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  • 執筆者の写真Byakuya Biz Books

業界初! 神戸プリンが土産業界に起こした革命

更新日:2021年8月20日


神戸プリン

「神戸プリン」は1993年の発売以来、神戸土産の定番として確固たるポジションを獲得した土産菓子(みやげがし)の一つ。大ヒットを記録した裏には、同社が手がけるスーパーやコンビニで買えるチルドデザートとは違った苦労があったという。神戸プリンの開発者である渡部芳朗さんと、広報担当の田村麻希さんに当時の話を聞いた。



神戸プリンは、あるアイデアのおかげで大ヒット!


渡部

神戸プリンの開発をスタートしたのは、当社が大阪吹田市から兵庫県神戸市に移転したとき、神戸市の方から「若い女性に向けた、神戸の新しいお土産を開発してみては」とアドバイスをいただいたことがきっかけです。


神戸は当時から若い女性あこがれの街。また、洋菓子の街として、老舗から新しいお店まで数多くの洋菓子店が軒を連ねていますが、地元でしか買えない女性向けの土産菓子はありませんでした。


当時のお土産といえばレール菓子が一般的だったんです。レール菓子とは、ある一カ所の工場でつくって、パッケージだけを変えて、各地で売られた土産菓子のことです。


また、神戸には全国ブランドの洋菓子メーカーがたくさんありますが、そうしたメーカーは全国展開しているために、東京や札幌でも買えるという状況でした。


そんななか、「洋菓子の街にふさわしく、若い女性向けのオシャレなお土産として、今までにない画期的なものをつくろう」。そんな思いから、当時ヒットしていた「焼プリン」の技術を生かすことができる、自分たちが得意なプリンを選んだわけです。


そして、発売当初は神戸市内限定で販売しました。今でも兵庫県や大阪府のおみやげ店、主要駅・空港の売店、高速道路のサービスエリアに限って販売しています。


まず一口食べてからソースをかけるのが上手に食べるコツ


開発はかなり難航しました。お土産である以上、常温で持ち帰ることができて、さらに日持ちしなければなりません。しかし、日持ちを優先させると味が落ちてしまいます。


配合の比率、調合殺菌の温度調整など、さまざまな条件で試行錯誤をした結果、なめらかな口どけやふんわりした食感を残しつつ、ソースを別添えにすることで、おいしさと保存性の両立に成功したんです。


お土産用のプリンとして、クオリティーには絶対の自信がありました。ただ、知名度はゼロからのスタートでしたから、まずは商品を知ってもらわないといけません。何かいい方法がないかずっと考えていたとき、あるアイデアがひらめいたんです。


その日、いつものように会社に向かっていたら、大阪の梅田駅であるブランドの紙袋を持った女の子を数人見かました。えらく目立つ袋で、そのとき、女性が神戸プリンを持って歩く姿がはっきりイメージできたんです。


神戸プリンを手提げ袋に入れて提供しよう――手提げ袋のサイズから考えて、袋の紙質を選び、デザインして、パッケージも今のスタイルである2段重ねとなったわけです。


トレードマークの緑色の手提げ袋とともに、神戸を代表するお土産として多くの人に愛されている


発売日には、女性社員がみずから神戸プリンが入った手提げ袋を持って、神戸北野異人館街のあたりを歩きました。すると、かなり目立ったみたいで、おみやげ屋さんから「ウチでも売らせてくれ」と電話がかかってきたんです。


お店でプリンを手提げ袋に入れていただくのはなかなか苦労しましたね。販売する方にひと手間かけていただくことになりますから。「この袋があってこその神戸プリンです」と粘り強くお願いしました。


発売したのは1993年の2月でしたが、これもタイミングを計りました。新商品は発売のタイミングがすごく大事で、とくにお土産はゴールデンウィークやお盆、年末年始など、人が動くときに売れます。


1993年は「アーバンリゾートフェア神戸93」が開催される予定だったので、観光客が神戸に来るだろうと予測していたわけです。


最初は売れる自信がなくて、発売年の計画は年間1万2000セットでしたが、結果的には予想以上に売れて、発売から25年を迎えることができました。また、「モンドセレクション」で2013年から7年連続で最高金賞を受賞しており、世界にも認められる商品に成長したと感じています。


渡部芳朗さん。神戸プリン開発者の一人として、商品開発のほか、手提げ袋を考案



土産菓子とチルドデザートの違い


田村

当社は土産菓子だけでなく、「神戸シェフクラブ」「カップマルシェ」など、チルドデザートの製造・販売も行っていますが、お客さまへのアプローチは異なります。


土産菓子はお店から販売スペースをいただいて、そこでお客さまにアピールする方法を工夫していきます。什器(じゅうき)やPOPも含めて、ある程度自由につくりこむことができます。


もともと神戸プリンを発売するとき、ふつうに並べるだけでは埋もれてしまうので、什器を持ち込んで、試食販売もすると提案したんです。今では当たりまえの光景ですが、われわれが先駆けでした。


神戸プリンは、今ではある程度売り上げが見込めるものとして販売スペースをいただけますね。それでも、季節限定の商品を発売するなど、飽きられない工夫はつねに必要です。


春はイチゴ、夏はマンゴー、秋・冬がマロン、チョコと季節ごとに限定の味が楽しめるのも魅力


チルドデザートはコンビニエンスストアやスーパーで販売されます。自社ブランドの商品はもちろん、お店オリジナルの商品もつくりますが、お店に置かれるかどうかはバイヤー(流通業者)さんの判断によって左右されるんです。


また、チルドデザートは商品サイクルが短くて、とくにコンビニ向け商品は約6週間です。販売期間が延びることはめったにないので、つねに何種類も同時進行で開発をしています。


ある商品がヒットしたとしても、翌年に同じものを発売することもほぼありません。何か進化させないと、採用されないからです。有名メーカーとコラボしたり、有名パティシエに監修してもらったり、さまざまな工夫を重ねながら、年間で数十アイテムの新商品をつくっているわけです。


どこに行っても絶対に売っている定番商品以外、どのメーカーも同じだと思います。定番はオリジナリティーがともなったおいしさ、そして商品の価値に合った値ごろ感が大事ですが、定番化させるのは非常にむずかしいですね。


田村麻希さん。コンビニで同社の「焼プリン」を手に取ったのが入社のきっかけ。「こんなにおいしいプリンがコンビニで買えるなんて!」と衝撃を受けたとか



新しいことに挑戦する文化が生んだ、数々の「先駆け」商品


渡部

当社はもともと乳製品・牛乳の会社として立ち上がっていまして、コーヒーフレッシュ(コーヒークリーム)をはじめとした業務用の商品をつくっていました。その後、洋菓子店から缶入りのプリンやゼリーをつくってほしいというご依頼をいただいて、デザートにシフトしてきた経緯があります。


コーヒーフレッシュをつくるには、水と油を混ぜる乳化という技術が必要で、当社が得意としていることです。そして、プリンは乳化の技術の集大成みたいなスイーツなんです。


プリンは卵と乳製品、砂糖というシンプルな組み合わせですが、これまでさまざまな進化を遂げてきました。当社でも得意の技術力を生かして、先駆けといえる商品をいくつか開発しています。


たとえば、プリンといえば蒸しプリンやミルクプリンが一般的だった1989年、業界ではじめて「焼プリン」の量産体制を整えると、月産で400万個を超える大ヒットとなりました。「焼プリン」は専門店のようにオーブンで焼いてつくるプリンとして、当社がはじめて名づけました。


「焼プリン」が流行って定着すると、次は「なめらか」が流行りました。今でも一番売れるタイプですね。


「らくらくホイップ」も乳化の技術が生きている商品。ホイップされた状態で長期間もたせるのはじつはむずかしいとか


田村

当社の「ロイヤルカスタードプリン」という商品は、15年続くロングセラーです。なめらか以上の「とろとろ」が特長です。スプーンですくえるギリギリのとろとろ感が味わえます。


「ロイヤルカスタードプリン」は最初コンビニ向けのオリジナル商品として開発していました。その過程で、バイヤーさんから「もっとなめらかにできませんか?」とリクエストがあって、思い切って配送に耐えられないぐらいなめらかにしてみたんです。


案の定、プリンは崩れてしまったんですけど、バイヤーさんに「こんなにおいしいプリンは食べたことがない」とおっしゃっていただいて、商品化が決定しました。とはいえ、さすがにプリンがぐちゃぐちゃになってしまっては成り立たないので、ギリギリのなめらかさを保つため、フタのところまですき間なくプリンを充填することで商品化にいたりました。


ロイヤルカスタードプリン。なめらかを超えるとろとろが人気


渡部

先ほど申しあげたとおり、プリンはシンプルなスイーツですし、大手メーカーと同じことをしていては激戦の市場で勝ち残ることは非常にむずかしい。だから、技術力はもちろんですが、新しいことにチャレンジすることも欠かせません。


本社機能や工場が一カ所に集約されているので、よくいろいろな部署で話をします。市場調査も週に一度、市場品を集めた試食会も行っています。その週に発売された新商品をテーブルいっぱいに並べるんです。他社の取り組みやレベル感も肌で感じることができます。


田村

トレンドをただ後追いするのではなく、自分たちが肌で感じたうえで、お客さまはどうしたらおいしいと思ってくださるのか。変えてはいけない部分と、当社らしいひと工夫を考えたほうが、ヒットしたときに深くささりますね。


私が考案した「ニューヨークチーズケーキ」というカップに入ったチーズケーキは、どっしりとした濃厚なおいしさは保ちつつ、冷蔵庫にストックしておける日持ちとスプーンで食べられる手軽さにこだわりました。


2017年に設備の老朽化などが原因で生産をやめてしまったんですけど、今でも「また食べたい」とか「どこに売っているんですか?」といった手紙をいただくほどです。


もちろん失敗作も数え切れないほどあります。健康志向だからと、約20年前にトマトでゼリーをつくったり、ウーロン茶でプリンをつくったこともあって。今なら受け入れていただけるかもしれませんが……。


今、個人的に注目しているのは、よく知っているもの同士の意外な組み合わせで、たとえばチーズティーです。今までにない風味なんですけど、独特のおいしさがあって、ちょっとおもしろいなと思っています。


渡部

トレンドの中盤や終盤に商品化しても遅いので、芽が出たときにいち早く察知して、何か変化させることができないか、利用できないか考えることも大事です。


そういう意味では、昔はみんなこぞってヨーロッパへ行っていましたが、今はアジアのスイーツもたくさん入ってきていますから、広い視点を持つことも欠かせませんね。


開発や営業、マーケティングが一丸となって商品開発に取り組める環境も強みの一つ


田村

当社は2018年からコーポレートロゴを変えました。これまで新しいことにチャレンジしてきたのがトーラクであり、そのパイオニア精神を表現できる言葉「スイーツと、新しい関係」も入れてあります。


土産業界もインバウンドの影響を受けていますが、今のところ、大阪や京都に行く方が多いんです。これからも創業の精神を忘れず、神戸プリンをはじめ、わざわざ神戸に来てもらえるような商品づくりができれば、地元神戸に、そして支えてくださるいろいろな方に恩返しできるはずだと思っています。

 

トーラク

「神戸プリン」や「神戸シェフクラブ」に代表される、ハイグレードで先進的なデザートをつくる洋菓子メーカー

 

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