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抹茶ブームで業界は右肩上がり!? 宇治茶の老舗「祇園辻利」が考える、お茶文化を守るために必要なこと



高い知名度を誇る祇園辻利の宇治茶。高級茶の代名詞としてもおなじみだが、最近ではミスタードーナツとのコラボをはじめ、抹茶スイーツで知る人も多いだろう。今や全国的な知名度を誇る祇園辻利の歴史は1860年、山城国宇治村(現在の京都府宇治市)にて宇治茶の製造と販売を開業したことに始まる。創業以来、その長い歴史の中でお茶を販売するだけにとどまらず、時代の流れに合わせて変化を続ける同社の現在地を探る。



祇園辻利の宇治茶はなぜ愛される?


――最初に基本的なことから教えてください。宇治茶って何か定義はあるんですか?


宇治茶は京都の宇治で生産されるお茶のことを言います。もう少しくわしく言うと、京都、奈良、滋賀、三重の4府県のお茶を、京都府内の業者が京都府内で仕上げ、加工した緑茶のことを言います。日本で栽培されているお茶の中では京都府産が約3%、宇治茶としての販売は約5%程度を占めているのではないかと思います。


――ということは、宇治茶にも煎茶や抹茶などいろいろな種類があるわけですね。


お茶は発酵程度によって緑茶、烏龍茶、紅茶などに分類されます。日本茶のほとんどが緑茶で、緑茶には加工方法の違いによって、抹茶、玉露、煎茶、ほうじ茶などさまざまな種類が存在します。


ちなみに、抹茶だけ少し特殊で、ほかのお茶と製造工程や使用目的が異なります。煎茶や玉露などはお湯で煮だして飲むものなので、お茶の成分が抽出されるような加工をする必要があります。簡単に紹介すると、茶葉を蒸した後に揉むことによって乾燥させる方法です。


一方抹茶は、茶葉を蒸して揉まずに乾燥させた、いわゆる碾茶(てんちゃ)を茶臼でひいて粉にしたものです。そして茶筅(ちゃせん)で点(た)てて飲んだり、加工用として練りこんで食べたりします。抹茶スイーツを想像していただければわかりやすいと思います。


碾茶炉


――そういえば、抹茶のペットボトル飲料は見かけませんね。


そうですね。粉なので沈殿するという理由もありますが、最も大きいのはペットボトル飲料にできるほど、抹茶の量が確保できないからだと思います。抹茶は採れる面積に限りがありますし、作業の手間暇もかかるので、価格的にもむずかしい。


現在のペットボトル飲料で最も多いのは煎茶(※)ですが、煎茶と抹茶では栽培方法が大きく異なることに加え、抹茶は石臼で1時間に40gしか挽けないなど希少であり、作業量的にも価格的にもペットボトルにできるほどの量を確保できないんです。


※煎茶は江戸時代の中期に永谷宗円が「青製煎茶製法」を発明したことで、その普及に大きな影響を与えた。機械化されて大量生産が可能になって価格も抑えられたことで、茶道用の抹茶と相対して庶民の間に広まっていったという歴史的背景がある


――栽培方法が違うというのは?


最も大きな違いは、栽培するときに日光を遮るかどうかです。茶葉にはテアニンという旨みの成分があるんですが、このテアニンは日光を浴びるとカテキンに変わります。そうすると苦味、渋みが出てくるんです。この日光を遮ることでテアニンを残して旨みにつなげるんです。ただし、日光を遮るためにカーテンのようなものを茶畑の中に作る必要があって、そうすると茶葉を摘み取る大きな機械が入れないわけです。煎茶はそれが可能なので、大量生産できるんですね。


覆下園


――祇園辻利の宇治茶が長く愛され続けてきた理由を端的に言うと何になりますか?


我々お茶屋の仕事は、その年に採れたお茶を大切にしながら、良い商品にして販売することです。その点で、一番おいしいと思う味にブレンドすることが一番の持ち味だと思っています。お茶は作物ですから、不作の年もあれば、品質がいい年もあります。だからといって、「今年のお茶はおいしくないです」は通用しません。一定の品質に仕上げることができるのは、長年培ってきた技術のおかげですね。


――年によってそれほど差が出るものなんですね。


茶畑に行くと、霜の影響で茶畑全面が真っ赤になってしまったり、病害虫が発生して茶園全体がダメになることもありますね。


何百年間の職人たちの研鑽により作り込まれたお茶の製造工程により作られた茶葉。祇園辻利では11種類の茶葉を取り扱う


――今ではペットボトル飲料がたくさん発売されてますが、祇園辻利も引き合いが多いのでは?


そうですね。ペットボトル飲料が初めて発売されたのが1996年のこと(※)ですが、そのあとぐらいにお声がけいただいたことがあります。


※1980年に伊藤園が「缶入り烏龍茶」を発売して、1985年に缶入り煎茶、1996年に初めてペットボトル飲料を発売した。


――実現はしなかったんですか?


ペットボトル飲料には添加物が入ります。すると、お茶の本来の実力が出せないものになってしまうんです。ペットボトル飲料のおかげでお茶の生産量は上がりましたし、お茶業界にとってはすごいイノベーションが起きたと、私は尊敬してはいます。ただ、会社の方針にはそぐわなかった、ということですね。


祇園辻利の抹茶は1時間にわずか40グラムの生産。石臼を使い、ゆっくりじっくり挽くことで、最高品質の抹茶が完成する



新しい需要を開拓した甘味処「茶寮都路里」の開店と名物「抹茶パフェ」の誕生


――祇園辻利といえば、茶寮都路里の抹茶パフェで知る人も多いですよね。どういう経緯でスタートしたんですか?


茶寮都路里が開店したのは1978年なんですが、その前身にあたる「お茶飲み道場」という喫茶部を1970年初頭から運営していました。ちょうどこのときは大阪万博がありまして、西洋文化が輸入されました。要は朝にパンとコーヒーを食べるといったライフスタイルですね。家で日本茶を急須に入れて飲むという習慣がなくなっていくのではないか――つまりお茶離れを危惧していたんです。


ですからもっとお茶を気軽に、楽しく飲んでいただこうと始めました。最初はぜんざいなどを出していたのですが、お客様の要望を受けて、抹茶が練り込まれたアイスクリームを出すようになりました。その後カステラなども作り、最終的に抹茶パフェが誕生したのです。


1978年にオープンした茶寮都路里。宇治抹茶を贅沢に使った良質な抹茶スイーツを開発・提供する


――今では抹茶パフェで知る人も多いと思いますが、茶寮都路里は最初から大盛況だったわけではないんですよね。


そうですね。舞妓さんに飲食チケットを渡して食べに来てもらうようにしたら、舞妓さんが食べに来る喫茶店として人気を呼んだんです。現在の祇園は観光地ですが、当時の祇園は夜の街なので、昼間にお茶を出しても全然売れなかったと聞いています。そこでどうやったら人を呼ぶことができるのかを考えたわけですね。


その戦略は大きく当たったのですが、大行列ができてお店になかなか入ることができず、お叱りを受けたという話も聞いています。


――茶寮都路里が全国的な知名度を獲得したのは、2002年にカレッタ汐留へ出店したことも大きいですか。


はい。当社としては東京進出が初めて経験でしたし、京都から遠く離れた東京で運営するのはすごくハードルが高かった。たとえば東京の水と京都の水は全然違いますから、あんこや白玉など、すべての味に影響します。ですから最初は、京都から水を送っていました。それぐらい腹をくくっていたんです。結果的に成功を収められたことは大きいと思います。


特選都路里パフェ


――京都と同じ味を再現することが重要だったんですね。


お茶にも同じことが言えますが、本物を提供することが大事なんです。品質を落としてしまうと、どれほどの歴史があっても許されないと思うんですよ。銭勘定の前に品質を大事にする。京都のお店と東京のお店でまったく違うものを出してしまったら、結果的に顧客離れを起こしてしまいます。その点は細心の注意を払ったのではないかと思います。


――今でも出店依頼は多いですか?


ひっきりなしに来ますね。ただ、当社は小さく始めて大きくしていくのが基本的なスタンスです。本物を提供するというのは、商品でも接客でも質が問われます。どんどん拡大をしていったとき、我々がコントロールできる状況になるのか。長くリピートしていただいているお客様の期待を裏切るわけにはいきません。


――京都といえば訪日外国人からの人気、いわゆるインバウンド需要が大きかった分、新型コロナウイルスの影響も大きかったのでは?


大きな影響がありましたね。当社に限らないと思いますが、京都インバウンドの恩恵をすごく受けた地域です。喫茶店は席数、回転数、顧客単価で決まります。席数が制限され、ソーシャルディスタンスと言われる中で、withコロナ、アフターコロナに向けてどういう形になっていくのかは日々悩んでいるところですね。


三好雄大さん(みよしゆうだい)さん/株式会社祇園辻利専務取締役。1992年生まれ、立命館大学出身。2015年にみずほ銀行に入行、2020年に株式会社祇園辻利入社し現在に至る



アフターコロナに向けて、祇園辻利の次の一手は?


――現在の抹茶ブームについてはどう思いますか?


お茶業界にとって本当にありがたいことだと思います。その上で、お茶ユーザーをどう定義するかが大事だと思っています。


現在の抹茶ブームは基本的には抹茶スイーツブームと言えます。抹茶スイーツを楽しむ人をお茶ユーザーと捉えるなら、お茶ユーザーの拡大には寄与したと言えますよね。お茶を飲む人であれば、ペットボトル飲料が寄与したということになります。


では、お茶を急須で淹れて飲む、抹茶を点てて飲むことに結びついているかというと、そうではないと私は思っているんです。実際、清涼飲料水としての緑茶の消費量や、加工用の抹茶の消費量はここ10年右肩上がりですが、茶葉の消費量は右肩下がりですから。


――祇園辻利としては、そこに対する別のアプローチが必要だというわけですね。


そうですね。いろいろな側面から考える必要があると思っています。「お茶飲み道場」や「茶寮都路里」を始めた理由はもっとお茶を飲んでほしいからであって、スイーツを入口にしたわけです。そこから火がついて、スイーツブームでさらに盛り上がった。ただ、急須でお茶を淹れるユーザーが増えたわけではありません。もちろんこれからもスイーツ路線は拡大していきますが、別の方法も考えなくてはなりません。


――そのために必要なことは何でしょうか。


お茶そのものではなくて、お茶を淹れる、お茶を点てるという行為のハードルが高いと思うんです。テストマーケティングというと、ちょっとかっこよく言いすぎなんですが、祇園辻利のリニューアルはその一環ですね。私は常々、「お茶は本当に売れないのか?」という疑問を持っていたんです。おそらく知らないだけで、お茶の入れ方やおいしさを知ってもらえれば、自宅で試していただけると思っていまして。そもそも急須での入れ方がわからないのに、茶葉が詰まった箱が陳列されていても、手に取るはずがない。


ですからそのきっかけを作りたいと思っています。ありがたいことにECは順調に推移しているんですけど、ECではなかなか伝えられない部分をリアル店舗で伝えていきたい。お客様と相対して伝えることができるのはオフラインの強みだと思っているので、まずは小さく始めてみました。


11年ぶりに改装した祇園本店。茶道具「茶筅」がモチーフとなったベンチや茶寮都路里のお持ち帰りスイーツが並ぶ冷蔵ショーケースの設置、さらには店内の奥では専門スタッフによるテイスティング、コンシェルジュカウンターが設けられている


――主なターゲットはお茶文化に親しみのない世代ですか?


そうですね。あまりお茶に親しんでない方にも、その魅力をお伝えできていると思います。先日、カフェインを摂取するためにコーヒーを飲んでいる方が来店されたんです。そこでお茶にはコーヒーと同じようにカフェインも入っているし、さらにビタミンといった栄養素もたくさん含まれていることをお伝えしたら、スターターキット的なちょっとした道具をお買い求めいただきました。


ただ、案外、お茶の玄人の方にもウケがいいんです。たとえば煎茶や玉露などは、お湯の温度を上げたり下げたりすることで味がまったく変わるんですよ。ところが、家で温度計でいちいち計るのはめんどうくさいですよね。ですから温度計を使わない手順をお伝えしたり、最後の一滴に旨みを入れたら味が変わることを伝えたり。お茶をよく飲む方でも意外と知らないことって多いんですよ。


――今後はやはりリアル店舗を重視していくんですか?


これまではリアル店舗とECの差別化を図ってきました。これからは両者の連動も一つの目標ですね。たとえばユニクロでは「ユニクロに試着に行き、ネットで買う」ことができます。商品自体は全国どこにいようが取り寄せることが可能な時代なので、店舗にしかないものを作るというのは違うと思っています。店舗に行って得られる価値は、モノというよりは、いろいろな話が聞けたり、ちょっとずつ試飲ができたり。そして、「次はネットで買います」といった連携を加速させる、そんなことに挑戦してみたいですね。


茶道具「茶筅」がモチーフとなったベンチ

 

https://www.giontsujiri.co.jp/