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執筆者の写真大澤佳加

【地域通貨の基本④】地域通貨で失敗しないための4つのルール

更新日:2022年5月1日



「めぐりんポイント」を運営するサイテックアイの大澤佳加さんが地域通貨の基本を解説する本連載。最終回は、地域通貨のつくり方。地域通貨で失敗しないために、最低限押さえておきたいルールを4つ紹介する。



①目的を明確にする


 あらためて地域通貨が果たす役割を確認しておきましょう。それは、地域のお金を地域で回し、地域経済とコミュニティーを活性化させることです。そして、地方からの人口流出を食い止め、地方へ人が流れる仕組みをつくるのです。


 第3回でいくつか失敗する理由を紹介しましたが、その根元にあるのは、「地域経済を活性化したい」という漠然とした考えです。その結果、地域通貨を作ることが目的となることが少なくありません。


 とはいえ、具体的といっても加盟店を増やしたり、ポイントをたくさん流通させたりすることではありません。地域通貨は「地域を具体的にどうしたいか?」という目的を達成するための手段だからです。


 目的は経済優先ではなく、地元で有名な花火大会を開催したい、キッザニアのような職業体験テーマパークを作りたいなど、エシカル(倫理的)なコミュニティー活性化を具体的に示すほうがベターでしょう。


 私たちが運営する地域ポイント「めぐりん」も、最初はとにかく加盟店開拓だと営業したり、ユーザーを増やすことに躍起になっていました。その結果、加盟店がゼロになり失敗してしまったわけですが(※)、仕切り直す際は地域の役に立つとはどんなことなのか、具体的な活動を明確にしました。




②運営の主役は地域の人


 第3回で触れたとおり、地域通貨事業は多産多死です。継続的に行っていくためには、できるだけ多くの人が関わることが欠かせません。


 地域通貨事業を始めるのは簡単です。お金さえ支払えばだいたいのことがこなせるシステムは準備できるからです。しかし、継続させるにはそれだけでは不十分です。めぐりん事業を始めて13年目になりますが、その経験から言えることは「地域通貨は人と人とのコミュニケーションがなければ成り立たないということ。


 主役は地域通貨ではなく、それを使いこなす地域の人々です。地域通貨はその土地・場所に合った、豊かなくらしづくりを支える道具であり、その設計図は地域の人々が描くものなのです。


 地域通貨は円や大手のポイントなどと比べて経済的なメリットがそう多くはないので、地域をもっとよくしたいという「想い」が必要です。それは地域外の人間ではなく、地域内に住む人たちが持っているもの。地域への想いがある人が、地域通貨という道具を使い、その地域らしい豊かさを作っていくのです。



③流通量を増やす


 地域通貨を継続させるには、ある程度の流通量が必要です。円を地域通貨に換えて使う地域マネーの場合、エシカル消費だけでは円に比べて利便性が下がるため、利用者は限定されます。エシカル消費以外の動機付けが必要です。


 その点、地域ポイントは比較的、流通量を増やす工夫がしやすいと言えます。ポイントの流通量を増やすには、ポイントを付与する加盟店とユーザーがもらえる量を増やすことが大切です。この場合、加盟店増加ばかりに気をとられてしまいがちですが、利用者が少ないと加盟店が疲弊してしまいます。


 そのため、ユーザーがもらえる量を増やす意識を強めに持っておくといいでしょう。いくら加盟店が増えても、ポイントをもらって使うのはユーザーです。もらう量が少なければ、交換できるものも少なくなります。買い物をしたとき、100円につき1ポイントの付与だけでは、使うまでにかなりの時間がかかります。大手決済事業者のポイントサービスのほうが圧倒的に便利で魅力的です。


 大手決済事業者のポイントと地域ポイントの違いは、地域ポイントは決済時だけでなく、さまざまなシーンで発行することができること。民間なら来店ポイント、行政や商工団体なら健康診断受診やプレミアム商品券など、多種多様な発行が可能です。だからこそ、行政や企業、各種団体などと協力しながら発行量を増やしていくことが重要なのです。



④デジタルとアナログの2本立て


 地域通貨には紙、カード、アプリが考えられます。ここでは紙はアナログ、アプリはデジタル、カードはその中間として話を進めます。それぞれの特徴を認識した上で、うまく組み合わせていきましょう。


【紙】

(メリット)

・わかりやすい

・高齢者も参加しやすい

・スマホを持たなくてもよい

(デメリット)

・印刷代や事務作業など労力とコストがかかる

・正確なデータ取得、分析ができない

・1円単位の利用ができない


【カード】

(メリット)

・印刷代がかからない

・簡易なデータ取得ができる

・1円単位で使える

(デメリット)

・カードが必要

・決済端末が必要

・システムトラブルなど利用が一時停止される可能性がある

・こまかなデータ取得、分析ができない


【アプリ】

(メリット)

・印刷代や事務作業など労力とコストの削減

・正確なデータ取得、分析ができる

・接触の機会が減る

・1円単位で利用できる

(デメリット)

・スマホが必要

・高齢者に利用しにくいと感じる人がいる

・システムトラブルなど利用が一時停止される可能性がある


 全4回に渡り、地域通貨の基本をポイントを絞って説明してきました。よりくわしいノウハウは拙著『イラストで学べる 地域通貨のきほん』をご覧いただければと思います。具体的な事例やイラストを交えながら、ゼロからわかる形で解説しています。


 最後に、昨年、18歳以下への10万円相当の給付のうち、5万円が現金かクーポンかの議論がありました。私たちの思うところは、目的と利用先を合致させ、地域経済の活性化をはかるには電子クーポンであることが望ましいと考えています。すでにデジタルで地域通貨のインフラが整っている場所では、今回のような事案に容易に対応することができ、報道されているような事務経費、時間や手間をかけることはありません。これからも自分たちの事業を通して地域通貨の普及に貢献していきたいと思っています。

 

大澤佳加(おおさわ・よしか)

香川県生まれ。香川県立志度商業高等学校卒業後、営業、販売業、飲食店経営などを経て、2013年にサイテックアイ株式会社に入社。加盟店営業に従事し、2016年にサイテックアイ株式会社代表取締役に就任。「ふるさとの愛とありがとうをかたちに」をモットーに、地域ポイント「めぐりんポイント」を運営している。

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