしいものに


そして、地域の人がずっと利用できる電車であってほしい。富士市は車で移動する人が多くて、それこそ1人1台のレベルです。でも、車を運転できなくなった高齢者が安心して岳南電車を利用できる。そんなあり方をともに目指していきたいですね。

岳南電車

静岡県富士市今泉1-17-39

TEL:0545-53-5111

https://www.gakutetsu.jp/

あわせて読みたい

HISだから実現できた、世界初「ロボットが働くホテル」誕生のヒミツ

※当サイト「ミライのアイデア」のテキスト・画像の無断転載・複製を固く禁じます

(C) Byakuya-Shobo Co.Ltd All Right Reserved.