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  • 執筆者の写真大澤佳加

【地域通貨の基本③】地域通貨が失敗する3つの理由

更新日:2022年5月1日



「めぐりんポイント」を運営するサイテックアイの大澤佳加さんが地域通貨の基本を解説する本連載。第3回は地域通貨が失敗する理由を取り上げる。古くは江戸時代の藩札にその起源をたどることができるという地域通貨。しかし、これまで成功したといえるものはほぼないとか。その理由を3つの観点から紹介する。



失敗する理由① 円の代わりをつくろうとする


 地域通貨は最近生まれたものではありません。古くは江戸時代にまでさかのぼることができます。江戸幕府が発行する正規の通貨とは別に、各藩の中でしか使えない藩札が使われていたのです。藩における流通量が少なかったからでしょう。


 地域通貨なら、基軸通貨では解決しづらい問題を解決できる。そのような可能性が、江戸時代からずっと信じられてきました。そして現在、地域通貨は全国で800種類もあり、2000年代前半にはブームを迎え、最盛期には3000もの地域通貨が存在したとも言われています。


 ところが、今に至るまで、成功したと断言できる地域通貨はありません。その理由を3つ挙げてみたいと思います。


 1つ目は、「円の代わりをつくろうとする」こと。地域通貨の目的は地域経済の活性化とコミュニティーの活性化です。しかし、経済の活性化だけが強調されてしまいがちです。円だと外に出てしまうから、自分たちの地域だけで通用する、円の代わりをつくる。一見、正しいように思えます。


 ところが円の代わりをつくろうとすると、地域通貨はただの決済手段になってしまいます。地域通貨は、潜在化した経済活動を顕在化させることで、コミュニティーの活性化へつなげるもの(第2回参照)でした。ただの決済手段では、それはかないません。


 また、決済手段として考えた場合、非常に多くの流通量が必要です。そして現実問題、地域通貨を円の代わりとなるほどの流通量にすることは不可能です。地域通貨は円と一緒に使われるものです。円の補完的な役割を果たすことで、円を地域内で流通させるのです。


 この点が問題になるのは、「地域マネー」です。地域マネーは円と似た役割を持っているので、この過ちに陥りやすくなっています。「年間の流通量が5億円相当です」と聞くと、すごいと思うかもしれません。でも、たったの5億円では地域通貨の運営費はまかなえません。



失敗する理由② 地域マネーと地域ポイントの違いを理解していない


 地域マネーと地域ポイントの違いは第2回で説明しましたが、適用される法律、運用方法が大きく異なります。地域マネーと地域ポイントでどう変わるのでしょうか。


 地域マネーは前払い方式で、消費者は前もって現金を払い、地域マネーに交換して使います。そして、交換した地域マネーでモノやサービスと交換します。地域マネーを受け取ったお店は発行元から現金を受け取ることになります。その際、発行元は手数料を2~3パーセントもらうのが一般的です。


 つまり、100円分の地域マネーが使われたら、手数料として2~3円が発行元の収入になります。クレジットカードとほぼ同じ手数料だと思えばわかりやすいでしょう。となると、よっぽどの手数料収入がないと運用に使用をきたすことになります。たとえ年間で1億円分の流通量があったとしても手数料は300万円程度。はたしてそれで継続的に運用できるでしょうか。


 一方、地域ポイントは一般的なポイントカードと同じで、買い物をしたときに「100円で1ポイント」のような形で貯まります。この場合、地域ポイントの発行元はどこから手数料を得るかというと、ポイントを発行したお店からになります(相場は1ポイント付与につき1円が相場)。


 もし年間で1000万ポイントが付与されれば、地域ポイントの発行元は1000万円の手数料を得ることができます。もちろん、消費者がポイントを使用したとき、その値引き分は地域ポイントの発行元がお店に現金で支払いますし、ポイントは流通するために非常に時間がかかるという課題も考慮する必要があります。



失敗する理由③ 稼ぐことを考えていない


 前項の地域マネーと地域ポイントの比較でもわかるとおり、地域通貨事業は導入よりも運用のほうがむずかしいと言えます。


 地域通貨事業を主導するのは主に行政、商工団体、民間の3つに分けられますが、どのパターンでも運用が非常に大事です。行政主導で地域通貨事業をスタートすると、とかく産業振興が中心となりがちで、各部署を横断した取り組みになりづらいケースが目立ちます。民間主導でスタートした場合はなおさら、自走させることをつねに考えなければなりません。


 では、地域通貨でいかに稼げばよいか? 地域通貨発行元の主な収入源は手数料とシステムの月額利用料です。つまり、事業を継続させるためには加盟店からも経済的な協力が欠かせないのです。


 手数料が発生するタイミングは、地域マネーは決済(利用)したとき、地域ポイントは付与したときです。だからこそ、魅力的な出口戦略(地域通貨の使い道)を用意して消費者に利用を促すこと。そのためにも、加盟店に納得してもらえるようなサービスの提供――加盟店を掲載したフリーペーパーの発行やHP、SNSの活用といった、消費者をお店に送客する工夫が、地域通貨の発行元には求められるのです。


 まだまだ注意したいポイントはありますが、この3大失敗要因を知っておくだけでも、「地域通貨は作っておしまい」という意識から脱却することができるはずです。次回は失敗しない地域通貨のルールを見ていきます。

 

大澤佳加(おおさわ・よしか)

香川県生まれ。香川県立志度商業高等学校卒業後、営業、販売業、飲食店経営などを経て、2013年にサイテックアイ株式会社に入社。加盟店営業に従事し、2016年にサイテックアイ株式会社代表取締役に就任。「ふるさとの愛とありがとうをかたちに」をモットーに、地域ポイント「めぐりんポイント」を運営している。

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