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  • 執筆者の写真Byakuya Biz Books

日経トレンディ「2019年ヒット商品ベスト30」第1位! ワークマンが大ヒットした本当の理由

更新日:2021年8月20日



「ワークマン」が日経トレンディ「2019年ヒット商品ベスト30」で第1位に輝いた。新店舗である「ワークマンプラス」の成功によって、職人向けの専門店というイメージを払拭。創業以来、大事にしてきた「高機能×低価格」というコンセプトが一般客にも認知されたことが大きかったといえるだろう。同社営業企画部の丸田純平さんに、この大躍進を支えたワークマンの哲学を教えていただいた。



ワークマンプラスが誕生したきっかけ


ワークマンはもともと、プロの職人向けのお店として1980年に誕生しました。作業服や作業用手袋や安全靴などを扱う専門店で、全国で850店舗以上を展開しています。


ただ、人口統計的な観点から、店舗数の拡大には限界があること、売り上げも徐々に厳しくなっていくだろうという認識がありました。そのため、会社としては新たな客層拡大が最優先課題だったんです。


そんなとき、当社のあるウェアがライダーの間でバズりました。5~6年前のことです。雨や雪に強い作業用として6800円で売り出したものが、「暖かくて防水性のあるアウターが欲しい」というライダーの需要とマッチしたんです。


そのヒットおかげで、一般の人にも買ってもらえることがわかりました。そして、ターゲットの人口層が多いことと、作業着に共通する機能が酷似していることから、アウトドアやスポーツ用のアイテムを追加していきました。


2年ほど前から、新ブランドとして、レインウェアの「イージス」、アウトドアの「フィールドコア」、スポーツウェアの「ファインドアウト」をスタート。社内ではこうした新ブランドの商品開発に力を入れる価値があり、商品力も上がってきたという自負がありました。


4900円とワークマンのなかでは比較的高額な部類ながら、ここ数年でもっとも売れているアイテム


一方で、売上率の伸びは期待したほどではありませんでした。前年比105パーセントとか微増はしていたのですが、もっと売れるはずだという認識です。それなら、これまでとは違ったアプローチをすることで、一般の人に対する認知度を上げていこう。その一つの試みがワークマンプラスとしての出店でした。


そして昨年9月、東京都立川市の「ららぽーと立川立飛」に、新しいカジュアルウエアブランド「ワークマンプラス」の1号店をオープンしました。それまで展開していた路面店ではなく、はじめてショッピングセンターに出店したんです。


既存のワークマンとワークマンプラスの最大の違いは、売り場のレイアウトです。一般の人が入りやすくて、商品を探しやすいことを重視しました。照明を入れたり、マネキンを導入したのも、そんな理由からです。


ワークマンの店内


ワークマンプラスの店内


ワークマンプラスが成功したので、現在は既存のワークマンでも売り場の分離改装を行い、ワークマンプラスとしてリニューアルオープンすることを進めています。これまでの路面店では、一般向けの商品は職人用の商品と一緒に埋もれていて、お店に入っても探しにくい環境でした。


売り場を改装すると、入り口から向かって左側が一般の人向け、右側が職人向けになります。新店舗や改装を含めると、来年2020年の3月末までには172店舗をワークマンプラスにする予定です。



4000億円の市場規模といわれていた「高機能×低価格」


ワークマンプラスは認知度アップのきっかけとなりましたが、多くの人にご支持いただけたのは、当社のコンセプトである「高機能×低価格」があってこそだと思っています。


アウトドア業界では、この「高機能×低価格」というゾーンにどの会社も参入しておらず、4000億円の空白市場といわれていました。それまでアウトドアのウェアといえば、1万円以上するものが定番で、それしか売れないというのが常識だったんです。ところが、当社のアイテムは機能性にすぐれていて、さらに1万円以下で購入できます。


機能性が高いのは、作業服でつちかった技術を生かしているからです。働く人のストレスを極力減らすため、立体裁断にしたり、ストレッチ性を上げるなど、さまざまな研究を重ねてきました。


たとえば、撥水Tシャツというアイテムは、もともと飲食業などのサービス業に従事する人たちに向けてつくったのですが、一般の人にも大ヒットしました。赤ちゃん用にもつくってほしいという要望をいただいたほどです。


ケチャップもつるんと落ちる撥水Tシャツ(580円)。この価格で出したところはないそう


また、ふつうの女性用ズボンやスラックスは、スタイルをよく見せるためにポケットがありません。スマホさえ収納できません。でも、当社のアイテムはポケットをつけて機能性にすぐれつつ、ポケットを隠して目立たせなくするといった工夫をしています。



セールもアウトレットも必要なし。安さへの徹底したこだわり


価格にもこだわっているのは、職人向けの商品は機能性に加えて低価格であることも欠かないからです。仕事がらどうしても汚れやすく、消耗するスピードも早いので、短いと3カ月、長くても半年程度で買い替えます。気軽に買える値段じゃないと、手を出しづらいんです。


実際、値段が上がると販売数が落ちます。値段が上がった分、大切に使おうという意識が強く働くのかもしれません。


低価格を実現できる理由は大量生産、大量発注によるコストダウンです。一般的にアウターは1万着売れればいいところ、10~20万着単位で工場に発注します。工場にも閑散期と繁忙期がありますが、注文が集中する時期を避けて発注するので、工場も仕事が安定して、こちらも安く発注できるわけです。


当社はアパレルという位置づけではないので、トレンドに合わせただけの商品づくりをしません。トレンドには流行り廃りがありますから、ヒットすることもあれば、在庫を抱えるリスクもあります。ベーシックなものを中心に展開しているので、つくったものをしっかり売り切ることができるんです。


だから、ヒットして在庫がなくなっても増産はせずに欠品にします。発注をかけて納品されるまでに半年くらいかかるからです。たとえば10月に売れて発注しても、納品されるのは2~3月になってしまう。最初につくった数が売れたら終わりが基本です。


また、値下げをしない価格設定も特徴でしょうか。2900円だったら2900円で売り続けます。最初に決めた価格を動かさない理由は、価格への信頼感と、価格設定から商品づくりをしていくためです。


ずっと同じ価格なので、セールを待つ必要なし


今日2900円で買ったものが、明日2500円になっていたらちょっとイヤですよね。ワークマンプラスはショッピングモールにも出店していますが、セールはしません。一部で安くしてしまうと、ほかの店舗で同じものを扱っているのに価格が違うということが発生してしまいます。


その代わり、ショッピングモール用に、特化商材を入れたりすることはあります。デザインの違うものを用意したりすれば、価格に対する信頼感はキープしつつ、独自のアイテムも出すことができる。アウトレットを出さないのも同様の理由です。


商品づくりのプロセスもよく驚かれるのですが、価格設定をしてから、どんな機能を入れられるか考えます。一般的には、どんどん機能を足して値段も上げていくので、逆のアプローチですよね。


価格を設定してから商品をつくることができるのは、データ分析に力を入れているからです。つねに仮説と検証をくりかえしながら、どの価格帯で何が売れるかといったデータを積み重ねてきました。


2900円の価格帯が一番売れるなら、2900円の価格の商品に集中することもできるし、4900円なら少し高いから数をしぼろうと、判断することもできるわけです。


データ分析は価格設定にかぎらず、売り場づくりにも生かされています。ワークマンは全国に800店舗以上ありますが、地域によって農業地域や工業地域とセグメントされています。その地域に特化した売り場づくりをするので、A店で売れていれば、B店にも同じ商品を入れれば、商機を逃すこともないんです。



ワークマンもワークマンプラスも取り扱うものは同じ


ワークマンプラスが成功したことで、ワークマンプラスは「ワークマンの新業態」であることが大きくクローズアップされました。ワークマンは職人のお店、ワークマンプラスはアウトドアやスポーツウェアのお店。つまり、ワークマンプラスが一般向けの店舗という印象です。


じつは、ワークマンもワークマンプラスも取り扱っているアイテムは同じです。ショッピングモールに出店しているお店は一般の人向けに絞ったラインナップにしていますが、基本的にはどのお店に行っても、同じものが買えます。ワークマンプラスにも作業着がちゃんと置いてあります。


先ほどお話ししたとおり、ワークマンとワークマンプラスの違いは売り場のレイアウトだけです。ほかはすべて同じです。ワークマンプラスをオープンしたのも、最初は広告塔としての役割を期待していました。


ワークマンの店舗


ワークマンプラスの店舗


もちろん失敗も覚悟していました。お店自体がうまくいかなくても、「ワークマンにはこんなアイテムもあるんだな」と思っていただけるなら、広告宣伝と考えよう。最初は1店舗のみの出店予定だったんです。


「ワークマンプラスで扱っているものは、お近くのワークマンでも扱っています」。このことをずっとPRしています。ワークマンプラスの売り上げが上がればいいのではなく、ワークマンの売り上げも上げていこうという考えです。


実際、相乗効果は出ていて、全店で売り上げが上がっています。ワークマンプラスの1号店を立ち上げるとき、その周囲にあるワークマンの売り上げは落ちるだろうといわれていました。でも、しっかりと売り上げが上がったんです。


おかげさまで、たくさんの人にワークマンやワークマンプラスのことを知っていただけました。今後は「イージス」「フィールドコア」「ファインドアウト」の認知度をもっと上げていきたいですね。そうすれば、もっと飛躍できるはずです。

 

ワークマン

作業服や安全靴をはじめ、多種多様な品揃えが特徴。全国で800店舗を突破し、小売でダントツのNo.1シェアを誇る

 

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