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執筆者の写真Byakuya Biz Books

飲める温泉水でしゃぶしゃぶ!? 鹿児島 究極の地産地消の逸品

更新日:2021年8月20日



九州の屋台というと、福岡市博多の中洲地区が有名だが、鹿児島市の「かごっまふるさと屋台村」も2012年のオープン以来、鹿児島の誇る郷土料理や味をたんのうできる場所として、多くの地元客や観光客でにぎわっている。来村者数は毎年40万人以上、年間総売上も6億円以上と、屋台村としては全国有数の売り上げを誇っているのだ。ここでは数年に一度、リニューアルが行われ、お店のラインナップが変わることも特徴だが、その中でもオープン以来お店を構えるのが、第2期の村長も務めた林大智さんが経営する「SATSUMA」だ。超がつく激戦の飲食業界で勝ち抜いてきた理由を教えていただいた。



黒豚×温泉水×一人しゃぶしゃぶで、唯一無二の価値を生む


しゃぶしゃぶというと、「食べ放題」や「高級」「安い」という価格帯、または「国産牛使用」などの要素を押し出すお店が多いのですが、ウチの最大のウリは「水」です。薩摩川内市樋脇町市比野の自社泉源から涌き出る100パーセント天然温泉水を使用して黒豚、黒毛和牛のしゃぶしゃぶを温泉水仕込みの自家製ポン酢で食べていただく。さらに、焼酎の割り水にも温泉水を使用していて、まろやかな焼酎を味わえるのが特長です。


「かごっまふるさと屋台村」に出店していることもあって、地元の人たちだけでなく、外国人の観光客もしゃぶしゃぶ目当てに来店していただくことが多いですね。価格勝負をしているわけではありませんが、メニューの一つ「温泉水で黒豚しゃぶしゃぶ」は680円から食べられます。「自分ならいくらまで払えるか?」を基準に、それより少し安く設定していますが、もともと温泉水の原価がゼロということも価格を抑えられる要因かもしれません。実際、来客数は1日平均60名、月間平均1500名で、開店以来、ずっと黒字を維持できています。


温泉しゃぶしゃぶ「SATSUMA」が入る「かごっまふるさと屋台村」。毎日多くの地元客、観光客でにぎわう


元々、一人しゃぶしゃぶという業態をずっとやりたかったんです。鹿児島県はしゃぶしゃぶを郷土料理として推しているのに、どこに行っても「お二人様」から。一人で食べたいというニーズは必ずあると思っていました。


そんなとき、「かごっまふるさと屋台村」が、新聞で出店者の募集をしていたんです。一人しゃぶしゃぶという業態は屋台がピッタリだと思っていたので、「これだ!」と応募したんです。ただ、何も考えずにしゃぶしゃぶをやってもダメだから、何か変わったウリがないか考えていたとき、温泉水でしゃぶしゃぶができないかと、“実家の温泉”に着目したわけです。


“実家の温泉”というのは、実家の敷地内に温泉が出るんです。元々、養鰻業(うなぎの養殖)をやっていて、そのために水がたくさん必要だった。そして、掘ってみたら温泉が出たというわけです。だから、子どもの頃から生活用水としてずっと使っていました。もちろん、飲み水としても。ただ、温泉だからすごく熱いんです。源泉は56.7度あります。生活用水として使うために、2トンくらいのタンクを外に設けて、貯水したものが冷めると、水が出てくる。皿洗いや洗濯でたくさん使いすぎてしまうと、トイレを流したときに熱いのが出てきたりしました(笑)。


林大智さん。1977年、鹿児島県薩摩川内市生まれ。高校卒業後、居酒屋でのアルバイト、百貨店勤務を経て25歳のときに飲食店を起業。現在は温泉しゃぶしゃぶ「SATSUMA」の経営や後述する飲料水の事業も手がける


そういうわけで、温泉水を飲むのが日常だったわけですが、お店で使うとなったら、食品衛生法にもとづく飲食店営業許可が必要です。そのために温泉水をちゃんと調べてみたら、ものすごいポテンシャルをもった水であることがわかった。他社さんの水もかなりの数を調べてみましたけど、やっぱりウチの温泉はスゴイという話になった。結果的に、この温泉水が差別化に大きく貢献してくれました。



温泉水の正体は、国内にも例を見ない超軟水


温泉水の特長はいくつかあるんですけど、まず硬度が低いことです。日本人には硬水よりも軟水のほうが飲みやすいと言われていて、ウチの温泉水は硬度0.6の超軟水です。日本の水道水は硬度50~60と言われているなか、硬度1を切る水はなかなかありません。軟水は浸透が早くて、吸収性にすぐれています。だから、ウーロン茶やお茶、コーヒーもすべて水出しでいけます。しゃぶしゃぶもダシを取りません。水だけのほうがおいしいからです。


そのほか、天然シリカという成分がたくさん入っています。シリカは簡単に言うと、健康や美容に大切な栄養素です。免疫力に影響を与えたり、肌の保湿、骨や髪、爪、コラーゲンの再生・構築・補強・維持を手助けしています。天然シリカが入っていて、かつ超軟水というのは国内ではほかにありません。それほどレアな水です。


そもそも、飲める温泉水というのはなかなかありません。無色透明、無味で、温泉独特のにおいもまったくありません。若い人が飲むと、少し甘みを感じるほどです。一度飲んでいただくと、かなりの確率で感動していただける。そういうことが多かったので、数年前、会社を設立して、温泉水を飲料水として商品化しました。「薩摩の奇蹟」と言います。実家の敷地内に工場を建てて。家族で温泉水をどう生かすかという話をして、飲料水か温泉施設かで迷った結果、飲料水にしたんです。


「薩摩の奇蹟」。硬度0.6の超軟水で天然シリカ74mg/l含有のアルカリ天然温泉水


水はずっと飲んでいくものだし、災害支援もできて社会性もある。そして、ある程度のところまで大きくできれば、息の長い会社にすることができます。そうすれば、地元の雇用も確保できる。ただ、ハードルはすごく高かったですね。


自宅を整地して、設備を入れる必要があるので、事業計画書をつくって、金融機関に融資を申し込みました。ビジネスモデルを説明するのに苦労はしましたが、商品力の高さは屋台村ですでに実証済みです。屋台村は2012年からお店を出していますからね。


1日最大で60トン出荷できる


今年3年目で、やっと黒字化が見えてきたところですが、販売面では今でも苦労しています。鹿児島県内でもローカルな水は結構ありますけど、なかなかうまくいっていないようです。競合他社がたくさんあるから。飲食でも値段勝負になるお店が多いと言いましたけど、水は無色透明で、味がしません。なおさら、皆さんは値段で判断することが多いんです。値段で勝負したら、大手にはかないません。ウチは2リットル300円という値段をつけないと存続できない。だから、知名度を上げたり、いかに興味をもってもらえるか、値段以外の価値をしっかりピーアールしないといけません。


そこで考えたのが、ふるさと納税の活用です。薩摩川内市の返礼品になっているんです。地元のお米屋さんと組んで、お米と水のセットをつくって、薩摩川内市にアプローチして。「薩摩の奇蹟」でお米を炊くと全然違いますから。お米は炊いてしばらくすると黄色くなりますけど、そうならないんです。


ふるさと納税の返礼品として、最初は水と相性のいい商品をセットで提供して試していただく。そして、ファンになっていただいたら、自社のECサイトで直接購入してもらえるような導線をつくっています。


今は自社で運営するネットショップの売り上げがほとんどの割合を占めています。情報発信もしやすいですしね。ネットショップも開設するのがなかなか大変でしたけど、市が補助を入れて、楽天に出店する業者を募集していたんです。ネットショップのいいところは、固定客ができて販売量が安定することですね。


そうした活動を経て、「薩摩の奇蹟」のファンが徐々に増えてきたので、「体によさそう」「すごいと感動できる」ストーリーを付加できる商品を取り扱っていこうとも考えています。


その一つが、家庭用のフットバスです。フットバスはたくさん売っていますけど、水道水を使うのが普通です。その水をウチの温泉水が取って替われないか。浴用の水として売るわけです。ウチの温泉に入るとめちゃくちゃツルツルになります。「あれ? 石鹸がとれない」みたいな感覚です。これはかなり感動する体験です。フットバスはたくさんの種類があって、ネットショップではレビューもたくさんついている。でも、足湯用の温泉はないから、かなりのニーズを取り込めると思っています。



差別化となる圧倒的な強みは、ラッキーを待つべきか?


どんな事業でも、参入するハードルが高ければ高いほど、既存商品のブランド力は上がります。その点、水は参入障壁が非常に高い。「薩摩の奇蹟」は簡単にはマネできません。たとえ同じ薩摩川内市でも少し場所が変われば水脈も変わり、水質も変わるからです。


同業他社と違いをつくるのはとても難しいですが、差別化できる要素はつくるだけじゃなく、自分の中に見つけることもできます。だから、一度、自分の常識を疑って、当たりまえだと思っているものを徹底的に調べてみるといいと思います。


私は一人しゃぶしゃぶ店を開業するため、温泉に注目しました。そして、くわしく調べた結果、温泉は飲めて当たりまえという常識が、実はそうではないことに気づいた。飲める温泉水はそうないし、さらに天然シリカも含まれていました。


自宅の敷地内から出た温泉水が飲めて、健康にも美容にも良いものだったというのは、ラッキーだったかもしれません。ある意味、石油を発掘したようなものです。でも、徹底的に調べることなしに、「薩摩の奇蹟」は生まれませんでした。


今は飲食業のアドバイザー的な仕事もしますけど、多くのお店は自分たちの強みがわかっていません。強みがわからなければ、ターゲットもブレるし、攻め方も見えてこない。だから、値段で競争してしまう。「かごっまふるさと屋台村」に出店するまでは、私も同じでした。ずっと地元企業の宴会をメインのターゲットにして、値段で勝負していましたから。


水を事業化するとき、他社研究はしましたけど、今はまったくしていません。自分たちの良いところを探す、見ることのほうがずっと大事です。他社ばかりに目を向けていたら、自分がもっている可能性に気づかないかもしれない。


私はやっと、自分がもっている強みが温泉だと気づくことができました。そして、私の地元である薩摩川内市の特色も温泉です。これからは、温泉を武器に、薩摩川内市を盛り上げていきたいとも思っています。ただ、地域の人たちは今の生活を壊してまで何かをしたいという気持ちがあまりない。なので、一つずつ実績をつくっていくことで、信頼を得ていこうと考えています。温泉しゃぶしゃぶ「SATSUMA」だって、当初、行政は無関心でした。でも、「かごっまふるさと屋台村」での実績が認められて、薩摩川内市のふるさと応援店舗の第一号店に認定されたんです。


自宅敷地内につくった天然温泉。一般公開はしておらず、現在は秘湯中の秘湯に


温泉って、すごいパワーをもっているんです。先日、自宅の敷地内に露天風呂をつくったんですけど、友だちになりたがる人がすごく増えましたから(笑)。その関連で、奄美大島に温泉をもっていくことも考えています。奄美大島は来年、おそらく世界自然遺産に登録されます。世界中から観光客が来ることになる。そんな奄美大島に唯一ないのが、温泉なんです。だから、温泉を運んで、温泉に入ることも一つのサービスになると思っていますね。

 

薩摩の奇蹟

天然アルカリ温泉水「薩摩の奇蹟」「さつまのきせき」軟水で天然シリカを74mg含有する、薩摩の奇蹟シリーズを製造・販売

 

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