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  • 執筆者の写真Byakuya Biz Books

どうなるテレワーク? リモートアクセス市場の第一人者がこれからを予測

更新日:2021年8月20日



新型コロナウイルスの影響で、はからずもテレワーク元年になった2020年。今では多くの人が一度は“自宅で働く”ことを経験したのではないだろうか。しかし、パーソル総合研究所がテレワーク実施率を調査したところ、正社員のテレワーク実施率(11月18~23日)は全国平均で24.7パーセントに留まっているという。この数字は5月25日の緊急事態宣言解除直後の数字である25.7パーセントから1ポイント減少しており、その普及率はまだまだと言えそうだ。そんな中、20年前からテレワークに注目し、さまざまな端末から会社のパソコンにリモートアクセスできる環境を提供しているのがe-Janネットワークス株式会社だ。リモートアクセス市場と呼ばれる業界をリードする同社の歩みと、テレワークの今後について代表取締役の坂本史郎さんに聞いた。



20年前にテレワークに注目!?


――最初に、「CACHATTO」(以下、カチャット)では何ができるんですか?


さまざまなデバイス――たとえばスマホやタブレット、ノートPCなど――から安全に、メールやスケジュールなどをはじめとした業務リソースにアクセスできる、というサービスですね。簡単に言うと、自宅で作業するときでも、自分の持っている端末から会社のパソコンを動かして、普段通りの業務ができます。


――まさに今、求められているサービスなわけですね。リリースしたのは2002年とのことですが、当時から今のような働き方が主流になると思っていたんですか?


原体験は、社会人になった1986年です。アメリカの会社と仕事をしていたんですけど、電子メールがふつうに使われていたんです。日本時間の夕方にメールを出すと翌朝には返事が来ていました。


そこで、自分の私物ワープロにモデムを装着して電子メールができるようにして。真夜中に一度返信をするとさらにワンサイクル話が進み、出張中でも新幹線で返事を書き、電話線で接続すれば一括送信できる。


そうした経験から、仕事の効率上必要なのは労働時間ではなくタイムリーな返信であり、重要なのは自分の作業時間確保よりもリアルタイムでの情報共有であるという考えに至りました。


――当時の日本はどうでしたか?


電話やFAXが主流でした。日本で電子メールが一般的になったのはiモードが登場した1999年ごろです。


――アメリカの会社とのやりとりが多かった分、気づくのが早かったわけですね。


そうですね。アメリカでは集団よりも個人で働く人が多かったので、遠隔でしっかりとやりとりできる環境が整っていました。それに対して、日本はオフィスにみんなで集まって、ワイワイガヤガヤやるのが習慣でしたから、電子メールやチャットはなかなか定着しなかったのでしょう。


また、電子メールで仕事のやり取りができると、上司はCCに入れておけば担当者と直接やりとりができます。日本では自分の上司名で文書を送り、先方上司に依頼して担当者に降りてくるという手順を踏んでいたので、ピラミッド型の組織の生産性阻害を回避することができるとも考えましたね。


坂本史郎(さかもと・しろう)さん。e-Janネットワークス株式会社代表取締役。1986年に東レ株式会社に入社し、技術開発に貢献。2000年に独立し、株式会社いい・ジャンネット設立(現e-Janネットワークス株式会社)。2002年にリリースした「CACHATTO」(1450社72万ユーザー/2021年4月時点)で、リモートアクセス市場をけん引している



市場がないところで戦うために必要なこと


――日本でも、新型コロナウイルスの影響でテレワークが進みました。


5~10年というスパンで早まったと思いますね。もともとテレワークは、東京オリンピックを何とかやり過ごすためのものだったんです。そのため、東京都は3年ぐらい前からテレワークを推進していました。お手本にしたのはロンドンオリンピックです。


オリンピック前後で、イギリスでの働き方はテレワークにシフトしたので、東京もそれにあやかろうとしたわけです。結局、推進する理由はコロナに変わり、早く始まって長く続くことになってしまいましたが……。


――3年前の時点で、テレワークのニーズはあったんですか?


ニーズもなければ、市場もなかったですね。でも、自分がワクワクしたんですよね。私は東レで働いていたときから社外とのやりとりが多くて、週に2~3日は出張という人生を送ってきたんです。出張先は当然パソコンで仕事をしていましたが、それで仕事が成り立つことが身に染みてわかっていました。


会社に行くことのほうが非日常だったかもしれません。会社に毎日行かなければいけないという圧迫感は、決してワクワクするものではない。週に数回ならワクワクできる。その感覚が大事であり、正しいという意識で動いてきました。


ただ、自分の感覚はそうでも、社会状況はまだまだでした。「社会を変えるんだ」と啓蒙活動をしても、そんな簡単に変わるほどハードルは低くない。ですから、ニーズが生まれたときに使える製品を用意しておくというスタンスをとりました。


実際、昨年ビジネスが伸びた(昨対180パーセントの事業成長を達成)のは、新規のお客様を獲得しただけではなくて、既存のお客様が使い方を変えてくれたことが大きいんです。


――使い方を変えたとは?


カチャットはもともとスマートフォンで使う用途がメインだったんです。ただ、パソコンで使えるオプションも用意していて、その部分が伸びた。また、セキュリティーに敏感な企業に採用していただいていたので、パソコンで使うときもセキュリティーの強度を下げる必要がない、ということも大きかったですね。


私たちが「テレワークだ!」と啓蒙しなくても、ユーザー側がカチャットでいけることを発見した、ということです。ニーズも市場もないところに勝負に出たというのは、カチャットをリリースした2002年から変わらないんですよ。



――リリース当時は何をウリにしていたんですか?


最初は「携帯電話で会社のメールを読み書きできる」「簡単につながる」という利便性をウリにしていました。それがあるとき、セキュリティーが万全だということに注目が集まった。当社の通信方式は特許を取っている独自方式だったので、外部からアタックしようがないんですね。


管理者のニーズは強固なセキュリティーでしたから、それにならお金を払うと。管理者は利便性にはお金を払ってくれないんです。結局、セキュリティーが高いことがアピールポイントになったわけです。


実はユーザーには2種類あります。エンドユーザー(利用者)と管理者です。私たちが提供するサービスをエンドユーザーが求めるかというと、必ずしもそうではない。エンドユーザーは会社と同じ環境で使いたい。管理者はセキュリティーが心配。それぞれ焦点が違うわけです。


ですから、当社では、エンドユーザーが会社と同じ挙動で使える環境を用意し、管理者が求めるセキュリティーも担保しています。生体認証に対応しているので、簡単だけどセキュリティーの強度があり、さらにデバイスからファイルがもれないといったことですね。リモートアクセスを導入するかどうかの決定権はマネジメント側にありますから、セキュリティー面での強みは今でも有効です。


話を戻すと、2007年ごろになると携帯電話で電子メールを送ることが普及して売り上げが伸びて、2008年には日本で初めてiPhoneが発売。カチャットのインターフェイスをiPhone用に対応させて、真っ先にiPhoneで使えることをアピールしました。


――そこでさらに売り上げが伸びた、と。


実は、当初はまったく相手にされませんでした。なぜなら、iPhoneはゲームをしたり、音楽を聴いたりするものであって、仕事で使うものではないという認識だったからです。その潮目が変わったのは2010年です。iPadが発売された年です。


「これならビジネスで使える」と経営層にヒットした。カチャットはiPadでも動きましたから、そのまま使ってもらえたわけです。私も年を取ってからわかったんですが、小さい文字がイヤなんですよね。iPhoneだと小さかったわけですね。


2015年になるとスマホやタブレットの市場が成熟して、それで仕事できるのが新しいことでもなんでもなくなってしまった。当時はカチャットを「リモートアクセスソリューション」と呼んでいたんですけど、「テレワークプラットフォーム」と変えたんです。同じコンセプトのまま、パソコンでも使えることをアピールした。そういう準備をしておいたことで、2年ぐらい前からユーザー側が必要だと気づき、売り上げが伸びたというわけです。


カチャットはつねにアップデートしていて、多いときは1年間に40回にものぼります。顧客のニーズに合わせたり、ユーザビリティー向上のためだったり。柔軟に変化し続けるからこそ、多くのお客様にご利用いただいているのだと思います。


――数人規模から100人規模への成長と、20年ですごい躍進ですね。


会社のサイズは市場が決めると思っていて、市場が必要だと判断すれば、会社は伸びていくと思います。だから、市場が必要としているものをタイムリーに提供できるかどうか。市場が変化する中で、柔軟に対応していくことが必要でしょうね。


とはいえ、私の事前予測はあてにならない。ずっと新しい分野を切り開いてきたし、事前に予測して失敗というか、見誤りが多かったですからね。儲かるぞ!と思って伸びなかったことはたくさんあります(笑)。



日本でテレワークは普及するのか!?


――テレワーク継続率が24パーセントというデータもありますが、まだまだ低いですよね。


そうですね。業種にもよるし、経営者の考え方にもよりますが、多くの経営者は保守的な考えをしています。マネジメントがむずかしいとか、社員教育ができないといったことを問題視しているんです。また、テレワークを推進している自治体や政府機関でも、出社している人が多いという事実があります。


ただ、24パーセントという数字は、ビジネスはまだ大きくなる可能性がある、ということです。保守性による揺り戻しがどこまであるかは予想がむずかしいですけどね。


――テレワークに消極的な理由として、生産性の低下が挙げられています。


生産性の定義によりますよね。生産性は「一社員あたりどれくらい利益を出しているか」に集約できます。利益は売上高から原価を引いた粗利です。つまり、自分たちがつくった付加価値です。


その粗利を人数で割ったものを生産性として捉えていて、当社はテレワークを導入して生産性は上がりました。ただ、全体で見れば生産性が上がった会社のほうが少ないのだと思います。


――本当に働いているかどうかをチェックしたい、という管理者も少なくないとか……。


そもそも、オフィスに来て、仕事をしているフリをしている人もいますよね。つまり、仕事しない人はどこにいてもしていないことが多い。テレワークを導入してみて、発見したことがあるんですよ。それは仕事をしないと退屈だということです。


人は仕事で自己実現したいという欲を持っているので、たとえ最初はサボッても、そのうち飽きて生産を始めるんです。それをこの1年で実感しました。わざわざ管理者側が「社員が本当に働いているか」チェックするような緊張感を持たせる必要はないんですよ。


――その一方で、設備面が不十分という働く側の意見についてはどうでしょうか。


会社側が予算をかけられないという事情も、もちろんあると思います。現状の8~9割はテレワークといっても自分のパソコンでできる作業をしたり、会社支給のパソコンを使っていて、当社のようなリモートアクセスで操作するのは1~2割でしょう。


しかし、今後はリモートアクセスが増えると確信しています。その理由は簡単で、パソコンを会社と同じような設定にしようと思ったら1台あたり高いと40~50万かかってしまいます。一方、リモートアクセスなら、1~2万円のミニPCで十分です。


私もそのスペックのPCで仕事をしていますが、会社のリソースを遠隔で使っているのでまったく問題なく仕事できます。そのほうが会社も管理しやすいと思うんですね。資金に余裕のない中小企業でも、リモートアクセスならテレワークを可能にしてくれる。


坂本さんの使用するミニPC


ただ、テレワークが今後も進むかどうかは、設備面の充実よりも働き方に対する意識のほうが大事です。というのも、日本ではすべてを会社が与えてくれるという考え方が強いように思うんです。もちろん仕事に関する環境を提供するのは当然です。オフィスでの勤務が減る分、テレワークの環境整備に費用は使うべきでしょう。


でもそれは、環境が悪いから仕事ができないという言い訳にもなりえてしまう。「私、パソコンが使えませんから」と言われてしまったら何もできない。いわゆる「お上と庶民」みたいな意識は根強いですよね。学校に行けば、先生がめんどうを見てくれるというメンタリティーが残ってしまっている。


――会社から離れて、一人で完全に責任を負うのはちょっと気が重いという気持ちはよくわかります……。


その点はたしかにテレワークのデメリットになっていて、特に、学ぶことが多い若手社員は周囲から見てもらえないと不安に感じてしまうでしょう。若手が上司から学ぶことはこれからも大事です。


プログラミングの世界では、ペアプログラミングという教育方法があります。同時に同じスクリーンを見ながら、一緒にプログラミングする。これはオフィスに一緒にいようがいまいが、勉強になるのですが、プログラミングの世界以外でもペアになって1日何時間かは働くことが必要でしょう。


――完全にテレワークに移行することがベストではないんですね。


私はテレワークとオフィスへの出社、この中間点に最適解があると思っています。テレワークのほうが体はラクだし、柔軟な働き方も可能です。ライフワークバランスという意味ではテレワークのほうがいいでしょう。


それでも、雑談をしたり、仲間意識が芽生えたり、ブレストをしたり、ちょっとしたコミュニケーションが醸成されるのはフェイス・トゥ・フェイスです。毎日集まる必要はありませんが、週に一度や二度集まるぐらいであれば、連帯感を残したままテレワークできるはずです。

 

https://www.cachatto.jp/

 

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