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  • 執筆者の写真大澤佳加

【地域通貨の基本①】お金の役割を考えてみよう

更新日:2022年5月1日



今、地域通貨が注目を集めている。その背景には新型コロナウイルス、キャッシュレス化の推進、地方経済の疲弊などさまざまな要因が考えられるが、信用もあって利便性も高い日本円があるにもかかわらず、なぜ地域通貨が求められるのか? この連載では12年間「めぐりんポイント」を運営してきたサイテックアイの大澤佳加さんに執筆を依頼し、基本を解説していただいた。第1回は地域通貨を語る上で欠かせない「円」について。



地域通貨の基本を解説します


「さるぼぼコイン」「negi」「アクアコイン」「めぐりんポイント」……これらが何かわかりますか? 


 ここに挙げたのはすべて地域通貨――ある特定の地域での流通を目的とした地域限定のお金です。さるぼぼコインは高山市・飛騨市、negiは深谷市、アクアコインは木更津市、めぐりんポイントは香川県で使うことができます。


 みなさんが普段お店で使うお金は硬貨でも、紙幣でも、電子マネーでも、それらはすべて円です。円は日本全国どこでも使うことができます。一方で、地域通貨は使う場所が限定されていてちょっと不便です。そんな地域通貨が何度かのブームを経て、ふたたび注目を集めています。それはなぜでしょうか?


 私は香川県で「めぐりんポイント」という地域通貨を運営するサイテックアイ株式会社の大澤佳加と申します。12年前に会社を設立し、民間主導のポイントサービスとしてこれまで活動してきました。その経験をふまえ、地域通貨の基本を数回に渡って解説したいと思います。



 第1回は当たり前のように使っているお金「円」についてです。この連載ではお金=円という解釈で進めていきます。円をあらためて考えることで、地域通貨が求められる理由やその機能をしっかり理解することができはず。


 さあ、まずはお金の基本的な役割を考えてみましょう。



お金の役割は3つ


 お金には3つの役割があります。それが、(1)モノの値段を示すこと、(2)支払機能、(3)価値貯蔵手段です。


 書店で本を買うシーンを想像してみてください。お店にはたくさんの本が並んでいます。その中から1冊の本を手に取ってみると、「1500円」という値段が記されています(1)。それをレジに持っていき、財布から1500円を出して購入する(2)。


 もしそのとき1000円しか持っていなかったら、来月のおこづかい、またはお給料が出るまでその1000円を取っておく、という選択もできるでしょう。その1000円が翌月までに腐ってしまうなんて心配をする必要もありません(3)。


 ここで一つ補足。あなたがふだん使っているお金、たとえば100円玉には100円の価値があります。10年前も現在も10年後も、100円玉は100円として使えます。それは誰もが100円玉に100円の価値を認めているからであり、みんながそう信用できるのは、日本銀行がお金を作っているからです。


 話を戻すと、お金は「簡単に持ち運べる」ことも重要です(キャッシュレス化は消費促進も期待される効果の一つでもあります)。お金は流動性が高いからこそ、人から人へ回ります。もし100円玉が自分の体重くらい重かったら、誰も使わなくなるでしょう。


 誰もお金を使わなかったら、モノが売れず、モノが売れなければ製造されることもなくなり、そこで働く人の給料も下がり、みんなが生活に困ってしまいます。景気をよくするためには、お金の循環が大切。お金が経済の血液と言われるゆえんです。


 2020年、全国民に一律で現金10万円が給付されましたが、このときも「貯金に回ってしまうから現金給付は反対だ」という意見がありました。つまり、お金が市場に出回らない=景気がよくならないというわけです。



お金の問題点?


 さて、お金は日本全国どこでも使うことができて、とても便利です。ですから、わざわざ不便な地域通貨を作る必要はないのでは?と思われるかもしれません。ところが、お金がどこでも使えるということは、ひっくり返せば利用先を限定できないということ。そしてそのお金の特徴が今、地方を苦しめています。


 現在、日本が直面している最も大きな問題は、人口減少と少子高齢化です。全国共通の問題ですが、特に地方においては急速に進んでいます。都市部へ若者が流出しているためです(最近ではこんな記事もあります)。


 地方から人口が流出すると、一緒にお金も出ていってしまいます。それに追い打ちをかけるのがネットショップの存在です。たとえ地方在住でも、ネットで何かを買えば、そのお金は、外に出ていってしまいます。


 お金は経済の血液と言いましたが、血液の循環が止まってしまったらどうなるでしょうか。地方経済はどんどん元気をなくしていってしまいます。


 これまでは都市部との物価の違いや、国による財政出動などでそれほど表面化しなかったものの、地元から工場がなくなり、大型店舗が撤退し、町の中心地だった商店街がシャッター通りになれば、否が応でも実感するはずです。


 この状況を打開するのが、定住自立化構想――地方から人口流出を止めた上で、地方へ人が流れる仕組みを作ろうという考えです。ただし、移住者を増やす、企業を誘致する、観光客を呼び込む(今はむずかしいですが)取り組みも大切ですが、その前に、取り組むべきことがあります。それが、出ていくお金を止めることです。


 いくら外から人を呼び込んでも、お金を稼いできても、Amazonで買い物をしたら? 地元の人気レストランが仕入れる食材を輸入品など地域外に頼っていたら? 地域からお金は出ていってしまいます。


「漏れバケツ理論」という言葉をご存じでしょうか。地域の外にお金が出ていくことを、バケツから水が漏れることにたとえたものです。一生懸命、バケツに水を注いでも(お金を稼いでも)、穴が空いたバケツでは水が漏れてしまう(お金が出ていってしまう)。だから、バケツの穴をまずはふさごうというわけです。


 そのための手段が地域通貨なのです。稼いだお金を地方の地域内のお店や会社で使われるようにする。これが実現できれば、地方でお金を回す(循環させる)ことができるというわけです。


 第2回では地域通貨にしかできないこと、それこそが地方を救うという話をします。

 

大澤佳加(おおさわ・よしか)

香川県生まれ。香川県立志度商業高等学校卒業後、営業、販売業、飲食店経営などを経て、2013年にサイテックアイ株式会社に入社。加盟店営業に従事し、2016年にサイテックアイ株式会社代表取締役に就任。「ふるさとの愛とありがとうをかたちに」をモットーに、地域ポイント「めぐりんポイント」を運営している。

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