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瞬読ははたして読書なのか? その本当のねらいを探る

■話し手:一般社団法人瞬読協会 山中恵美子さん

#東京都 #読書 #本



2018年11月に発売されると、またたくまにベストセラーとなり話題を呼んだ『1冊3分で読めて、99%忘れない読書術 瞬読』(2020年9月時点でシリーズ累計12万部)。著者は一般社団法人瞬読協会の代表理事であり、SSゼミナールをはじめとした学習塾を経営する株式会社ワイイーエスの社長としての顔も持つ、山中恵美子さんだ。11年前は専業主婦だった山中さんはどのように瞬読をつくり上げたのか、瞬読を通して何が得られるのか、そもそも瞬読は読書を豊かにするためのものなのか。本人の経歴をふり返りながら探ってみよう。



本は1冊3分、新聞の一面は1分で読める?


――瞬読は従来の速読とは違うものなんですか?

大きなジャンルとしては速読に分類されますが、厳密には違いがあるので、瞬読と名付けました。従来の速読法は眼筋トレーニングに頼る部分が大きかったのですが、瞬読は右脳の力を利用して読みます。そのため、高い理解度を保ったまま、短時間で本を読むことができるようになり、情報処理能力がアップします。

情報処理の重要さはあらためて強調するまでもないと思いますが、これだけ情報があふれるいまの時代、すばやく情報処理ができるかどうかで、仕事や日常生活で格差が広がっていきます。情報処理のスピードが上がれば、手持ちの時間を増やすことにもつながります。逆に、限られた情報で生きていると思考が狭くなり、視野や価値観だって広がりません。

――なぜ、瞬読を身につけると情報処理が速くなるんですか?

高い理解度を保ったまま圧倒的なスピードで読めるようになるからです。脳がアップグレードするというか。車でいうと、エンジンを高性能なものに載せ替えたイメージです。瞬読の根幹はインプットしたらアウトプットすることにあります。言い換えれば、読んだ内容をイメージで取り込み、読んだあとに内容を書き出します。

人間の頭はアウトプットしたことは忘れづらい。だから、高い理解度を保つことができるわけです。瞬読後に書き出す内容は、最初は印象に残った部分、好きだと思った言葉がほとんどですが、次第に本の要旨をつかむことができるようになります。


山中恵美子さん。一般社団法人瞬読協会代表理事、株式会社ワイイーエス代表取締役社長


――読んだ内容をイメージで取り込む?

そうです。瞬読のトレーニングで大事なのは、「ただ見ること」です。トレーニングを簡単に説明すると、最初はランダムに配置された文字のグループを自分自身の知っている言葉に変換します。

次に、複数行の文を瞬時に読み取ります。読み取るといっても、一言一句ていねいに読み取るのではなく、文字をビジュアルとしてイメージ化します。この訓練をしてから、実際に本を読んでみる。

そして最後に本の内容を手書きでアウトプット。箇条書きでも印象に残った単語をいくつか書き留めるだけでも十分です。これをくりかえしトレーニングすると、パッと見ただけで答えがわかるようになります。

数時間の訓練で、1分間の読むスピードが約2万字になる人もいますし、成長がゆるやかな人でもトレーニングをくり返せばそのレベルに到達することはめずらしくないんです。わかりやすく言うと、たいていの本が約3分で読める、新聞の一面なら1分で読めることになります。


左の問題の答え:①限界を決めない/②疑問をもつ/③ギリシャ神話/④笑顔がかわいい


――本当にそこまで読むスピードがアップするんですか?

もちろんです。ただ、実際に自分で経験してみないとなかなか信じられないですよね。じつは書籍化の企画も、出版社の会議で一度落とされてしまったんです。「速読の市場は飽和状態だから」って。

でも、編集者に「どうしてもこの本を出したいから、上司の読むスピードを上げてください」と相談されたので、出版社に出向き、1時間で上司の読むスピードを上げたんです。そうしたら、その場で出版が決まりました。

――結果的に大ヒットしましたね。

年間で10万部売れる本は業界でも数えるしかないそうで、ちゃんと話を聞いてくれるようになりましたね(笑)。

――瞬読のトレーニングに向いているのはどんな本ですか?

読んでいてネガティブになったり辛くなったり、さみしくなる本は向いてないですね。逆に、何回読んでもワクワクしたり、気づきのある本が向いています。ジャンルで言えば、勉強とか情報が得られる内容のもので、小説とか哲学とか、熟読すべき本は選ばないほうがいい。

私はすべての本を瞬読すべきだと思っていなくて、精読や熟読も大事だと思っています。人間はイメージだけでは生きていけないので、相手に伝わるように言葉にする論理的な訓練だって大切ですよね。



専業主婦から学習塾の経営者へ


――山中さんはもともと専業主婦で、学習塾を立ち上げ、いまではベストセラー作家と、多彩な経歴をお持ちですよね。

最初は自分で学習塾を開くつもりはなかったんですよ。リーマンショックのとき、夫の仕事がうまくいかなくなってすごく貧乏になって。そのとき私は専業主婦で、子どもは小3と幼稚園児。どうやって生きていけばいいかわからないような状態だったんですけど、長男が「塾に行きたい」と言い出した。

だから、まずは情報収集のために中学受験で有名な塾に聞いて回ったんです。お金はないけど時間はありましたから。すると、どこに行っても「土日は塾に来てください。習い事はやめてください」と言われてしまったんです。

当時、長男は将来、甲子園に出たいという夢を持っていて、野球だけは習わせていたんです。ところが、塾に通うならやめないといけない。長男は野球をしながら勉強したい。私としても、こんなにがんばっているスポーツと勉強を両立できないのか疑問に思ってしまった。

そして、こんなにたくさん塾はあるのに親として預けたい塾がないなら、自分でつくってしまおうと思ったんです。



――業界経験がない中でスタートするのはかなり苦労されたんじゃないですか?

そうですね。まず親に頼んで、300万円借りました。というのは、日本政策金融公庫(当時は国金)にも断られたんですよ。「新規事業にお金は出せない」って。リーマンショックのときだから、貸し渋りですよね。

親に借りた300万円のうち、100万円は使わないで残しておこうと思っていたので、200万円ですべて用意しました。コピー機や電話、家賃と払うとどんどんなくなって。知り合いに1000円の長机と500円のパイプイスを譲ってもらったり。

先生を集めるお金もなかったから、知り合いのツテで教育関係者400人くらいに電話して、ようやく2人雇うことができたくらいです。

――生徒はどうやって集めたんですか?

ポスティングと織り込みチラシです。開業しても生徒が来なかったらおしまいですから、夜中に必死でポスティングしましたね。

――親が子どもを預けたくなる塾として大切にしていることは?

創業当初からずっと、子どものやりたいことと学業を両立させることを大切にしています。

生徒一人ひとり、目指すものは違うはずで、全員が東大の医学部を目指しているわけじゃない。生徒にとってのゴールを目指すべきだと思っているんです。

両立させようと思ったら、勉強時間そのものは少なくなります。でも、勉強よりも大事なのは、人生は思考やメンタルによってよくも悪くもなるということなんです。それをしっかり伝えないといけません。

子どもが「甲子園に行きたい」と言えば、周囲は「夢みたいなことを言っているよ」とか「親の運動神経を見てみろ」とか否定的な反応が多い。「医者になりたい」と言えば、「親族に一人も医者がいないのにムリだ」とか。そう言われてしまったら、その子の夢はそこで終わってしまいますよね。勉強しようという気さえ、なくなってしまうかもしれない。



――合格率などを重視するのとは一線を画す考え方だと思いますが、そう思うに至ったきっかけがあったんですか?

貧乏だったとき、図書館で西田文郎先生(※)の本に出合ったんです。一言で表現するなら、「すべては自分が口にする言葉で決まる」ということが書いてあった。

当時は「なんで、私だけ貧乏なのか」という他責が強くて、まわりがうらやましいし、卑屈にもなっていました。不幸なのは自分のせいだって漠然とは気づいていましたけど、それまでふつうに苦労せず生きてきて、はじめて貧乏になったから。

唯一の娯楽が図書館で本を読むことだったので、いろいろな本を読んでいたんですけど、何を読んでも「私のすべての原因は思考にある」ということが目についた。無意識のうちに

自分の欲しい言葉だけ拾っていたんだと思います。

そのなかでも西田先生の本は私が思っていたことをすべて言葉にしてくれていて、とても衝撃を受けましたね。そしてホームページを調べたら、アスリートに教えたり、ビジネス教育もしているとわかったので、思わず電話してしまったほどです。

その後、社員教育に導入したり、塾の生徒や親を1500人集めて講演を開いていただいたり。それぐらい、思考一つで人間は変わるなと実感した出合いでしたね。

西田文郎……日本におけるイメージトレーニング研究・指導のパイオニア。1970年代から科学的なメンタルトレーニングの研究を始め、大脳生理学と心理学を利用して脳の機能にアプローチする画期的なノウハウ『スーパーブレイントレーニングシステム』を構築。アスリートやビジネスマンを数多く育成している。



瞬読が目指すのは、柔軟な頭の使い方


――瞬読はいつごろ生まれたんですか?

4年ぐらい前ですね。きっかけは大学入試改革です。大学入試改革が何かというと、暗記型の試験から、思考力や判断力、表現力……つまり主体性が問われる試験に変わるということです。パソコンも携帯電話もなかった時代と違って、いまは検索すれば情報はすぐに手に入れることができます。検索して出てくることを覚えるよりも、その情報を使って何をするかのほうが大事なわけです。

たとえば、早稲田大学や慶應義塾大学は、2022年には入学者の7割を推薦入試で取ると決めています。いまでも6割ですよ。それが意図するのは、暗記型の子はいらない、ということです。慶應義塾大学の小論文の傾向を調べると、知識を問うのではなく、自分の意見がちゃんと言えるかが問われている。

それなのに、学校や塾では○か×の試験に向けた勉強を教えていて、実際、塾の生徒たちは――塾に学びに来ている子どもたちでさえ――自分の考えや意見を文章で書けない、発表できないという状態でした。

では、新しい試験で求められる能力はどうやって身につけることができるのか。まず足りていないと思ったのは語彙力、基礎知識だなと思いました。生徒にどのくらい本を読むか聞いたら、月に1冊も読まないことがほとんどなわけですよ。それでは知識が足りなさすぎる。

本を1日10分でも読む時間をつくって基礎知識を貯めていけたら、変わっていくはず。月に1冊しか読まない子どもたちにもっと読んでもらう方法を探していて、まずは速読に興味を持ったというわけです。



速読の本を片っ端から読んで、セミナーにも行って、自分のできる範囲で徹底的に調べました。そして、自分なりに編みだしたのが瞬読です。最初は生徒を8人集めて、「本を早く読める方法を試してみない?」と誘い、夏休みに試してもらいました。

すると、ほとんどの生徒が1カ月で劇的に早く読めるようになった。最初は信じられなくて、本当に読めているか内容を確認したら意外とわかっている。これはすごいと思って、本格的に取り組みはじめました。

瞬読には意外な効果もあって、暗記テストの成績もよくなったんです。読むスピードが速くなることで、集中力が高まり、結果的に記憶力も上がる。ずっと社会の暗記が苦手だった子が、中学3年生のときにクラスでトップを取ってその子自身も親も驚いたくらい。

――瞬読は学習塾の生徒のために考えたものだったんですね。

塾がなければ瞬読は生まれていません。最初は塾の生徒に教え、その効果を見た親に一緒に習わせてほしいと言われて、拡大していったからです。本を読むようになると、親とちょっとした会話ができるようになりますよね。知識が増えていくから。

いま、情報弱者という言葉がありますけど、情報や知識の差が貧富の差を生んでしまいます。どんな情報でも取れる状況が整っていますから。そんな時代に、先生や親、友達から聞いたことしか知らないのか、それとも自分からどんどん興味を広げて新しい情報を取れることができるのか、どちらがいいかはすぐにわかりますよね。

瞬読はただ本が早く読めることを目指しているのではなくて、柔軟な頭の使い方を訓練するためのものです。たくさんの情報を処理できる力を使って、何をするかが大事なんです。それはうちの塾に通う生徒たちが証明してくれています。




子どもたちが目指したくなる大人を見せたい


――学習塾はいまどのくらい展開しているんですか?

20校以上ですね

――そこまで成功を収めた理由は?

塾を開いて1年で生徒数が100人を超えたんですね。そして、その1年間で一人も辞めなかったんです。そんな塾はないんですよ。一人も辞めないということはつまり、満足度が100パーセントということです。

全力で生徒の学力を上げつつ、先生を教育したことも理由の一つだと思っていて。先生は茶髪もピアスもネイルもオッケーです。とにかくオシャレをしてきなさい、と。子どもにとって魅力的な先生は、オシャレで勉強もできる、そんなかっこいい大人のはずだからです。

先ほど、人生を左右するのは勉強ではなくて、思考やメンタルだとお話ししましたけど、うちの塾では、よく生徒と親を招いて講演会をします。実際の成功者から直接、話を聞いてもらいたい。目指したくなる大人を実際に見せたいんです。

私もよく講演会やセミナーをさせていただきますが、貧乏だったことがあまり知られていない。でも11年前は幼稚園代も払えなくて、家中の貴金属と車を売り、保険も解約して、質屋に行ったほど貧乏でした。いま、セミナーや講演会に来てくださる誰よりも貧乏だったんです。

他責でネガティブだった私でも、思考でここまで変わることができた。それを見せることで、何かのきっかけになって救われる人がいればいいなと思っているんです。

それは本も同じで、ある中学生の生徒が、前田裕二さんの『人生の勝算』という本を読んで「この人は両親がいないのに、大学を出ていてすごいな。俺はめちゃくちゃ恵まれている」って言ったんですよ。

――中学生がビジネス書を読むんですか?

瞬読のトレーニングでは、本を手当たり次第に読むので、ビジネス書も読む生徒がいます。ちょっと語彙力が上がるとそういう本にも手が出るんです。そして、その経験がいい影響を与えるんです。



――今後、瞬読をどう展開していきたいですか?

瞬読が当たりまえにできるようになれば、子どもたちの基礎学力は劇的に上がるはずです。うちの塾の生徒たちがそうだから。実際、教育関係者からいくつか話もいただいているので、できるなら義務教育にも入っていきたい。

そのほか、脳トレとして活用できる状況も整えたいと思っています。人間として長生きするなら、脳も健康であったほうがいいですよね。

瞬読は子どもでも高齢者でも、誰でも練習できてそれぞれに合った効果が見込めます。その特長を生かして、どんどん拡大させていきたいですね。

一般社団法人 瞬読協会

https://syundoku.jp/

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