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  • 執筆者の写真Byakuya Biz Books

ゲーム実況の新しい形「ゲームさんぽ」大解剖

更新日:2022年5月2日



ゲーム実況という超がつくレッドオーシャンにおいて、ユニークな個性で視聴者を集めるチャンネルがある。それが「〇〇といく ゲームさんぽ」(以下、ゲームさんぽ)だ。その特長は、家庭科の先生から一級建築士、はては3歳児まで、さまざまなゲストを招き、ただただゲーム内で雑談をしていくというスタイルである。主にゲームのプレイを見せることを目的とする一般的なゲーム実況と趣が異なるこのアイデアはどうやって生まれたのか。そして、ゲームさんぽは視聴者に何を伝えるのか。配信者のなむさんに話を聞いた。



ゲームさんぽは「3歳児の視点」から生まれた


ゲームさんぽは2016年にYoutubeにチャンネルを開設して、2017年10月8日に動画をアップしました。知人のDJ薄着さんと二人三脚でやってきましたが、長いことチャンネル登録者数が数十人だったんですよ。

2019年5月にライブドアニュースさんと共同企画した動画が話題になり、現在(5月1日時点)は5万人以上に登録していただいています。その後、自分の仕事の都合もあって、ほどんど動画投稿できてないので大変心苦しいです(笑)。

ゲームさんぽをひと言で説明すると、「ある視点を共有するゲーム実況」。いろいろな人とゲームの中でさんぽすることで、「人によって世界のとらえ方が違うこと」を学ぼうというものです。

たとえば、家庭科の先生をゲストに招いた『龍が如く6』の回では、コンビニに入ってずっと話をしていて、そこで、「すぐにケンカするならパン、1時間以上あとだったらパスタを食べる」って解説するんです。まさに家庭科の先生ならではの痺れるパンチラインですよね。

当たりまえのことですけど、同じものを見ているつもりでも人それぞれ感じ方は違います。他者の価値観に触れることで自身の偏見が浮かび上がり、ひいては自分自身を知ることにつながる。それをゲーム実況を通して共有しようという試みですね。


なまぐさ坊主・なむさん。本業は美術館の職員だが、9歳のときに出家しているお坊さん見習い。実家のお寺を継ぐかどうかずっと迷っている。仏教用語の「一人一世界」を理解するためにゲームさんぽで修行中とのこと

だから、ゲストは必ずしも専門家である必要はなくて、家族や友達など身近な人とプレイしてもいい。その点で、最初に投稿した「3歳児といくFPS」はそのコンセプトがよくわかる動画かもしれません。

当時3歳だった息子は、僕がゲームをしている姿をよく見ていたんです。おしゃべりなので、横からゴチャゴチャ言うわけですよ。やれ「マップに配置されている滑り台で遊びたい」とか。それが、自分の注目している点とはまったく違っていて。

なかでも、「人はゆっくりゆっくり歩くんだ」というパンチラインが僕のお気に入りです。3歳児がそれを言うんですよ。己の人生を反芻してしまって、もう泣きますよね(笑)。

「誰かと見る」というスタイルは、何もめずらしいものではありません。ゲーム実況という分野では目新しかったのかもしれませんが、テレビ朝日の『タモリ倶楽部』やTBSテレビの『マツコの知らない世界』など、テレビ番組だけでも無数にあります。

実は僕が働いている美術業界でも、とても一般的な手法です。「対話型鑑賞」といって、美術の専門的な知識がなくても作品を楽しめるように考えだされたものなんです。

学芸員などの進行役が一方的に絵画の歴史背景や作家の意図、技法などの「知識」を与えるのではなく、鑑賞者自身が感じたこと、発見したことを中心に対話を進めていく鑑賞法で、もともとはMOMA(ニューヨーク近代美術館)の取り組みが発祥です。日本の美術館や教育機関でも広く実践されています。

ここでは進行役は鑑賞者の自由な発想を促し、鑑賞者同士の異なる感想を共有する重要な役割があります。もちろん知識を前提とした楽しみ方もありますし、それを否定するつもりはありません。ただ、答えや正解を追い求めていくと参加の入り口がとても狭くなってしまいます。

ゲームさんぽはこの対話型鑑賞をゲームでやっているだけです。案内人である僕が、ゲストの視点からいろいろな話を聞き、視聴者に届ける。僕にとってはすごく自然なスタイルなわけです。そして媒体としてゲーム実況を選んだ理由は、単純にゲームにもYoutubeにも多くの時間を費やしてきたから、なんとか取り返したいという貧乏根性からです。

ゲームは物心つくころから遊んでいて、ハードの発達やオンラインゲームの浸透など、ゲームに育てられたようなものです。いわゆるゲーム廃人のような時期もありました。

Youtubeやゲーム実況は、自分が視聴者として楽しんでいたことに加えて、ユーザーベースがはてしなく大きくなるという認識はありました。多様な人が集まる場所には多様な価値観があるはずなので、プラットフォームとして大きな可能性を感じていました。


各ゲストから発せられたパンチラインの数々。ゲームさんぽの魅力がつまった紹介動画



ゲームさんぽのつくり方


どのゲームをピックアップするかは、ゲームありきのこともあれば、ゲストありきで決めることもあります。「〇〇の専門家と〇〇のゲーム」といったフラッシュアイデアはいくらでも思いつきますが、それを実際にやって、ある程度のクオリティーを持たせようとするとリサーチやロケハンに結構な労力がかかりますね。

テーマに選んだゲームは、基本的には最後までプレイするようにしています。そのゲームに対する理解度が上がると、やっぱり動画の内容も良くなりますね。もちろん例外的にやり込んでないゲームでも良い内容が収録できることもあります。「LEGO×東大生」の回がそうですね。この場合はラッキーです。

ただ往々にして「あのキャラクターをアンロックするためには、まずあのクエストをこなして……」みたいな感じでやっていくと、結局、最後までプレイしていることが多いです(笑)。

収録自体はだいたい1~2時間で終わるんですけど、事前のやり込みや考察サイトを見てファクトチェックをしたり、自分の中で理解を進めたりという作業はとにかく手間と時間がかかりますね。この辺の大変さは自分が活動を続けていく上で改善すべき課題だと思います。


ゲームさんぽでも随一の人気シリーズ『デス・ストランディング』回。発売後すぐに購入し、3日間やりこんで、ファクトチェックや考察も読み込んだものの、まだ情報があまりない時期だったため、ゲーム内容について知識不足を指摘されたことも。

収録前のロケハンも欠かせません。回るコースを決めたり、敵を倒しておく必要があるなら倒したり、すべてを用意しておきます。ちゃんと設計しないと、ゲストに迷惑がかかってしまうから。行き当たりばったりでは時間内に撮れないですね。すべて段取りを決めてやっています。

ただ、事前に準備しても、うまくいくことばかりじゃありません。はじめたばかりの頃は、ゲストの熱が入りすぎてゲーム画面と関係ない話になってしまうこともよくありました(笑)。あくまでもゲーム内の要素から発展したいと思っているので、ゲームと関係ない部分の比重があまりにも大きくなると、ラジオと変わらなくなってしまいます。

もちろんゲストが悪いのではなくて、こちらが用意するゲームや段取りが悪いということです。そこは知恵を絞らないといけない部分ですね。

そしていざ収録となったら、できるだけゲストの人間性を引き出すようにしています。人間って目の前にものを置かれたら、何かしら考えちゃうんですよね。専門家ならなおさら自分の専門分野で延々と考えてしまう。そこから出てくる言葉には、その人自身の人生が乗っかてるような気がします。そういう生き様が乗ったパンチラインがたまらなく好きなんです。

そのため、収録はオンラインのときもありますけど、基本的には対面のほうがやりやすいですね。オンラインだとコンマ何秒遅れることで、相手のちょっとした反応やリアクションが見えづらいですから。

ゲームさんぽの作業行程をまとめると、企画・リサーチ、ロケハン、ゲストアポ取り、打ち合わせ、収録、映像編集、ゲスト確認、ファクトチェク、動画投稿……ふぅ、大変ですね(笑)。

自分のような仕事のかたわら実況活動をしていく場合、時間を捻出するのが一番の課題です。怠惰な性格も手伝って、チャンネルの更新頻度はおそろしく低いのが現状です。怠惰な性格は変えられないので、苦し紛れに考えついたのがゲームさんぽのオープン化とコミュニティーづくりです。



オープン化✕ゆる~いコミュニティーづくり


現在は、ゲームさんぽの手法をオープン化して、誰でもこのスタイルで実況できる「みんなのゲームさんぽ」コミュニティーをつくることを目指しています。

要はゲームさんぽの看板を誰でも使えるようにして仲間を増やしたいんです。自分だけでやってても続かないし、おもしろい動画も生まれてこないので。ゲームさんぽは誰でも簡単にできますからぜひ挑戦してみてほしいですね。

※ゲームさんぽのはじめかた

コミュニティーのお手本となるのが『マインクラフト』です。『マインクラフト』はユーザー生成と共創が特徴のコンテンツで、ユーザー自身が作成したものをほかのユーザーと共有できたり、ユーザー同士の模倣や改変がくり返されることで進化していく、とても創造的なコミュニティーなんです。

オープン化にあたっては、「デイリーポータルZ」の石川大樹さんが2014年から始めた、「ヘボコン」(ヘボいロボットコンテスト)を参考にしました。ヘボコンは高い技術を競うロボコンとは違い、「ヘボさ」を指標とすることで、創造性や独創性を競うんです。オーガナイザー向けの資料(多言語)がウェブ上で公開されているので、誰でも主催することができます。今では世界各国で独自のヘボコンが開催されています。

2019年にはじまったライブドアニュース版の活動もオープン化の一環です。ゲームさんぽが多くの視聴者を獲得するきっかけとなった『ゼルダの伝説』(気象予報士と観察するゲームの空)をきっかけに、今では新しくライブドア版の「〇〇のプロと行く ゲームさんぽ」もはじまりました。


「ゲームさんぽ」がバズるきっかけとなった『ゼルダの伝説』回。その後、ライブドアニュース版「〇〇のプロと行く ゲームさんぽ」は、ハイペースの更新でさまざまな専門家が登場。

ライブドアニュース版のゲームさんぽは、独立した形で運営されていて、自分はたまにミーティングに参加するくらいですね。ゲームさんぽというネタを最初に発掘してくれた担当編集者の飯田さんや案内役のアルバイト、ヤマグチさんらが中心になって運営されています。

彼らはゲームさんぽのマインドを共有している仲間なので何も心配はありません。企業体の中でクオリティーの高い動画を出し続けることはすごい重圧で僕にはとうていできないことですね(笑)。

そのほかでは、人気Vtuberの「懲役太郎」さんがゲームさんぽをやりたいと言ってくださいました。「どうぞご自由にやってください!」と連絡した数週間後に「【ゲームさんぽ/龍が如く7】元893が刺青について解説しました」を投稿されていたので、その迅速さには驚きましたね。しかも内容が非常におもしろい。元やくざ、前科三犯の稀有な経験が最高に生かされていました。

こうしたオープン化が広がる一方で、もし今後に課題があるとすれば、ハードルが上がりすぎていることです。僕個人としては友達と気軽にプレイしたものをゲームさんぽとしてアップしてもらえればうれしいんですけど、「専門性が高くないといけない」みたいな雰囲気も少なからずつくってしまっています。

自分としては「誰にでも専門性はあるんだよ」ということを強調したいです。美術鑑賞の方法でもお話ししましたけど、正しさだけを追い求めると、近寄りがたい、好きな人しか参加できなくなってしまうような気がして。

「3歳児といくFPS」のように僕が率先してクオリティーの低さを見せていくことが大事なのかもしれません。「究極に眠気に襲われているやつといく〜」とか、「FPSを1ミリも知らないやつといく〜」といった気の抜けた動画をつくるとか。

「なむさんは交友関係が広いですね」とよく言われるんですけど、あなたの身の回りにもいっぱいいるはずです。自分の親のことを全部知っているかと言うと、全然知らないわけじゃないですか。

たとえば、『CoD:BO3』(ものづくりの人と考える未来社会)では友達に出てもらっています。マップ上に謎の3Dプリンターという工学装置があって、それを見せたらどんな反応をするか興味がわいたので、声をかけたんです。

一度やってみよう――そう思ってもらえるぐらいイージーにしていかないと広がらない。「100時間やり込め。話はそれからだ」なんて前提があったら、誰もやらないですよね(笑)。

そうではなくて、自分が好きなゲームがあって、さらに友達におもしろいやつがいて、「こいつとしゃべったらどうだろう?」という軽いノリで撮ったものがおもしろかったりしたらいいなと思います。


『CoD:BO3』(ものづくりの人と考える未来社会)



オリジンである「〇〇といく ゲームさんぽ」のこれから


オープン化を進めながら、自分のチャンネルでも試行錯誤を続けています。最近試したのは、生放送です。『塊魂』をプレイしたんですけど、そのときはゲストは呼ばず、自分のプレイを見せただけ。自分だけじゃなくて、みんなが集まって知恵を出していく場として生放送は優秀です。コメントもおもしろかったし(笑)。

昭和・平成の小学校の教室をモチーフにしたステージで、視聴者は「この三角定規あった!」とか「掃除のロッカーに隠れたな」とか、自分の思い出がどんどん呼び起こされていって。100人いれば100人の視点が集まる。みんな子供だった時代があって、それって専門知識と言えますよね。

普段の動画とは違って、みんながただの視聴者ではいられない。視聴者みんながゲスト側として参加できることで、その中からゲームさんぽを始める人も出てくるんじゃないかと期待しています。

ゲストでは、翻訳家を招いてみたいですね。海外でつくられたゲームのキャラクターでも、日本版はたいてい日本語でセリフを言っているんですけど、英語版にしたら英語で言っているわけで。それをどう翻訳しているのかを聞きたいんです。

いわゆる翻訳の不可能性みたいな話題になると思うんですよ。翻訳は誰もが納得できる翻訳はできなくて。そこから言語の本質に迫れると思うんです。翻訳家の人の思考をたどることによって、「言語ってなんだっけ?」とか、異言語を学ぶ意味とか、言葉そのものに焦点を当ててみたい。

僕はやっぱり人間そのものに興味があるので、そのあたりもどんどん深堀りしていきたいですね。ホームページやSNSでも書いているとおり、ゲームさんぽは、なまぐさ坊主である僕の修行の一環でもありますから(笑)。

 

〇〇といく ゲームさんぽ




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