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コロナ後の飲食店に求められる 衛生管理の基本

■話し手:アースウェル株式会社 大久保柾幸さん

#福岡県 #コロナ #飲食

衛生管理が行き届いた厨房(写真①:桜坂 観山荘


新型コロナウィルス感染拡大による影響で苦境に立たされている飲食店。座席間隔を空けての通常営業やランチのみ営業、テイクアウト、デリバリーなど、コロナ後の形が模索されている。この記事では衛生管理という視点から、飲食店の今後について紹介したい。語るのは、衛生管理と害虫対策の専門家であるアースウェル株式会社の大久保柾幸さん。害虫対策は人がいない夜間に殺虫剤をまくだけという業者が多いなか、同社は徹底した整理・整頓・掃除で20年以上にわたって、害虫が発生しない調理施設を実現してきた。どこよりも衛生管理の意識が高いプロが提案する、衛生管理の基本を見てみよう。



飲食店が抱える健康リスク


私は福岡で飲食店や病院、保育園、介護施設などの衛生管理と害虫対策を行う会社を経営しています。取引先のうち7割ほどが飲食店になりますが、新型コロナウィルスの影響で、休業や時短営業、テイクアウトのみの営業など、それぞれが試行錯誤を続けています。

実際、今、優先すべきはコロナ感染対策と資金繰り、売り上げの確保や家賃交渉、休業補償などです。ですが、もしそれ以外に時間をつくることができるなら、これまでいそがしくてできなかったことをしてほしい。私の立場から提案できることがあるとすれば、それは店舗の衛生改善です。

コロナをきっかけに、消費者の衛生に関する意識が変わりつつあります。手洗いやうがいは衛生管理の基本ですが、正しい方法が浸透して、より意識されるようになりました。飲食店も感染予防のため、手袋やマスクをして接客するなど、衛生面にかなり気をつかっています。

少しずつ営業が再開されている状況ですが(5月16日時点)、店舗内での食事に不安を抱えている人も少なくない。コロナが終息しても、清潔なお店で食事したいと考える人が今まで以上に増えるはずです。

そのとき、飲食店は食中毒と害虫への徹底した対策が求められます。飲食店における最大の健康リスクだからです。

そして、食中毒と害虫が発生しやすいのは厨房です。つまり、店舗の衛生改善とは、厨房をキレイにすることです。だからといって、目に見えるところだけキレイにして、害虫を見かけたら殺虫剤で駆除するだけでは、根本的な解決になりません。

たとえば、害虫の代表格であるゴキブリ。「1匹見かけたら30匹いると思え」と言われますが、これは事実です。その1匹が産卵中のメスだったら、1カ月もしないうちに20~40匹に増えます。つまり、繁殖力がすさまじいにもかかわらず、夜行性のため、ふだんは目に見えないところに潜んでいて、出会う確率が低いからです。

「休業して料理を作っていないから大丈夫」というのも誤解です。害虫は少しでもゴミが落ちていたり、水があれば繁殖を続けます。たとえ営業をストップしていても、エサは十分と言えるのです。

私は衛生管理と害虫対策の専門家としてこれまで1000軒以上の飲食店に携わってきましたが、化学薬品を使った殺虫剤は極力使いません。厨房にとって食中毒の原因になる害虫はいないほうがいいし、害虫を駆除するためには化学薬品の入った殺虫剤を使わないほうがもっといい。なぜなら、散布した殺虫剤は厨房や食器に付着し、結果的に口に運ばれてしまうからです。


大久保柾幸さん。殺虫剤に頼らず、整理・整頓・清掃を徹底することで飲食店や病院、保育園、介護施設などの衛生管理と害虫対策を行う

じゃあ、どうすればいいのか。害虫は基本的に外から来ます。食材にくっついてきたり、明かりにつられて侵入して、繁殖します。侵入対策は当然必要ですが、侵入は完全に防ぐことができませんから、侵入してきたものを駆除して、繁殖させないように予防する。

そして、繁殖させないためには、住みやすい環境をつくらないことが大事です。厨房は物が多くてゴチャゴチャしていて、水もあります。紙や段ボール、段ボールの糊などは害虫にとってエサです。水がたまれば、そこに卵を産みつけてしまう。

つまり、厨房は害虫が好む環境なんです。害虫にかぎらず、雑菌もカビも、水があると喜びます。物をゼロにしたり、水を使わなくしたりすることは不可能ですが、できるだけシンプルにしたほうがいいわけです。


5Sの整理・整頓で厨房をキレイにしよう


厨房をキレイにする方法はとてもシンプルです。5S(整理・整頓・清掃・清潔・習慣化)のうち、整理・整頓を行います。

整理は「必要なものと、いらないものを分けて、いらないものを捨てる」こと。整頓は「必要な物の数と置き場所を決める」ことです。この2つを徹底することで、厨房の物が増えません。少しずつでいいので、くり返し行うことがポイントです。

これから具体的な手順を紹介しますが、厨房全体をやろうとせず、範囲を小さく決めて少しずつ進めてください。一度に全部やろうとすると疲労感やめんどうくさい気持ちが出て長続きしません。少しずつなら、達成感があり、続ける気持ちも出ます。

【1】最初に手をつけたい場所(両手を広げたくらいの範囲)を決める。

【2】場所が決まったら、A~Dに対して【3】~【7】を実行する。

(A)床からヒザくらいまでの空間

 →使わない物や壊れた物が置きっぱなしになりがちなところ。ゴミも多い。

(B)ヒザから腰までの空間

 →使わない物や壊れ物が、奥に押し込まれたままになりがちなところ。

(C)頭上から天井までの空間

 →使わない物や壊れ物が、奥に押し込まれたままになりがちなところ。

(D)頭から腰までの空間

 →つねに見えて、よく使う物が置いてあるので、特に問題ないところ。


床がA(床からヒザまでの空間)、調味料などが載った棚がB(ヒザから腰までの空間)。棚の下奥に空になった調味料ボトルが何本も落ちているように、目が届きづらい(写真②:A店)


Cの例。冷蔵庫の上や棚の上など、天井までの空間を物置にしており、ほとんどの物が使われていない(写真③:B店)

【3】その場所にある物を一つずつ出しながら、以下の3つに分けていく。

・1年以上使っていない物やゴミ。

・めったに使わないが捨てられない物。

・よく使う物。

【4】全部出し終わったら掃除する。

【5】よく使う物だけ戻して置く位置を決める。

・床には置かない(Aの床からヒザまでの空間)

・必要な量をおおまかに決め、それ以上は在庫として倉庫などで保管する。

・段ボールや紙ケースは使わず、必要ならプラスチックケースなどを用意する。


床に置いてしまうと、ゴミ溜まりや水溜まりをつくり、小バエやゴキブリを大量発生させる原因となる(写真④:C店)

【6】1年以上使っていない物やゴミはすぐ捨てる。

・不要品回収、ゴミ回収がすぐに来ない場合、目につくところに一時置き場を決めて集める。厨房や水回りに置きっぱなしの物があると害虫やネズミが繁殖してしまうので、一時置き場は倉庫などにする。

・「とりあえず」がもっとも危険、すぐ捨てるか一時置き場に集める。

【7】めったに使わないけど捨てられない物は、目につくところに一時置き場を決めて、そこにいったん集める。

・厨房や水回りに置きっぱなしの物があると害虫やネズミが繁殖してしまうので、一時置き場は倉庫などにする。


腰上から頭までの棚は、整頓ができている例(写真⑤:D店)

ここまで達成できたら、次に手をつけたい場所を決めてくり返し、ムリなく続けてみてください。そして、キレイな厨房をキープするためには、従業員全員で共有することも必要です。それぞれが作業の流れでいろいろなところに置いてしまっては元に戻ってしまいます。この機会にしっかり整理・整頓しましょう。



「汚いお店ほど、おいしい」はもう古い価値観


これからは、清潔であることがもっと価値をもつ世の中になります。消費者側の意識の変化だけではなく、客観的な指標としてHACCP(ハサップ)も制度化されました。

HACCPは食品の衛生管理に関する手法で、簡単に説明すると、食品の購入時、下準備時、調理時など、食中毒を起こさないように気をつけていることをちゃんと文書化しようという取り組みです。飲食店の規模を問わず、導入が義務化されています(猶予は来年の6月まで)。

※厚生労働省 HACCP

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html

また、まずは導入してもらう、浸透させることが狙いですから、現時点では明確な罰則はありません。でも、徐々に厳しくなっていくはずですし、飲食店の営業許可・更新などの手続きでも必要になると予想されています。

日本で法制化されたきっかけは、東京オリンピックです。HACCPはアメリカでできた制度で、ヨーロッパでも義務化されていますが、日本では義務化されていませんでした。

でも、オリンピックが決まったとき、「HACCPが義務化されていないから、選手たちに安心して食べさせられない」という声が挙がった。そうした要望に合わせてオリンピック開催の条件となり、日本でも法制化された経緯があります。

飲食店の抱える最も高いリスクは食中毒です。細菌やウィルス、寄生虫など、原因はさまざまですが、菌が増殖し、それを口にすることで食中毒をおこします。ですから、厨房で料理をつくるとき、菌の特性に合わせて対処しなければなりません。

これまでは、「手を洗っているから大丈夫。火を通しているから大丈夫」という感覚的な対応でした。でも、これからは客観的な証明が求められるのです。HACCPは客観的な基準にしたがった管理手法なので、たとえば「科学的に70℃以上で1分間加熱すれば、この菌は死ぬと証明されている」という根拠になります。

最初に申し上げたとおり、手洗いうがいなど、衛生に関する意識はあがったと思います。昔は汚いお店ほどおいしいと言われることもありました。でも、もう汚いことを言い訳にできません。


床下がしっかり清掃されている例。ここまで目指したい(写真⑥:西洋菓子工房IMURI

厚生労働省は業種ごとに手順書を用意していますが、小さい個人経営の飲食店からは「とてもむずかしい」という声が多く挙がっています。

けれども、手順書と日ごろから食中毒に気をつけていることを見比べ、できることをできるやり方で少しずつ実践していけばいいのです。そして、HACCPの土台にあるのが5Sなんです。ですから、まずは5Sの整理・整頓からはじめてみてほしいと思います。



※記事内で紹介した店舗

写真①:桜坂 観山荘

https://kanzan.net/sakurazaka/

写真⑥:西洋菓子工房IMURI

https://seiyoukashi-imuri.com/

厨房きれい化プロジェクトFC本部

アースウェル株式会社

福岡県福岡市南区筑紫丘1-23-9

TEL:092-555-3315

https://earthwell-inc.co.jp/

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