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書店員のすごいスキル「棚づくり」は選書からはじまる

■話し手:BREWBOOKS 中西日波さん

#独立系書店 #これからの本屋 #書店員



書店員の大きな仕事の一つに棚づくりがある。それは本の売れ行きを左右し、本屋の個性をも演出する。しかし、お店に届く本をただ並べるだけでは「棚をつくる」ことは決してできない。今回お話を聞いた中西日波さんは、大型書店、本屋B&B、BREWBOOKS(前回の記事を参照)の3店舗で働く現役の書店員だ。それぞれ特徴が異なる本屋でどのように棚をつくっているのか。「その本屋にあったいい本棚をつくることが楽しい」と話す中西さんにその秘訣を聞いた。



本がある空間をつくりたいという気持ちから書店員へ


――BREWBOOKSのほか、本業として別の書店で働いているんですね。

週5日、大型書店で働いています。そのほか週一で本屋B&Bでも働いています。

――本屋で働こうと思ったきっかけを教えてください。

大学時代にどんな仕事に就こうか考えたとき、何かおもしろい仕事をしたいと思っていました。私は本を読むことと同じくらい映画を観たり、音楽を聴いたりすることも好きなんですけど、在学中にアルバイトやボランティアなど仕事として好きなことに関わってみた結果、その中でも本って仕事として楽しそうだなと考えるようになりました。

――作家や編集など、つくり手になるという選択肢はなかったんですか?

あくまで本がある空間をつくる作業が好きなので、興味がありませんでした。



――本がある空間、ですか?

はい。大学の卒論で研究したことも関心が深まるきっかけになりました。本がある空間に興味を持ったんです。5年ぐらい前かな。当時は新しい形で本を扱う空間が出てきたときで、自分の街にもあるんじゃないかと思って。

自宅の最寄駅から半径300メートルにある場所に行って、本があるか調べて回りました。美容院やカフェなど、片っ端から突撃して(笑)。

――本はどんな場所にあったんですか?

300軒ほど回ったうち、本があったのは半分ぐらい。待ち時間があるようなお店に多かったですね。本の種類はお店によってさまざまで、老舗のお蕎麦屋さんには絵本が置いてありました。そこは家族経営で、子どもが大きくなるにつれて読まなくなったから何気なく置いていて。お店のお客さんとはそぐわないんですけど。

ある美容室はお客さんとのコミュニケーションツールとして活用していました。大きな本棚にたくさん本が並んでいるんですけど、ヘアカタログはまったくないんです。お客さんに本を1冊選んでもらって、そこからお客さんがどんな人か想像したり、話すきっかけにしたりして、髪型を決めていました。

――研究はいまも続けているんですか?

1年ほど前まで続けていました。大学卒業後は「本があるトコ研究室」という有志のグループをつくり、本があるところを調べに行って、本のある空間にあだ名をつけるという活動をしていました。

BREWBOOKSの尾崎さんと知り合ったのもこの活動がきっかけでした。研究室のメンバーの一人から「最近、新しく本屋ができたよ」と誘われて行ってみたら、尾崎さんに「ここで働かないか?」と言われました。

現在は研究に時間と労力がかかるのでお休みしていますけど、本がある空間を見ているのがおもしろいなっていう気持ちが、本屋で働くことにつながっていると思います。


中西日波さん。勤務する大型書店では開店準備や荷ほどき、売上チェック、接客、発注……と目の回るような業務を週5日でこなす。さらにBREWBOOKSでは大型書店での勤務を生かし、本の発注やイベント企画、選書、棚づくりなどより幅広く店舗運営に関わる


――自分の本屋を立ち上げて、思い通りの空間をつくりたいという気持ちはありますか?

以前は自分の本屋を持ちたいと思っていました。そのために個人で屋号を持ってイベントに出店したり、間借り本屋(シェア本屋)で本を売ったりもしていました。

ところが、自分の思い通りの本を好きに置く――つまり自分だけで選んだ本棚を見ても、あまりおもしろい本棚だと思えないことに気づいて、辞めました。大型書店にも、独立系の本屋にもそれぞれに合った本棚というのがあって、それぞれによさがあります。

いまはそれをつくるのがとても楽しいです。いろいろな場所の人と相談して棚をつくりたい。だから、いまのように複数のお店で働けることが楽しいですね。



本屋によって変わる、棚のつくり方


――本屋によって、棚づくりの方法は変わりますか?

変わりますね。大型書店なら著者名順、または出版社ごとに並べることがほとんどです。大型書店が期待されているのはラインナップであり、目的買いに来る方が多いので、探しやすさは非常に重要です。

もちろんその中で工夫していることもあって、私が担当している建築棚では、海外建築家は著者名順ではなく年代順で並べています。同じ年代の人たちは同系統の派閥に属していることも少なくないので、目的の本の隣の本にも興味を持ってくれるかもしれない、そんなことももくろんでいます。

そのほか、大型書店だからできる棚づくりもあります。その一つがフェアで、先日は都市論に強い方30人に選書していただいて棚をつくりました。「ここに来たらおもしろいこともやっている」のも大切にしていますね。



――大型書店でも棚づくりに関してはある程度、裁量が与えられている?

私の勤め先では各ジャンルの担当に自治権があります。大きい面積の本屋だと、一人の責任者では売り場のすべてを見ることはできないので、棚の担当に任されているんです。ラインナップがウリなので入ってくる本を拒むことはありませんが、並べたい本を仕入れたりもしますね。

――その際、自分が推したい本を入れることは?

自分が好きな本を誰かに好きになってほしいという気持ちがあまりないんです。あくまでも、この本屋に来るお客さんに意義のある本を打ち出したい。大型書店なら、売れている本はすぐに見つかるところに置いておきますし、お客さんが望むことや利便性を考えて棚をつくっています。

逆に、BREWBOOKSのような独立系の本屋は、店主の好きがお店の特色をつくると思います。最近はお店として何を売りたいかわかるように、月の推し本を決めています。先月(8月)は『五月金曜日』というエッセイを推して、イベントをからめて売りました。集客はコロナの影響で誰でも呼べるわけではなかったので、興味を持ってもらえそうな常連さんに声をかけて。


『五月金曜日』(盛田志保子/晶文社)


――お店として何を推すか、お客さんを意識することもありますか?

本を選ぶときは常連さんの顔を浮かべますね。常連さんが10人いたら、みんなの好みがわかります。このお店ができることの一つだと思います。『五月金曜日』は常連さんのおすすめで知った本ですし。

どこでも売っている本を平積みしてもたくさん売ることはできません。『五月金曜日』は新しい本ではないんですけど、だからこそほかの本屋とは違う本を打ち出すことができたという点で、お店にとっていいことだったと思います。

――『五月金曜日』はお店に入ってすぐ、中央の棚にも差さっていますね。

中央にあるのが新刊台ですね。ここは出版年数が新しいというよりは、お店に最近入れた本を置いています。そして、その本に合いそうなものも隣に置いて。台の手前は平置きしても表紙が見える。逆に奥は高さを出して本を立てたほうが目に入りやすい。



――新刊台も含め、店内ではけっこう高低差をつけて陳列していますよね。

お客さんの目線がとても大事なので、高さにはいつも気を配っていますね。ちょっと違うだけで目に入ったり入らなかったりしますから。

――本の並べ方には平積みや面陳、棚差し(※)などさまざまありますが、どう使い分けているんですか?

本はデザイン、色、ちょっとしたサイズの違いで与える印象が変わるので、表紙のデザインがよかったり、インパクトがある場合は積極的に面陳します。

逆に棚差しのほうが売れる本もあって。たとえば、すごく薄い本の背にこまかい文字でタイトルが印刷されていると、面陳よりも棚差しのほうが「何だこれ?」と目を引くことができすし、逆に背に何も文字が書かれていない本も、背に文字がある本が並んでいる中にあったら、ちょっと引き出してもらえるかな、とか。

シリーズものは最新刊だけを面陳するよりも、平置きでズラッと並べたほうが目につきやすくなりますね。

※面陳……棚に立て、背ではなく表紙を見せて陳列すること/棚差し……背を見せるようにして棚に並べること



――大型書店とは明確に異なる棚づくりですよね。

本屋B&Bの棚の影響もあります。ずっと「ここがすごくいい本屋だと思うのはなぜだろう?」と考えていたんですけど、本棚が生き生きしているなって思うんです。本屋B&Bでは本の並べ方が決まっていて、ある著者の隣には弟子の本を置くとか、関連性のある本を並べます。

大型書店ではできないけど、本屋B&Bなら内容で並べられる。小さい本の隣に大きい本が並んでいたりして、そういう見た目もおもしろい。こうした独自の棚づくりを可能にするのは、やはり選書がしっかりしているからです。

その点、BREWBOOKSは選書がまだ定まっていません。自分たちで選んで仕入れていますけど、「なんとなく集まってきた」感があるので、きちんと選書して棚をつくっていきたい。




本屋の特徴を決める棚づくりは、選書で決まる


――BREWBOOKSでは選書も担当されているんですか?

いまは3割ほど担当しています。

――ここで働きはじめたとき、棚づくりで気になったことはありますか。

お店に本が少なかったのに、全部2~3冊ずつ仕入れていたことですね。同じ本を複数仕入れるなら、そのお金で種類を増やしたほうがいいと思いました。ただ何でもいいわけではないので、尾崎さんがどんな本を売っていきたいのか話して、いまは在庫を整理しつつ、棚づくりをしている真っ最中ですね。

たとえば、開店当初に多かった食関連の本はじりじり売って、補充せずに棚を縮小しています。逆に強くしたいと思っているのは海外文学や日本文学です。そのほか詩歌、短歌、俳句はイベントも開催しているので、厚くしたいと思っています。



――気に入っている棚はありますか?

アメリカ文学の棚ですね。全体で20冊近くあるので、何となく海外文学の中でも、アメリカ文学の本が並んでいることもアピールできて、さらに新旧の名作が並んでいて。逆に言うと、ほかの棚ではまだ並びをつくれないということでもあって。やっぱりある程度のボリュームがないと並びはつくれないですよね。

大型書店なら売れた本は自動補充がかかりますが、BREWBOOKSでは追加注文せず、新しい本を入れることが多い。ある本が5冊売れたからといって、追加で5冊注文するわけじゃありません。だから、しっかり選書して棚を保つ必要があります。

BREWBOOKSは尾崎さんがお店を営業しながら、少しずつお店の方向性が見えてきた感じなので、ここから本当に自分たちが売りたい本、お店に合う本を選んでいきたいなと思います。



――独立系の本屋はお店の統一感が大事なんですね。

そうですね。本屋に入ったときに受ける印象、棚を前にしたときにおもしろいと思っていただけるようになりたい。間借り本屋で自分の屋号で本を売っていたとお話ししましたけど、間借り本屋は意識して並べたら出会えないような、意外性がおもしろいと思うんです。ただ、自分が働く立場に立つと、その売り方はしたくない。

BREWBOOKSにも間借り本屋のスペースがありますけど、尾崎さんがもう少しスペースを大きくしたいと言ったときはしっかり話し合いました。このお店が間借り本屋だと思われてしまうのは違うと思ったので。シェア本屋の意外性よりも、本屋としての個性をしっかり打ち出したい。

BREWBOOKSはまだ本屋になり切れていないと思っていて。それはうちの本棚を目的に来てくれる人が少ないから。たとえば「海外文学が気になってきたから、BREWBOOKSに行こう」と思ってくれる人や、うちは独立系出版社の雑誌も扱っているので、そういうのが好きな人が期待して買いにきてくれる人が増えてほしい。そのためにも、もっともっと本を売る力のある本屋になりたいですね。


BREWBOOKS

〒167-0053 東京都杉並区西荻南3−4−5

平日・土 12:00-19:00

日祝   12:00–19:00

(定休日)

毎週月曜、第2火曜、第4火曜

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