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  • 執筆者の写真Byakuya Biz Books

コクヨの「BIZRACK」から考える、テレワーク時代の商品開発

更新日:2022年5月1日



テレワークという働き方が定着しつつある現在。その文脈で注目されるのはたいていがオフィスか在宅か?という働く場所だろう。ところが、働く場所の変化に付随する形で、私たちが仕事で使うモノも変化している。そう、文房具やオフィス用品である。そんな働き方のシーンの変化に着目して開発された商品が、コクヨの「BIZRACK」シリーズだ。コクヨの吉村茉莉さん、西大貴さん、佐々木潤さんにインタビュー。テレワーク時代の商品開発で重要なことを教えていただいた。



“文房具”のコクヨ、実はB to Bがメインの会社だった!?


――コクヨといえば文房具という印象ですが、主力事業は何になるのでしょうか。


吉村 一般消費者からは文房具のイメージが強いのですが、実はオフィス空間構築、家具事業のほうが規模は大きいんです。2020年度の売上高でいうと、オフィス空間の事業が44%、オフィス通販の事業(カタログ通販)が34.3パーセント、ステーショナリーの事業が21.7パーセントという構成になっています。一般消費者の目に触れるのはほとんどが文房具だと思いますが、オフィスにある机などをよくよく見るとコクヨのロゴが入っていたりします。


――このコロナ禍でテレワークが進むなど、働き方が大きく変わりました。影響は大きいですか?


吉村 在宅勤務が増えてオフィス勤務が減る状況では、コクヨは大変だというイメージを持たれるかもしれません。ただ、以前からフリーアドレス(オフィスで固定席を設けないこと)やABW(Activity Based Working/オフィスの席に限らず、自宅やカフェなど仕事内容に応じて働く場所を決められる)など、仕事の内容によってふさわしい環境を選ぼうという考えが広まりつつありました。


また、東京はオリンピックの影響でテレワークに移行せざるをえないという話もありました。ですから、実は準備は進めていたんです。それが新型コロナウイルスによって、5年先だと思っていたことが早まったと言うことができます。


――今に、始まったわけではないんですね。


吉村 そうですね。文房具に絞っていうと、リーマンショック以降の流れのほうが大きいんです。当時、多くの企業が経費削減を進めた結果、もともと文房具は会社支給――総務などが大量買いしておく――だったのが、個人で使う文房具は自分で買う形へと変わりました。


そして、どうせ自分で買うなら、使いやすいものや好みのデザインが欲しいということで、B to BからB to Cの割合が増えてきました。そう考えると、テレワークもあくまで一連の流れの延長線上からは外れていないかなと思います。


2つ折りドキュメントファイル〈BIZRACK〉


――最近の文房具の売れ筋や傾向を教えてください。


吉村 アマゾンではバッグインバッグをはじめ、ツールを入れるポーチ系はよく動きますね。


西 傾向としては境界がどんどんあいまいになっている印象です。スマホやガジェットを持ち運ぶことが増えた結果、それがペンケースなのかポーチなのか、中に入れるものもあいまいになって。仕事のオンとオフがあいまいになったことに合わせて、文房具も仕事用と自分用という境界があいまいになりました。


――アマゾンと店頭ではどちらの比重が大きいんですか?


吉村 文房具は店頭で認知されて購入されるのがまだまだ大きいです。単価が安いものはネットだと逆に買いにくいことに加えて、文房具は学生さんがメインターゲットになるので、クレジットカードがないからそもそも通販しづらいことも影響していると思います。一方で、「BIZRACK」のようにある程度単価があって、ビジネスパーソン向けの商品は比率も高いですね。


吉村茉莉さん。ステーショナリー事業本部 D2C戦略本部 プロモーション推進部所属



「誰が使うか」ではなく「どういうシーンで使われるか」を考える


――「BIZRACK」はどういういきさつで開発されたんですか?


西 働き方の変化(在宅とオフィスの半々で勤務する)をシーンで捉えました。具体的には、パソコンそのものを活用することを中心に、コピー用紙にさっとメモを取ること、書類をパソコンで見るだけではなくて、家で見るために持って帰ること、そしてノートをパソコンと合わせて使うことなど。そういう想定をしたとき、この5つの商品を組み合わせてもらうと、あらゆる人が働き方の変化に対応できるんです。


――たしかに、会社でプリントアウトして書き込んだり、資料を持って帰りますね……。


西 もともとオフィスではコピー用紙に会議のメモをとったり、思いついたことを書き留めたりという行動がありました。つまり、パソコンを使うこととコピー用紙への筆記は同時に起こる行動なんです。それならば、コピー用紙をノートとして形にすればもっと使いやすくなる。そんな考えからクリップノートという製品になりました。


2つ折りクリヤーブックは、資料をコンパクトに持ち運びたいという需要から生まれました。カバンのモジュールを見ていると、大きいカバンを持っている人もいれば、小さいロードバッグで出勤する人もいて。そういう持ち物の変化に対応した商品ですね。


クリップノート〈BIZRACK〉


2つ折りクリヤーブック〈BIZRACK〉


――ただ、ノートとパソコンを合わせて使うというのは?


吉村 当社がビジネスパーソンを対象にとったアンケートによると、コロナ以降、ノートやメモの使用が増えていたんですよ。ウェブ会議をするようになって、それまでパソコンでメモを取っていた人が、逆に紙のメモやノートに回帰した。それが今回のPCスタンドにも生かされているんですけど。筆記台をつけるとか。相反するものではなくて、共存するものだと思っています。


――タブレットとの併用ではないんですね。


吉村 私用のタブレットは仕事では使えないという意見もありましたね。


西 クラウドのサービスが増えているので、私用の端末をデータに連携させない会社が多いんです。そのため、会社支給のパソコンと私用のタブレットの併用は意外と進まないわけですね。


――皆さんは仕事で紙は使っていますか?


吉村 私は測量野帳という、小さいメモ帳を使っています。アイデアを書き出したり、思考をまとめる前段階で整理したり。クリエイティブな領域では、まだまだ手書きのほうがいいと思っていますね。ですから、パソコンやタブレットが当たり前になって、その役割は変わるかもしれないですけど、紙とペンは残っていくはずです。なので、BIZRACKにもクリップノートがあって、これはコピー用紙をノートみたいに使える。


佐々木 自社製品のソフトリングノートを使用しています。会議中にサッとメモを取ったり、開発アイデアを書き出したりするのが主な用途です。会議中にPCでメモをとるとタイピング音が気になってしまって。それに、WEB会議では画面を切り替える必要もあるので、ノートが便利です。アイデアスケッチなどのラフイラストをさっと書き出す際も、手書きが一番早くて楽ですね。


西大貴さん。ステーショナリー事業本部 戦略PDCA本部 商品戦略部所属



開発者が語る、「BIZRACK」ができるまで


――社内で「BIZRACK」のチームがあるんですか?


吉村 西は企画、佐々木は開発としてそれぞれが複数の商品を抱えていて、商品ごとに集合・離散する感じですね。


西 企画の業務は、佐々木の開発業務の手前の部分になっていて、どういうニーズがあり、どういうブランドや商品体系にしていくかを策定していきました。


――佐々木さんが開発に関わったのはどれでしょうか。


佐々木 ノートPCスタンドと、2つ折りクリヤーブックです。


――PCスタンド+ノートでメモが取れるというアイデアはどうやって生まれたんですか?


佐々木 ノートパソコンを使う快適性を上げたいなと思って、まずはPCスタンドという機能からスタートしました。そこに持ち運びをすることを考えて、なるべく薄く、片付けがラクで……さらに、ノートをとる機会が多いことがわかっていたので、いかに狭いスペースで筆記できるかを考えました。


――苦労したポイントは?


佐々木 つねにノートを書いているわけではないので、ノート筆記の場面が来たときにすぐ出せるのか、必要ないときは邪魔にならない位置にしまえるか、その組み合わせには苦労しましたね。結果的に取り付けるのではなく、サッと出せてサッとしまえるスライド式に落ち着きました。あとはコストも大事ですね。何を作るかだけではなくて、どう作るのかという視点は欠かせません。


ノートPCスタンド〈BIZRACK〉


引き出したスライドボードを折り返すことで、キーボードに干渉しにくいノート筆記台として使用できる


――商品開発では競合の商品を参考にすることはありますか?


佐々木 競合は必ず見ますが、まったく違うジャンルの商品からアイデアの着想を得ることもあります。特にパーツの動き方や収納方法は文房具だけを見ていても得られないので、意識的にほかのものから情報収集するようにしています。


――「BIZRACK」は利用シーンから考えて作られたわけですが、開発者個人としてのこだわりとぶつかったりはしませんでしたか?

佐々木 自分が欲しいと思えるものを作るという気持ちはもちろんあります。ただ、こだわりすぎると売れなくなることもあるので、売れながらもちょっとしたこだわりを入れる、というスタンスですね。


――ノートPCスタンドで入れたかったけど結局あきらめた機能はありますか?


佐々木 PCスタンドになりつつ、デスクマットにもなるということは考えていました。机全体を覆うようにすることで、一つで自分のワークスペースが展開できるみたいな。


吉村 製品化会議で「これはトゥーマッチではないか、使っていないときはちょっとジャマになるよね」という話になったんです。以前、社内で在宅ワークの写真を募集したことがあるんですけど、家だと限られたスペースで、それこそパソコンの幅ぐらいしかないスペースで作業をしているんです。


たとえば、専用の書斎がある人もいたんですけど、ダイニングテーブルの端っこやプリンター台と一体になった小さいパソコンデスク……さらに、子どもが学校に行っている間に学習机で作業していたけど、オンライン授業になってその場所もなくなってしまった人もいました(笑)。


そういうわけで、「あれも、これも」と機能が増えていったんですけど、お客さんの利用シーンに立ち返ると、そもそもそんな場所ないよね、お客さんが求めているのはこれじゃないよね、という話になったんです。やはり会社はデスクワークに特化した環境で、仕事しやすいんだなと気づきましたね。


――製品化会議というのは、企画の西さんや開発の佐々木さん以外にも、さまざまな部署の方が参加するんですか?


吉村 製品化を決定する会議があるんですけど、その手前に営業や生産、プロモーションの担当者などが集まって話し合います。生産の計画は立っているのか、お店に入る見込みは立っているのか、プロモーションの計画は立っているのか、利益は出るのか……これがすべてそろっていないと、ゴーサインが出ないんです。


――他部署の方に製品のウリを説明するのは大変そうですね。


西 ノートPCスタンドでいえば、佐々木がいろいろな機構を試してくれたので、実は伝えたいことはたくさんあるんです。二段階調節できる機能や折りたたんだときにフラットになるところなど。それでも、やはりワンメッセージとして、ノート筆記ができるおもしろさに決めて。


吉村 営業はお店に並んだ状態のことを気にするので、たとえば「このパッケージではお店に並んだときに手に取ってもらえないよ」とか厳しい意見をもらうこともあります。お店の棚は限られていますから、競合他社の商品から奪って入れないといけません。営業は商品のウリをバイヤーさんにしっかり伝えて、説得しないといけませんからね。


佐々木潤さん。ステーショナリー事業本部 ファイル本部 ファイル開発部所属



変化の激しい時代で売れる商品を作るコツ


――「BIZRACK」はシーンに着目して生まれたということでした。もちろん商品によってアプローチは異なると思いますが、何か企画を立てるときの基本的なスタンスはありますか?


西 困りごとをいち早くつかむことですね。その点、働き方が変わるタイミングというのは、大きなビジネスチャンスでもあるんです。世の中的にはコロナによってデジタル化が進み、先進的な働き方になったというイメージが先行しています。


ところが実際の働き方との間にはギャップがたくさんあります。オフィスで働く必要がある人、在宅勤務でも作業するスペースがない人、いきなりパソコンを家に持って帰れと言われても……といろいろな困りごとがあります。その困りごとを解決するために、ブランドとして立ち上げたのが「BIZRACK」なんです。


――困りごとは実態調査などで把握される、と。


西 社内で長期的なトレンドを把握するチームがあって、大きな流れを共有していますし、実態調査の結果も非常に重要ですね。ただそれだけではなくて、データや実際の声を聞いたときに、もう一歩掘り下げて考えるように心がけています。表面的な困りごとの背後には、本当に困っていることが別にあるんです。


だから、一般的な解決方法ではなく、別のアプローチをすることができる。それが成功したとき、お客さまのためになったなと感じますね。ですから、データをうのみにしないとか、本当に困っていることは何なのかということを深堀りした上で、佐々木と話しながら解決策を探しています。


ノートPCオーガナイザー〈BIZRACK〉


――数字が絶対、ということはありませんか?


西 実は、そこは変化しているところで、結構、数字重視というか、定量データ重視の時期も当社でもありました。しかし最近は、定量データとともに、本当に困っていることはなんなんだろうという定性データをちゃんと組み合わせているかが問われるようになりました。一人の声もしっかり聞こうという空気が生まれ始めているんです。だからこそ、一歩深堀りすることが大事なわけですね。


――最後に、今後「BIZRACK」のラインナップが増える予定はありますか?


西 実は「BIZRACK」の前身となる、「Bizrack up」というバッグインバッグシリーズがあるんです。それを働き方に合わせてアップデートして、ブランドとして立ち上げた経緯があります。今後はこのバッグ系にもブランドとして挑戦していきたいと思っています。

 
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