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【伊勢角屋麦酒②】クラフトビール業界のこれから

更新日:8月20日


伊勢角屋麦酒 クラフトビール

日本のクラフトビール業界をけん引する伊勢角屋麦酒の代表取締役社長、鈴木成宗さんへのインタビュー。に続く今回は、海外の事情と比較しながら、日本におけるクラフトビール業界の展望を聞く。



クラフトビールを手軽に楽しめる日は来るのか?


――20年以上、業界に関わってきて、今の日本市場をどう見ていますか?


波はありながらも、徐々に広がりつつあると思います。私はビールの国際大会の審査員をしていることもあって海外の情報はわりと見ていますが、海外は日本の10~20年ほど先行しています。ですから、日本の今の市場を見れば、「アメリカだとこの頃だな」と感覚的にわかるんです。


ちなみに、日本のビール市場に占めるクラフトビールの割合は1パーセントで、アメリカは20パーセントを超えています。まずは海外と同じように、いろいろなビールを選べるという状況にしたいですね。


たとえば、アメリカのWhole Foods(ホールフーズ/高級スーパー)に行くと、ビールセラーがあり、そこではアドバイザーが数千種類のビールからオススメを教えてくれます。


――アドバイザーがいるような市場規模は何パーセントまでいけば可能になりますか?


5パーセントでしょうね。そしてまずは百貨店や成城石井といった高級スーパーの売り場に置き、ビールの専門家ができていくことから。5パーセントになれば、都市部ではずいぶんと選べるようになります。ただそれにはもう少し時間がかかるはずです。


ビアバーの重要性について、「クラフトビールに触れる機会が増える、クラフトビールのある時間をどれだけ若い人たちが過ごすか。今後のマーケットの成長には非常に大きいと思いますね」と言う鈴木社長。内宮前店、外宮前店(ともに三重県)、八重洲店(東京都)など、複数の直営店でクラフトビールがある空間もつくる(写真は内宮前店)


――価格面はいかがでしょうか。


ある程度は大手に合わせていく必要があると思います。昔は500ミリリットルで900円だったんですよ。1本100~200円台で飲んでいる人が、900円のビールは手に取らないでしょう。できれば、大手ビールの2倍までにしたい。たまにはいいビールを飲みたいなと思う人がギリギリ手を出せる価格帯にはしていきたいですね。


――となると、やはり缶での流通を増やすということでしょうか。


缶は流通しやすいですからね。イタリアから強力な缶フィラーも導入したので、これまで缶はおみやげ用に限定してきましたが、これからはいいものをある程度市場に供給していくつもりです。市場を広げていくには、うちだけではなく、それなりの規模の醸造所が増えていくことも必要ですね。


――缶は導入がむずかしいと聞きますが、その理由はなんでしょうか。


2つ要因があります。先ほどお話ししたとおり、クラフトビールのコンセプトはもともと大手に対するアンチテーゼでした。大手がラガーなら、クラフトビールはエール。大手が缶なら、クラフトビールは瓶だと。大手の対角に行くのがクラフトビールのセオリーだったわけです。


そのため、クラフトビールが急激に発達したアメリカにおいても、長い間、クラフトビールといえば瓶だったんですね。ところが、10年ぐらい前からクラフトビールといえど、市場のことを考えたら缶のほうがいいから、徐々に缶に移行しました。


もう一つは、クラフトビールメーカーの規模ですね。アメリカのクラフトビール業界で缶の導入が進んだ背景には、各メーカーが大きく成長したこともあるんです。日本ではクラフトビールというと小規模な醸造所が多く、大きいところでも数十億円の売上規模です。


アメリカやイギリスだと売上高で数百億規模がいくつもあります。イギリスのBREW DOG(ブリュードッグ)なんて、ガレージでビール造りをはじめて、創業8年目で日本円にして売上高100億円を超えました。


伊勢角屋麦酒

新工場では一仕込み4000リットルが可能に


当社の新工場は西日本では最大規模のプラントで(最も大きいのは黄桜株式会社)、一仕込みで4000リットルが可能になりました。当然、生産規模が大きくなれば、生産コストも下がります。ただ、アメリカの大きい醸造所は10倍規模ですからね。


新工場にした理由はほかにもあって、旧工場ではずっと手作りの仕込みだったんですね。そのまま拡大していくと何が起こるかというと、人海戦術、つまり肉体労働にしかなっていかないんですよ。肉体労働の尊さやすばらしさは理解していますが、何も考えずに賞賛するのは違うはずです。


これからの日本は、生産年齢人口が急激に減っていきます。そういう状況で、全国からビールを造りたいと来てくれる若い社員たちに、肉体労働を強いるのは違うのではないか。むしろ、機械に置き換えられるところは置き換えて、人にしかできない、創造性の高い仕事をしてほしい。そのために新工場では最新設備をそろえたわけです。



クラフトビール業界が抱える課題


――鈴木さんはビール業界に参入した当初から、業界の取り組みにも意欲的です。創業当初に比べて、業界の状況はいかがでしょうか。


年々技術力は上がってきたと思います。というのも、2016年から全国地ビール醸造者協議会の理事をしていたんですよ。そこで、品質審査会をつくり、一つずつちゃんとテイスティングをして、公的機関で分析してもらって発酵が順調に進んでいるかなどを数値で出してもらい、コメントとともにフィードバックするようにしました。


また、三重県でクラフトビールの会を立ち上げて、年に一回、県内のクラフトビールメーカーが集まる研修会も開催しました。いいビールを褒め称えるだけでなく、業界全体を底上げする仕組みづくりをしたかったんですね。


――最初の話に戻れば、ホームブルーイングも業界の底上げに寄与しそうですが、ハードルは高いですか。


めちゃくちゃ高いですね。酒税法が関わっていて、確実に税金を取れる仕組みじゃないとダメなんです。私は税金を払えばいいと思っているんですけど、その仕組みづくりがむずかしい。たとえば、個人がどれだけ造ったのか、誰が検査するのかという問題があります。


それに対しても対策はあると思うんですよ。たとえば、原料を買える場所を限定して、先に原料に課税しておくとか。あるいは登録免許税みたいにして、1年間にいくら払ったら、これだけ造ってもいいとするとか。


なかなか大変ですが、やりようはあると思います。日本ホームブルワーズ協会を立ち上げて、国税庁や内閣府の方と話もしています。実現できれば、技術レベルはさらに上がりますからね。


『発酵野郎!世界一のビールを野生酵母でつくる』(新潮社)

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――もう一つ、町おこしありきだと失敗するというお話もありました。クラフトビールに地域の活性化――たとえば地産地消や名産品で人を集める――という役割は期待しないほうがいいということでしょうか。


地域の活性化をどう捉えるかですよね。たとえば地産地消も一つの活性化になりますが、それだけではないと思うんです。グローカルというと大げさかもしれませんが、地域から世界に通用するものをつくり、コンセプトに共感してくれる人が全国から集まる。


そういう人材が入ってくることで、地域との人材交流が起こり、新たな産業が形成されていくことが、地域の活性化につながると思うんですよ。だからこそ、当社は採用も今はあえて地元にこだわっていません。新卒採用は、日本中から採用しています。


――モノよりも人が大事なわけですね。


地域でモノを回すことは否定しませんが、世界のいろいろなものを取り込んで、そこで人材の流動化が起こることのほうが、ずっと腰の据わった活性化につながると思いますね。そもそも伊勢ってそういう場所なんです。つまり、日本中の情報が集まる場所だった(※)。


情報の集積地は必ず発達します。たとえば、滋賀県の大津がそうです。滋賀県には琵琶湖があるために、琵琶湖の北か南かし通れない。そしてだいたいが南を通るので、そこに位置する大津に情報が集まり、産業が栄えたわけです。


今はネットがあるので一般的な情報は手に入ります。ところが、対面じゃないと伝わらない情報があります。そして、ある程度、高密度で人を集めることが必要です。当社だけではムリですが、いくつかそういう企業があって、日本中からいろいろな人材が集まる。


最も顕著なのはシリコンバレーですよね。人材が高密度に集まる――そういうことにも貢献できたらいいなと思っていますね。


※御師(おんし)と呼ばれる神職たちが各地に出向き、伊勢神宮の宣伝活動を行ったり、参詣者の参拝や宿泊の世話をしていた。伊勢参宮が流行した要因の一つと言われる。

有限会社二軒茶屋餅角屋本店 伊勢角屋麦酒

〒516-0003 三重県伊勢市下野町564-17

https://www.kadoyahonten.co.jp/


伊勢角屋麦酒公式オンラインショップ

https://www.biyagura.jp/

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