• 鶴岡眞屋子

【校正・校閲の世界】間違い探しをする仕事?

更新日:8月31日



誤植――それは印刷物の文字が間違っていることを言う。あなたの身近にある書籍や雑誌、パンフレットのほか、近所のスーパーのポップにも見られるかもしれない。そう、いくら編集者(担当者)が目を凝らしてチェックをしても、まれに(?)まぎれこんでしまうものなのだ。そして、そんな本来はあってはならない間違いを発見し、正すのが校正・校閲という専門の仕事である。この連載では、鷗来堂(おうらいどう)の鶴岡眞屋子さんに執筆を依頼。全3回に渡り、文章と誤植について書いていただいた。第1回は校正・校閲という仕事について。その専門的な仕事をちょっとのぞいてみよう。



過去にはドラマ化もされたけど……


「校正・校閲」という仕事について、どのようなイメージをお持ちでしょうか。


 2016年にはドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』が放送され、おおこんな裏方仕事にもついに脚光がなどとはしゃいだこともありましたが、すでに5年も前のこと。「校正・校閲」という仕事があることをご存じですか、とたずねたほうがよいのかもしれません。


 おおまかにいえば、世に出る前の文章を読んで、誤りがないか確認する仕事ということになります。主には書籍を扱いますが、広告チラシだったり、ネットニュースだったり、ソーシャルゲームのシナリオだったり、文字があるところならどこにでも現れる仕事です。漫画や絵本など、文字のほとんどないところにもときどき現れます。



校べて正し、校べて閲する


「校正」と「校閲」はどう違うのでしょう。ネットなどを見るといくつかの解釈があるようですが、私は次のように認識しています。


「校正」は、「校(くら)べて正(ただ)す」と書きます。原稿と、できあがる本(「ゲラ」と呼ばれる校正刷りで作業します)を見比べて、指示通りに組み上がっているかを確認する作業です。


「校閲」は、「校(くら)べて閲(けみ)する」と書きます。文章に誤字・脱字・衍字(えんじ:余計な文字が入っていること)がないか、不適切な表現や事実関係の誤りがないかなど、意味内容にも踏み込んで検討し、修正を提案します。


 校正者の仕事のメインであり、おそらく想像される仕事像とも近いのは「校閲」ということになりますね。ただし厳密に使い分けようとするとややこしいので、以下、この小連載のなかでは「校正者」「校閲」を基本表記として進めたいと思います。


 ドラマの影響もあって、「この言葉づかいは間違っています!(赤ペンズバァーッ!)」といったイメージがあるかもしれませんが、実際にはそんなに偉くありません。文章をどうするかを決定するのは著者さんや編集者さんで、校正者はあくまで「このままで大丈夫ですか?」「こうしますか?」と疑問を出したり、提案したりするのが仕事です。


 確定した修正指示を表す「赤」を校正者が使う(「入朱する」)のは、ゲラが指示通りに組まれていないなど、ごく限られた場面だけなのです。普段は、不採用ならば消してしまえるという意味で、鉛筆(シャーペン)で書き込みをします。このことから、ゲラに疑問を書き入れることを「エンピツ出し」と言ったりします。



校正者の働き方


 校正者とひとくちに言っても、校正校閲会社/プロダクションに所属して仕事をもらったり、特定の出版社内部の校閲部署に勤務したり、フリーランスとして活動したりと、その働き方は多岐にわたります。私は大学を出てすぐ「鷗来堂(おうらいどう)」という校正校閲会社に入社したため、フリーランスなど他のスタイルについてはくわしくありません。前述の入朱とエンピツの使い分けも含め、実際の作業方式は環境に応じていろいろあるはずですので、あくまで一例としてお読みいただければ幸いです。


 鷗来堂の場合は会社ということで、営業や進行管理と校閲実務で部署が分かれています。校正者は対外交渉や長期的なスケジュール管理を気にすることなく、目の前のゲラにだけ集中できるのが利点です。営業担当が取ってきた仕事を、進行担当が整理して「明日中に仕上げてください」という感じで渡してくれるので、粛々と案件をこなしていきます。納品前にゲラを検品してくれる専門のチームもいます。


 11時に出社してから20時の定時まで、出社と退社のあいさつ以外、ひとことも口を開かない日も少なくありません。私は文字に接することは得意でも直接話すことは苦手なので、こういった働き方ができるのはとてもありがたいです。


 ちなみに、残業はなるべくしないように心がけています。校閲の質は集中力にものすごく左右されるため、体力の限界を超えて粘っても、目が滑るだけでいいことがないからです。そして、たかが文章を読むだけと思われるかもしれませんが、これが案外体力を使います。私は特に体力がないほうですが(笑)、1日8時間集中して文章を読んだあとは、帰りの電車の吊り広告の文字をしょっちゅう見間違えます。



素読みに事実確認、赤字照合……作業いろいろ


 校閲の具体的な作業のうち、一番の基本となる、文章を追って誤植や文の乱れを探すことは「素読み(すよみ)」といいます。どんな間違いがあるかは……もう本当に百花繚乱のごとくなので、説明しろといわれても難しいのですが。あらゆる種類の間違いに対処できるよう努力しています。


 また、素読みと同じかそれ以上に重要なのが「事実確認」です。「FC(ファクトチェック)」ともいいます。文字通り、文章の中に出てくる固有名詞や数値、歴史的事実など、客観的に調べられることが正しく書かれているかを確かめます。


 必要があれば図書館などで文献に当たることもありますが、今はインターネットだけでもそれなりに情報が集められます。このとき、どのサイトを資料とするかは気をつかうところです。このあたりは第3回でくわしく触れます。


「赤字照合」では、著者や編集者の修正指示が、ゲラに正しく反映されているか確認します。引用が出てくる場合など、資料とゲラが同じ文言になっているかを確かめる「突き合わせ」もそうですが、「一字一句同じか正確に見比べる」ことは校正者の基礎技能となります。


 他には、基準どおりに「ルビ(ふりがな)」がついているか確認し、整えていくという作業もあります。漢字には「学習漢字(小学校のうちに習う漢字)」や「常用漢字(高校までに習う漢字+α)」という分類があり、「○ページごとに、小学校○年までで習っていない漢字にルビを振る」「常用外(常用漢字以外)、全体の初出箇所にルビを振る」のように指定されることが多いです。常用漢字は現在2136字ありますが、校閲をやっていれば嫌でも覚えることになります。


 今はソフトを使って自動で大量のルビを振ることも簡単になりましたが、日本語は同じ漢字でも文脈によって読み分けたりするので、手作業の整理は必須といえます。中高生向けのライトノベル(学習外で6ページおきなど)や、小学生向けの児童書(総ルビ=すべての漢字にルビ!)はこの作業が膨大なので、ある意味では大人向けの小説より大変だったりします。



つらつらと綴る?

 まずは、「校正・校閲」というものについてざっくりお話ししました。


 こういうとき、「つらつらと」という言葉を使いたくなりますが、「つくづく、よくよく」という意味なので、よく使われる「だらだらと」といったニュアンスは実は誤りです。漢字だと「熟」と書きます。「おもむろ(徐)」もそうですが、漢字にすると誤用がわかりやすい言葉は多いですね。


 次回からは2回に分けて、文章をよりよくするためにどのような視点で読んでいるか、「素読み」や「事実確認」について掘り下げていきますので、そちらもお読みいただければ幸いです。

鶴岡眞屋子(つるおか・まやこ) 1992年2月生まれ、東京出身。株式会社鷗来堂 校閲部校閲室所属(2014年入社)。「文章」にこだわりを持つ自閉症スペクトラム。小説作品、教科書などの校正・校閲のほか、VBAマクロなど、社内向け小規模システムの開発も担当。

http://www.ouraidou.net/

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