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執筆者の写真相田真理

かけ出しライターの私が、ベストセラー作家に疑問をいろいろぶつけてみた。【その⑤】書くときの心構えとは?

更新日:2021年8月20日



話に集中していたら、もう最終回を迎えてしまった! よし、最後はテクニック以外の疑問をぶつけてみよう! 最近思うのは、SNSなど気軽に使えるツールにより、連絡のやりとりが便利になった反面、トラブルも多いということ。何気ないひとことで、誰かを傷つける可能性だってある。私はこれからライターとして、どんな「書く心構え」が必要なんだろう? 「言葉」や「書く力」には、私が思う以上の「力」があるそうだけど……?



会社を立ち上げたきっかけ


お二人は長い間、人気フリーライターとして活躍されていたそう。どのような思いから会社を立ち上げることになったんだろう? あらためて聞いてみた。


「僕たちは、2018年に株式会社文道を設立しました。『文章の書き方』と『書く楽しさ』を伝えていく会社です。誰でも上手な文章が書けることを知ってほしい。書くことを楽しんでほしい。文章には、多くの人を元気にする力があること知ってほしいという思いから会社を立ち上げました。


株式会社文道という社名は、大愚元勝(たいぐげんしょう)住職に命名していただきました。僕が大愚住職の初著書『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社)の編集制作に関わらせていただいてからのご縁です。


『文道』とは、『文ハ 是レ 道ナリ』の略語です。『書くことは、人生そのものである。書くとは、人がふみ行う道徳・道理である』という思いが込められています。文道という社名のおかげで、僕たちがこれからどう進んでいくのか、人生をどう生きていくのかが、明確になりました。


僕たちは書くことを通じて、その人、その企業の生きざまに寄り添いたい。その生きざまをより多くの方々に届けたいと考えています」(藤吉さん)



「当たりまえ」を大切にする


お二人は私にとって師匠のような存在。お話するたびに、こんな大人になりたいなあと思ったり……。私も十分大人だけど。物腰がやわらかく、いつも笑顔で接してくれる。いただいくメール、言葉づかいがいつもていねいでやさしい。書くプロとして、普段からどんなことを心がけているんだろう?


「心がけていることは2つあります。1つ目は当たり前を大切にすること、2つ目は期待に応えることです。昔、フリーライターとして、選ばれるにはどうすればいいか考えていた時期がありました。文章力を磨いたほうがいいのか、自分にしか書けない専門分野を作るか。


僕が出した答えは、当たりまえのことを愚直にやっていくこと。僕たちの業界は、すぐに代えがきくシビアな世界です。だからこそ、社会人としてのルールやマナーを大切にする必要があると気づきました。たとえば、あいさつをする、時間を守る。当たりまえのことならすぐできます。今もその心構えは変わりません。


2つ目は、求められたことに答えること。なぜ自分に仕事が来たのかを理解して、できるかぎり答える。ビジネスマンと同様に、結果を出すにはどうすればいいか、をつねに考えています。スキル面では、『情報を正しく伝える』こと。『どのように書く』か『どの言葉を選ぶ』か『わかりやすい文章になっているか』を心がけています」(藤吉さん)


「スケジュールが合わない場合を除いて、自分に来た仕事は、断らずに引き受ける姿勢を貫いてきました。フリーの私に仕事をいただけることは本当にありがたいと思うからです。『困っている』と言われたときは、特にできるだけ応えるようにしてきましたね。それから、仕事でいただいたご縁は大事にしています。


もう一つは藤吉と同じく、当たりまえを実践すること。失礼なことを相手に言わない、メールが来たら返信する、といった社会人としてのあり方を大切にしています。私と藤吉はかつて、同じ編集プロダクションに勤務していました。始業時間の10時に出社していたのは80名の社員のうち数名でした。その数名の中にいたのが藤吉と私でした。当時はわかりませんでしたが、今になって思えば、そうした当たりまえを愚直にやってきたことが、よかったのかなと思っています」(小川さん)


結果を出すというプロとしての意識はもちろん、社会人としてのルールやマナーを大切にされていたんだ。当たりまえにできることって、ついついおざなりになっていた気がする。私も「当たりまえ」を実践していこう!



「書く力」は「武器」になる。


『書く力』は武器になる、と藤吉さんの単書『文章力が、最大の武器である。』(SBクリエイティブ)に書かれている。「武器」は、誰かを助けることもできるし、反対に、傷つけることにもなりかねない。書く力を使うときに気をつけていることはあるんだろうか?


「文章力という武器には、他者の人生を変える力があります。武器を人助けに使うのか、人を傷つけるために使うのかは、書き手次第です。誰もが気軽に発信できる世の中だからこそ、『正しい武器の使い方』『武器を持つ者のあり方』を学ぶ必要があると考えます。


僕が普段から気をつけていることは、誰かを否定する言葉を使わないこと。僕たちが書いた文章は、読み手に渡った瞬間に、自分たちでコントロールできません。読者が内容をどう解釈するかはわかりませんから、できるだけ不快にしないように意識をしています。


神道では古来、『言葉には霊力が宿り、口に出すことによって、その力が発揮される』という言霊の信仰があります。口に出した言葉は、ときに『ブーメランのように、自分に返ってくる』といいます。


書く力を『人を助ける』ために使えば、やがて自分も助けてもらえる。不平・不満・文句を言うために使えば、やがて自分も貶(おとし)められる。自分のためにも、読み手のためにも、ポジティブな言葉を取り入れています」(藤吉さん)


「書く力を『攻める武器』ではなく、『守る武器』として使っていきたいと考えています。私は広告代理店で、非常勤でライティングの仕事をしていた時期があります。当時の上司に『小川さんの仕事は、クライアントを守ることだよ』とよく言われました。


良くも悪くも、私が書いたこと、伝えたことがそのまま企業のイメージになってしまうからです。今も自分の言葉で、『傷つく誰か』はいないか、『守る言葉』になっているか、はすごく気をつけています」(小川さん)



「愛語(あいご)」の実践


著書を読んでいて気になったのが「愛語(あいご)」という言葉。最後にこの言葉についても聞いてみよう。


「『愛語(あいご)』は禅語の一つで、『愛情のこもった言葉』『人を励ます言葉』『勇気付けるような言葉』のことです。これは大愚元職に教えていただきました。僕は、犯罪などを抑止する強い目的がないかぎり、ポジティブな表現を使いたいと思っています。ポジティブな表現とは、人を前向きに動かす表現のこと。つまり『愛語』です。


もう一つ、禅語で『正語(しょうご)』という言葉があります。『正語』とは、『正しい言葉』を使うことです。これには守るべき教えが4つあります。①嘘をつかない、②無益な話をしない、③悪口を言わない、④仲違いさせるような言葉を使わない。これを実践することが、正語を使うことです。僕は『愛語』と同じく、『正語』も大切にしています」(藤吉さん)


そうか! お二人は「愛語」を使っているんだ! いつも私や周囲に、前向きな言葉をかけてくれる。素敵な教えだな。何かを発信するとき、自分が「愛語」を使えているのか、一つの目安にしてもいいかも!


「昨今、SNSによる誹謗中傷が増え続けています。特にコロナウィルスの影響で、人々のイライラや、不満、不安が匿名という名のもとに噴出している気がします。検索サイトのコメントも批判の内容が目につきます。匿名性の高いインターネットでの発言は、行き過ぎた表現になりがちです。


発言する際は、『この内容は、現実・対面でも堂々と言えるかどうか』を確認する。堂々と言えないのなら発信しない。不用意な言葉が『どこかにいる、誰かを傷つける』ことを忘れてはいけないと思います。


ときに言葉は、人を死に追いやるほどの威力があります。このことを理解した上で、『愛のある正しい言葉』を使う。自分のためにも読み手のためにもポジティブな言葉を発信する。文道は『愛語』の実践を心がけています」(藤吉さん)



今回で学んだこと(まとめ)


ライターの心構えで、「当たりまえのことを当たりまえにやる」と教えてもらったことが心に残った。小さな「当たりまえ」をたくさん積み重ねてきたからこそ、今の文道があるんだな。文道の「言葉」はいつも温かく、ていねいで、やさしい。私も愛のある、正しい言葉を実践していこう!


今回の取材を通して得た学びは、私の宝物となった。いつかお二人のように、多くの人の人生に寄り添うことのできるライターになりたい!


【ここをチェック】

・株式会社文道は、「書く楽しさ」を伝える会社

・「当たりまえ」を大切にする

・「書く力」=「武器」 正しい武器の使い方を学ぼう

・「愛語(あいご)」=愛情のこもった言葉 「愛語」を実践しよう!

 

■教えてくれた人

藤吉豊(ふじよし・ゆたか)

株式会社文道、代表取締役

男性情報誌、自動車専門誌、2誌の編集長を歴任。2001年からフリーランスとなり、雑誌、PR誌の制作や、ビジネス書籍の企画・執筆・編集に携わる。インタビュー実績は2000人以上。2006年以降は、ビジネス書籍の編集協力に注力し、200冊以上の書籍のライティングに関わる。大学生や社会人に対して、執筆指導なども行なっている。


小川真理子(おがわ・まりこ)

株式会社文道、取締役

編集プロダクションにて、雑誌や企業PR誌、書籍の編集・ライティングに従事。今までのインタビューの実績は数知れず。得意なジャンルは「生活」全般、自己啓発など。自ら企画編集執筆した本に『親が倒れたときに読む本』(エイ出版)がある。近年は、ライティング講座にも力を注ぐ。


※文道では、2021年10月より女性向けライター養成講座を開催予定。お問い合わせは、info@y-academy.co.jpまで。


■参考資料

 

■取材・執筆

相田真理(あいた・まり)

女性向けのコミュニティ「富女子会」の運営に携わる。「お金」にまつわるテーマをもとに、イベントや講座の企画、開催に従事。主催した「ライティング講座」で藤吉氏、小川氏よりライティングを学ぶ。のちに「富女子会ライター部」を設立し、17名のメンバーと共に活動中。

 

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