プリンにソフトクリームが刺さっている!? そんな斬新な見た目のスイーツがヒットしている。伊勢神宮のおひざ元・伊勢市にある冷凍プリンソフト株式会社が製造する「冷凍ぷりんソフト」だ。コロナ禍でステイホームが続く中、お出かけできない消費者の支持を集め、注文から1~2カ月待ちという大ヒット商品となっている。開発者である山村乳業の山村晋平さん、冷凍プリンソフト株式会社の真実さんご夫妻に話を聞いた。
プリン+ソフトクリーム=売れた!
冷凍ぷりんソフトのルーツは、伊勢外宮前直営店「山村みるくがっこう」で販売されていた「ぷりんソフト」という山村乳業の商品。「ぷりんソフト」は、「山村ぷりん」と「山村ソフトクリーム」を同時に食べたいという声にこたえて、7年前に販売を開始。年間で1万5000個も売れる人気商品となった。
「見た目が斬新なこともあって、予想以上に売れましたね。ただ、この見た目になるまで、社内で紆余曲折があったんです。瓶の中にソフトクリームを入れることについてさまざまな声が上がって」(晋平さん)。
そう話すのは山村乳業の山村晋平さん。山村乳業は晋平さんの父・豊裕さんが3代目となる、いわゆる一族経営の会社だ。そして、「ぷりんソフト」を開発したのは、晋平さんの母・美佳さん。同社の商品開発を一手に担う。
「具体的に言うと、『瓶の口径が小さいからソフトクリームを入れると形の悪いものになるし、食べづらい』『瓶だとお店の近くで食べて返却しないといけない』などですね。特に伊勢神宮の界隈は食べ歩きする方が多いので、瓶を戻してもらうよりは、買ったらそのまま持って帰れるプラスチック容器のほうがいいんです」(晋平さん)
「それでも山村乳業は瓶にこだわっているんです。口当たりも味わいもいいからです。うちは牛乳配達もしているんですけど、『瓶じゃないと飲みたくない』というお客様もいるほどで。ただ、瓶はプラスチックに比べてコストが高い。1本あたりの容器代は、プラスチック容器に比べると10倍ぐらいします。瓶は自社で回収して、洗浄して、再利用するんですけど、10~15回使わないとプラスチックと同じ価格にはならないですね」(真実さん)
山村乳業の直売店「山村みるくがっこう」(外宮前店、内宮前店)
Webを含めた観光雑誌でよく取り上げられたこともあり、購入者のほとんどは観光客だ。しかし、ヒットしたのは見た目だけが理由ではない。創業以来、100年続くこだわりの製法で作られた、牛乳のおいしさがある。
「プリンもソフトクリームも、山村乳業の牛乳を使っているのですが、その特長はパスチャライズ殺菌という殺菌方法です。簡単にいうと低温殺菌のことで、牛乳本来の味と豊富な栄養分を守ることができます。ほとんどのメーカーは効率を優先して、高い温度、短い時間で殺菌します。でも、それだと味と香りも飛んでしまう。だから、牛乳の時点で味が全然違いますね」(真実さん)
味と見た目で大ヒットした「ぷりんソフト」。手作りのため、毎日生産できる数には限りがあり、売り切れてしまうこともしばしば。
「製造数はその日によりますが、1日平均にすると50個ぐらいでしょうか。平日や天気が悪い日は減らして、土・日・祝日は100~150個作ることもあります。そんなにたくさん作れないので、午前中に売り切れてしまうこともありますね」(晋平さん)
取材に答えていただいた山村晋平さん
1年の試行錯誤で完成した「冷凍ぷりんソフト」
「ぷりんソフト」の大ヒットを受け、晋平さんと真実さんは「ぷりんソフト」をベースにした新商品の開発に着手。それが「冷凍ぷりんソフト」だ。
「最初はアイスの新商品を出せないかと考えていたんです。うちの一番商品はぷりんソフトだから、冷凍してみたらいいんじゃないかという話になって。それで義母に働きかけました。ただ、私が家で食べたいという気持ちが強かったのかもしれない(笑)。うちからお店まで車で10分かからないんですけど、家の冷凍庫に入れておけば、いつでも好きなときに食べられますから」(真実さん)
そんな少し軽いノリ(?)でスタートした商品化への道。ところが、その道のりは非常に険しいものだった。
「完成までに何度か挫折しているんですよ。最もネックになったのは解凍です。ぷりんソフトをそのまま凍らせるとプリンがカチカチになり、解凍したときにまったく違うものになってしまった。油が固まった感じでボソボソするんです。試作してはダメのくり返しで、社長からも『もうやめれば』と言われましたね。
うちは小さい会社なので、最初から答えが見えているものじゃないと、コストも時間もかけられないんです。たとえば、ぷりんソフトなら、プリンとソフトクリームを合わせれば何が出来上がるか想像できます。ところが、冷凍ぷりんソフトの場合は、最初の試作がダメだった。だから『やめたほうがいい』という判断をしたのだと思います。それでも、将来的に価値が出るものならやろうと、粘り強く続けました」(晋平さん)
「ぷりんソフト」の開発期間は約半年。それはプリンもソフトクリームももともと販売していて、それらを組み合わせるだけでよかったからだ。ところが、「冷凍ぷりんソフト」は「解凍」問題をクリアするために1年を要した。
「試行錯誤に1年ほどかかりましたが、解凍したときにソフトクリームもプリンもやわらかいという商品が出来上がりました。これは企業秘密なんですけど、ぷりんソフトとは材料などを少し変えたんです」(晋平さん)
「お家でいつでも食べられるように」開発された
苦心の末に完成した「冷凍ぷりんソフト」。「ぷりんソフト」と違うのは製法だけではない。そう、コーンが刺さっているのだ。
「最初はプリンにソフトクリームを入れて、袋をかぶせて凍らせていたんですよ。ところが、それではソフトクリームが袋に付いてしまいます。そのため、専用のフタを仕入れようと思っていました。そんなあるとき、アイスのスタッフが、工場にあるソフトクリームのコーンをかぶせて持ってきたんです。
私はそれを見たとき、『妻にめちゃくちゃ言われるだろうな……』と思ったんですよ。冷凍ぷりんソフトに関しては、妻が中心になって動いていました。開発の後押しをするだけでなく、解凍後の味の完成度をチェックしたり、パッケージのデザインをしたり。それまでに『あれは違う』『これも違う』と10回以上はダメ出しされていたので、その日も冷凍庫から『今日のサンプルはね……』という感じでおそるおそる出した(笑)」(晋平さん)
「私はそれを見た瞬間、『それでいこう!』と即答で決めました。もう、すごい衝撃だったんですよ。冷凍庫から斬新な見た目のものが出てきて。私が受けた衝撃は、きっとほかの人にも伝わると思いましたね」(真実さん)
実際に発売すると、メディアにも取り上げられ、想定の10倍以上もの注文が来たとか。あまりの注文数に製造が追いつかず、現在は1〜2カ月待ちという人気商品に。
「いまだ続くコロナ禍の状況で、通販の売上は会社的にも大きいですね。みなさんがどこにも行けない状況のとき、『こんな商品がありますよ』と出すことができました。もし、コロナになってから商品開発していたら、発売はもっとあとになっていたでしょうから」(晋平さん)
会社設立! 冷凍ぷりんソフトが買いやすくなる?
山村乳業の工場
7月30日、「冷凍プリンソフト株式会社」という会社が誕生した。社名からわかるとおり、冷凍ぷりんソフトに特化した製造・販売会社だ。
「今、冷凍ぷりんソフトは販売から1年が過ぎて、1~2カ月待ちの状況が続いてしまっています。それはなぜかというと、冷凍ぷりんソフト以外の商品とバランスをとりながら製造しているので、冷凍ぷりんソフトばかりを作れないからです。そこで、冷凍ぷりんソフトに時間も費用もかけられるように、会社を別にしたんです」(真実さん)
「山村乳業では、冷凍ぷりんソフトの可能性を十分に引き出すことがむずかしいんです。せっかく多くの方に支持していただいているので、もっと積極的に発信もしていこうと。今は山村乳業の製造所を間借りしている形ですが、将来的には新しい製造所に移転する計画です」(晋平さん)
製造量の増加で、さらなる拡大を目指す「冷凍ぷりんソフト」。最後に真実さんはこんなビジョンを教えてくれた。
「味には自信があるので、おいしい+αを提供したいと思っているんです。冷凍ぷりんソフトは見た目が斬新で、アッと驚くものを作ることができました。おいしい+驚きですね。今はシンプルなパッケージですけど、将来的には改良もしたい。「おいしい+α」をいろいろ仕掛けていきたいですね」(真実さん)
冷凍プリンソフト株式会社
住所:三重県伊勢市朝熊町4383番地469
電話:0596-68-9022