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  • 執筆者の写真Byakuya Biz Books

誰もやりたがらないEC物流で成功できたワケ


埼玉草加FC


私たちの生活に欠かすことのできない社会インフラである物流。コロナ禍でネット通販が当たり前になり、市場規模が拡大することで、その重要性はますます高まっている。そんなEC通販の拡大を20年前に予測し、いち早くEC物流に特化することで成功した物流会社が、イー・ロジットである。物流会社はEC通販をやりたがらない!? 参入しても失敗のリスクが高い!? 船井総研→実家の物流会社→現職というキャリアを持つ代表取締役社長CEOの角井亮一さんに話を聞いた。



物流はただ保管・配送するだけじゃない!?


――まず、物流とは何を指すのでしょうか。


物流は配送から商品が届くまでの流れを言い、①輸配送、②保管、③荷役、④包装、⑤流通加工、⑥情報システムといった6つの機能に細分化することができます。もう少し具体的に言うと、物流業界の用語で取引先であるお客様のことを荷主様と呼びますが、その荷主様が手配した商品が国内海外から入ってくる。それを当社の倉庫で保管する。そしてエンドユーザー(一般消費者)から注文が入った商品を保管場所から取り出し(ピッキング)、商品が破損しないように梱包し(包装)、必要な場合はラベル貼りといった加工(流通加工)の上で出荷。出荷した商品は配送業者さんからエンドユーザーのもとに届く、という流れですね。


――ラベル貼りもするんですか?


洋服に値札を取り付けたり、スーパーで売られている魚も、物流会社が切ってパックしています。そのほか、海外製品だと日本語が付いていないので、日本語シールを貼ったり、それが化粧品なら日本の法律にのっとったラベルを貼ります。家電製品ならちゃんと動くかチェックしますし、場合によっては商品がむき出しで届くこともあるので、小分けにして包装したりもしますね。


――そうしたすべての作業を大きな倉庫でやっているわけですね。


はい。すべてフルフィルメントセンター(配送センター、倉庫のこと)で行っています。


――イー・ロジットはEC物流――インターネット通販事業者の物流代行が事業内容ですが、ECに特化しているのはなぜでしょうか。


当社はEC通販事業者向けの物流代行サービス、運営代行サービス、物流コンサルティングを行っています。

一般的に物流会社はB to Bが多く、当社のようなB to Cはあまりありません。EC通販、B to Cでは多品種少量に対応しなければならず、大変だからです。当社はEC通販物流に特化しているため、小規模から大規模までさまざまな企業に対応できるんです。


創業したのは2000年で、ネット通販の物流代行を始めたのは当社だけでした。その数年後に数社が参入しましたけど、すぐに撤退してしまった。「これはできない(受注できない)」と。2000年あたりは需要があまりなかったんです。当時のネット通販は月商100万円ですごいと言われていた時代です。大手になればなるほど、やはりB to Bのほうが割がよかったのでしょう。


――EC通販が当たり前になった現在の状況を見ると、ECに特化した方針は見事に当たったわけですね。


そうですね。ITバブルの崩壊で苦しい時期もありましたが、2005年以降は売上を伸ばすことができました。国内のB to C-EC市場における物販系の市場規模は年々拡大していて、2021年は13.3兆円です。2020年はコロナ禍に伴う巣ごもり消費の影響で大幅に拡大し、最近は外出機会が回復しているものの、ECの利用が徐々に定着していますね。


――20年前に比べると、消費者の行動は劇的に変わりましたね。


2000年ごろはパソコンを使うインターネットが主流で、もちろんADSLすらない時代です(※)。つまり時間を気にしながら使っているような状況でした。それが進化を重ねて、今ではネットにつながっていないと何事も不便になりました。何をするにしても、どこに行くにしてもネットにつながっていますよね。


※当時の通信環境は、電話回線によるダイヤルアップ接続が主流。通信速度が不十分だったり、従量課金型だったりしたことから、文字情報でのやりとりが一般的だった。その後、1999年より商用での提供がスタートしたADSLが定額料金・常時接続という形で、これがインターネットの普及につながった。ちなみに、それ以降(~2010年ごろ)が低額常時接続の普及期、2011年以降がスマートフォンへの移行期とされる(総務省、「インターネットの登場・普及とコミュニケーションの変化」より)。


こうした消費者の行動変化に伴って、通販側もどんどん進化しています。今ではQコマース(クイックコマース/アメリカではフラッシュコマースと呼ばれる)が出てきました。私の年代はQコマースに払うコスト(送料)には抵抗がありますが、20~30代の方々にとってはあまり抵抗がありません。実際、Yahoo!マートは22店舗、パンダマート事業を引き継いだAMo(アモ)も9店舗展開していますし(2022年12月時点)、どんどん増えています。


――QコマースはAmazonの「その日にお届け」も含まれますか?


含まれないですね。 Qコマースはもっと早くて、1日以内はクイックではないんです。たとえば料理を作っていて、こしょうが足りない。そういうときに頼むようなイメージです。その場で欲しいのに1日待っていられないですよね。


角井亮一(かくい・りょういち)さん。1968年10月25日大阪生まれ、奈良育ち。上智大学経済学部経済学科で、ダイレクトマーケティング学会の田中利見先生のゼミに所属し、3年で単位取得終了し、渡米。ゴールデンゲート大学マーケティング専攻でMBA取得。帰国後、船井総合研究所に入社し、小売業へのコンサルティングを行い、1996年にはネット通販参入セミナーを開催した。その後、光輝物流に入社、物流コンサルティングや物流アウトソーシングに携わる。2000年2月14日、株式会社イー・ロジット設立、代表取締役社長に就任。



イー・ロジットがEC物流で成功できた2つの理由


――EC物流で成功した理由を挙げるとしたら何でしょうか。


当社では波動対応とマスカスタマイゼーションに力を入れています。通常、物流はいかにコストを削減できるかがポイントとなりますが、当社はEC通販企業の売上を伸ばし、商品を購入したお客様がリピートしたくなるサービスを提供しています。なぜそう考えるかというと、当社は荷主様に向かって仕事をするわけですが、エンドユーザーであるお届け先を大事にすることが荷主様の顧客満足の向上へと繋がるからです。


――波動対応というのは?


波動とは出荷量の波のことを指していて、お中元やお歳暮、クリスマスシーズンやセール、キャンペーンなどで一時的に出荷量が増減することを言います。そうしたEC通販事業者の突発的な売り上げ増大に対応する、ということですね。


当社のお客様であるLDH様を例に挙げると、全国でコンサートを開催することになったら、各地にグッズを出荷する必要があります。最低でも前日までには届けなければいけません。もしグッズが届かなかったら、ファンはガッカリしてしまいますよね。ちゃんと届けることができれば、LDHのファンの信用が積みあがっていきます。


――なるほど。直接的な取引先である荷主だけを見るのではなく、荷主のお客さんである一般消費者の満足度を上げることで、結果的に荷主のためにもなるわけですね。


そうですね。当社自身もエンドユーザーに向けて仕事しているわけですから。ここを見ている物流会社さんはそれほど多くないんです。


――そうは言っても、波動対応は簡単ではないと思いますが……。


当社では大型の物流センター(FC、フルフィルメントセンター)をドミナント展開しています。だいたい5000~1万坪を目安に開設しているんですが、ドミナント展開――つまり一定の地域にFCを集中させることで、関東エリアは近隣のFC間の距離を20キロメートル以内にしています。そうすることで、配送コストを削減したりリードタイムを短縮できます。


大阪第2FC


――倉庫が大きくなればなるほど、人手も必要になると思いますが、業種を問わず、人手不足と言われる中でどうやって確保しているんですか?


当社のFCは沿岸の倉庫群ではなく、人員を確保しやすい住宅街に構えています。


――倉庫って沿岸地域に固まってたくさんある印象です。


倉庫乱立地域を避け、人口密集地で拠点運用をすることで、近くに学校がある住宅街は主婦層の方々が集まりやすいですし、アクセスがいいので通勤もしやすいんです。実際、お昼になると食事を取りに自宅に帰る人や、洗濯したり買い物したりする人もいます。人員というのは物流の要です。人員を十分に確保できるからこそ、こまかな作業にも対応ができるんですよ。


実は物流業界でロボティクスを導入しているところは、人が集まらなくてやむなくというケースが少なくありません。


――この方針は人手不足という現状を受けて方針転換などしたんですか?


実家が倉庫業を経営していたのですが、採用で苦労していたんです。バブルのときでも人が来なかった。父は従業員のためにワンルームマンションを建てて安く住めるようにし、車も購入して乗れるようにしたのですが、辞めていったんです。そういう経験があったせいか、人員確保には力を入れていますね。


――先ほど、ロボティクス導入はやむをえず、というお話でした。効率化という点では理にかなっているように思いますが……。


これは当社の2つめの特徴でもあるマスカスタマイゼーションにも通じています。簡単に言うと、お客様の要望に寄り添うことです。EC通販企業のブランドの世界観や価値観を物流で表現することで、EC通販の独自性に協力すること。具体的には、先ほど流通加工のところでお話ししましたが、梱包する資材にこだわったり、手の込んだラッピングを施したり、商品価値を向上する作業をしています。



ロボティクスと人で言えば、やはり人のほうが生産性は高いんです。そもそも、シールを貼るといったこまかい作業はロボティクスではできません。たとえできたとしても遅いし、開発コストもかかってしまいます。間違いなく人のほうがいいわけですよ。お客様の要望にこたえようとすると、やはり人のほうが対応できますよね。


ロボティクスをフル活用しようと思ったらすべての会社に同じオペレーションを適用することになります。各社の独自性を支援することはむずかしい。オプションに対応できないと、EC通販の特徴も出づらくなりますから。


すべて同じオペレーションを適用した場合


各社の独自性を支援できる



「オムニチャネル」化が加速する中、物流業界はどう対応すべきか?


――ポストコロナを見据えたとき、これからの消費者行動はどう変わっていくと思いますか?


買い物のリアルとネットの境があいまいになっていくと思います。コロナ禍でスマホアプリの利用頻度が増加し、現代では場所や時間に縛られずに簡単に情報収集ができ、自由なタイミングで購買行動を起こせるようになったためです。それに応えるには、オムニチャネル戦略が求められますね。


オムニチャネル戦略とは、実店舗やECサイトなどの企業と顧客のタッチポイントや販売経路を統合し、総合的に顧客にアプローチすることです。それぞれのシーンに合わせた顧客体験の利便性、満足度を向上させて、販売機会を損失しないようにしないといけません。


『オムニチャネル戦略』(日経BPマーケティング)国内でオムニチャネルについて本を書いたのは角井さん。2015年、オムニセブンがローンチするタイミングで出版した。


――マルチチャネルとは違うものでしょうか。


マルチチャネルは複数のチャネルを用意することですが、オムニチャネルは複雑にからむことを言うので、デジタルとアナログが融合するわけですね。


――オムニチャネルはどういう背景から生まれたんですか?


オムニチャネルの元祖はアメリカの大手百貨店「Macy’s(メイシーズ)」とされています。やはりアマゾンがどんどん拡大していく中で、リアル小売は太刀打ちできないと。どうやってその状況を打開するか考えたとき、小売が持っているアセットの店舗を活用しようと。だから店舗から発送したり、店舗に取りに来てもらったり、そういうやり方を採ったのだと思います。


――物流業界として、どういうふうに対応していくべきでしょうか。


物流倉庫だけではなくて、店舗の在庫も含めて管理しないといけませんよね。店舗から発送するのか、倉庫から発送するのか、店舗で受け取りするために商品を送るのか。それを判断しないといけません。もちろん複雑なオペレーションが必要になりますし、メーカーや店舗と交渉しながらになると思いますが、積極的に関与していきたいと思っています。

 
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