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  • 執筆者の写真Byakuya Biz Books

【寺×スイーツ②】等正寺「キャラメルシフォンケーキ」

更新日:2021年8月20日



人口10万人当たりの寺院数が1位の滋賀県(2018年文化庁宗教統計調査)。その滋賀県でスイーツが人気の寺社仏閣を訪ねる短期連載。第2回は別所山 等正寺(大津市)の境内にある佐知's Pocket。店主は料理学校で講師の経験を持つ本格派のシェフ。スイーツを販売するいきさつや、その裏にある思いなどを聞いた。



お寺の中にある本格洋菓子店「佐知's Pocket」

食べる直前にかける特製キャラメルは絶品!


大津市に境内を構える別所山 等正寺は、浄土真宗大谷派の寺院。旧東海道の間道“小関越”の滋賀県(近江)側の入口にあり、室町時代(1465年)に浄土真宗本願寺派の八代目・蓮如が延暦寺の焼き討ちによる追ってから逃れ、堅田・守山・大津などに身を隠していたとき、等正寺にも3年ほど滞在した旧跡とされる。


今回訪れた「佐知's Pocket」は、その等正寺の境内にある本格洋菓子店だ。店主は、京都の大和料理学園(現:大和学園 La C arriere)で料理を教えていた石原佐知さん。このお店を構えて、今年で30年になるという。


「お寺に嫁いでからも自宅で料理を教えていたのですが、生徒さんからの要望でお店を開くようになったんです」


石原さんが大事にしているのは、“身体にやさしくて、おいしいもの”。看板商品のキャラメルシフォンケーキは、たっぷりのキャラメルで焼き上げたフワフワモチモチの生地に、生クリームと手作りの特製キャラメルで仕上げたビターな大人の味わいが特徴だ。このキャラメルシフォンケーキ、実はお取り寄せで全国的に有名なことをご存じだろうか。


「2014年ごろ、雑誌『婦人画報』のお取り寄せランキングで1位になり、表紙に掲載されたんです。それからテレビに取材されることも増えて、通販サイトがダウンするほど反響がありました。お寺とケーキというミスマッチがおもしろいんでしょうね」



お菓子がきっかけで、お寺に孫を連れてくることができる

小鳥の鳴き声や木花、四季折々の自然を感じるロケーションや、300匹ほどの大型の錦鯉に癒される


「通販の注文は北海道から沖縄まで。個人はもちろんのこと、百貨店や高級スーパー、さらには自動車ディーラーで商談用のお茶菓子まで……。さまざまな方がご注文くださいますね。発売から25年がたちますが、コツコツがんばってきた結果だと思います」


キャラメルシフォンケーキはもともと通販で販売された商品。その後、カフェのオープンに伴い、店内でも食べられるように改良したのだ。お店が話題となり、等正寺にお参りに来る人も増えたそう。


「県内だけでなく、愛知や三重、大阪、京都など、他府県からもお越しになります。お寺にとって悪いことではないと思うんです。山里にはなかなか来ていただけませんから。わざわざここまで足を伸ばしていただけるのはありがたいですよね」


等正寺は美しい庭園も人気の一つ。だが、石原さんがお寺に嫁いだときは、誰もここに庭園があることを知らなかったという。そこで石原さんは庭園も開放し、おいしいスイーツを食べながら、この美しい景観も楽しめるようにしたのだった。


「私はお寺を身近に感じていただくためのきっかけづくりをしているんです。お墓参りされる方の高齢化や、墓じまいをされる方も増えています。お墓参りはおじいちゃんやおばあちゃんだけ、ということも少なくありません。核家族が多いことも影響しているでしょう。もし祖父母や親に連れられてこられた記憶がないまま大人になれば、お寺とつながることはできません」


お寺の敷居を低くすることで、次の世代に仏縁をつなぐ。石原さんの取り組みは少しずつ実を結んでいるという。


「一人でお墓参りに来たおばあちゃんが、『お菓子を売っているなら、今度は孫を連れてこよう』『お惣菜があるなら、嫁を連れてこよう』とおっしゃってくださることもありました。そういうつながりを大切にしないと、お寺はどんどん衰退してしまいますから」



料理学校での経験が、今の佐知's Pocketを形作っている

カフェのテーブルのセッティングや建物など一式の環境を整えたのは住職


佐知's Pocketにはキャラメルシフォンケーキだけでなく、パウンドケーキや季節限定スイーツなど、思わずあれもこれもと食べたくなる洋菓子がたくさんある。一見、お寺とはミスマッチかもしれないが、つねにお寺は意識しているそう。


「洋菓子だからといってお寺のことを考えていないわけではないんです。たとえば、丸いお盆に盛りつけたり、黒や赤といった和食器を使ったり。洋菓子でも、全体として和のイメージを出そうとしているんですよ」


実は洋菓子だけでなく、境内では創作懐石料理(予約制)も楽しめる。懐石料理は2名から34名まで。法事、祝席(宮参りや七五三、誕生日など)、女子会などが多いとか。


「法事のあとはよくバスや車を手配して、レストランなどに移動しますよね。ここなら本堂から出てすぐに食べられます。さらにケーキを粗供養として持って帰ることもできる。『ここなら手ぶらで来られる』と喜ばれますね」


本格洋菓子に創作懐石料理。さらにはお店の入口には洋菓子と並んで惣菜も販売している。これほど幅広い料理を提供できるのは、石原さんのキャリアに秘密がある。


「学校で日本料理を専攻して、調理師免許を取りました。それから洋菓子も勉強して。私がやりたかったのは一般の女性が集う料理教室だったので、そのまま学校に就職希望を出しました。当時はパティシエなんていう言葉もない時代。女性の就職先は給食センターしかありませんでした。『女の体温は高いから』という理由でお寿司屋さんも就職できなかったんですよ。だから学校の講師も男性ばかり。それでも、『やってみたら?』と推薦していただき、女性初の講師として勤めることとなりました」


石原さんは学校に就職すると、おもてなし、喫茶、洋菓子、ブライダル、居酒屋(!)など、バラエティーに富んだコースで教えることになる。その経験が今に生きているのだ。


「お寺にケーキがあったり、ケーキとお惣菜が並んでいたり、ちょっと変ですよね。それは料理学校のさまざまなコースで働いたからだと思います。多種多様な料理に関われましたから」


日本料理で調理師免許をとれば、ふつうは日本料理を専門にすると思うはずだ。西洋料理なら西洋料理を作る。そんな常識を破ることで、結果的にお寺のイメージもくつがえし、今では幅広い年齢層の人々が等正寺を訪れる。


「12月はお寺からクリスマスチキンとケーキが出ていくんですよ」


そう笑う石原さん。家族や地元の人たちに助けられながら、おいしい料理で多くの人とお寺をつなぐ。

 

■話を聞いた人

佐知's Pocket 石原佐知さん


■概要

佐知's Pocket

住所:大津市小関町(等正寺境内)

電話番号:077-522-0639

https://www.sachis-pocket.co.jp/

 

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