top of page

【マネジメントの壁】なぜ優秀なプレーヤーほど管理職で失敗するのか。1兆円企業が採用する「部下からイエスを取る」技術

  • 執筆者の写真: 編集部
    編集部
  • 3 日前
  • 読了時間: 5分

更新日:1 日前

マネジメントの失敗

ビジネスの現場では、営業成績トップのエースが管理職になった途端、チームを崩壊させてしまう「悲劇」が後を絶ちません。なぜ、これまでの成功法則が通用しないのか。積水ハウスを始めとする1兆円企業が「社会人の教科書」として採用する人間力メソッドの提唱者、網谷洋一さんは成功の定義の切り替えが必要だと説きます。自ら8社のグループ企業を経営し、全社黒字化を継続させている網谷さんが、現代のリーダーに求められる「部下への視点」を解説します。



昇進した瞬間に「ベクトルを180度反転」させる必要性


営業という職種で考えると、プレーヤーとして活躍している間、個人の視線はつねに「外(顧客)」に向いています。顧客の課題を解決し、対外的な交渉を通じて成果を上げることが求められるからです。

 

しかし、管理職になった瞬間に求められるのは、そのベクトルを「内(部下)」へと反転させることです。自分の手で売るのではなく、自分以外の誰かを通じて成果を上げることがマネジメントの本質だからです。しかし、ここで多くの新任マネージャーは間違いを犯すと網谷さんは言います。

 

「部下を自分の手足のように操作しようとするんです。顧客にはていねいな提案をしていたのに、部下に対しては『いいから言われたとおりにやって』と、力で従わせようとするわけです」

 

しかし、この「支配」によるマネジメントは、現代ではもはや通用しない。それは統計データにも表れています。



「正論」や「報酬」で人が動かなくなった時代背景


なぜ、かつてのように命令やアメだけで人は動かなくなったのでしょうか。その答えは、労働者の意識変化にあります。昭和から平成初期にかけて、日本人の働く目的は明確でした。会社での昇進は生活の安定に直結し、組織に身を捧げることが成功の最短ルートだったのです。

 

しかし、厚生労働省の「労働者の意識変化」に関する調査を見れば、労働者の就業意識が多様化していることがわかります。働く目的は「お金」が最も高く、それにともなって「どのような仕事が理想だと思うか」という質問でも「収入が安定している仕事」が高い割合を占めています。しかし、ここで注目したいのは、2018年から追加された「私生活とバランスがとれる仕事」です。こちらも高い割合を示しています。

 

今の若手層にとって、昇進や高額報酬は「私生活を犠牲にしてまで手に入れるべきもの」ではなくなっていると受け取ることができます。もちろん、依然として収入を何よりも重視する層がいることはたしかです。そのような人たちには、これまでどおりのマネジメントでもうまくいくことでしょう。

 

しかし、この「アメとムチ」だけでは機能しなくなってきたにもかかわらず、ほかの方法を知らないリーダーが増えているから、冒頭の現象が起きている、というわけです。



マネジメントの再定義:部下から「イエス」を取る


もはや、権威で部下を「動かす」ことは不可能なら、いったいどうすればいいのでしょうか。

 

「これからのリーダーに求められるのは、部下が自律的に動きたくなる環境を設計することです。営業もマネジメントも本質的な技術は同じなんです。営業担当者が顧客から『買います』という合意(イエス)を求めるように、マネージャーが最初に取り組むべきは、部下から『あなたについていきます』『この方針で動きます』というイエスを取ることなのです」

 

「人を動かす」のは上司の都合だけど、「人に動いてもらう」のは部下が納得して自ら選択する状態。それを作る。網谷さんは「コミュニケーションは、自分が何を伝えたかではなく、相手がどう解釈したかがすべて」とも付け加えます。部下が納得して「イエス」と言えるだけの信頼関係を築くこと。それができて初めて、組織は自律的に動き始めます。

 


信頼の貯金「ほっこり石」を積み上げる


部下から「イエス」を引き出すための土台となるのはいったいなんでしょうか。網谷さんは独特な言い方でそれを教えてくれました。「ほっこり石」という概念です。これは心理学で「正のストローク」と呼ばれる、相手の存在を認めるポジティブな働きかけを指し、身近な行動で示すことができるそう。

 

・朝、自分からあいさつをする 。

・「あの資料、助かったよ」と具体的に褒める 。

・部下の話に耳を傾け、適切に相槌を打つ(共感する)。

 

一つひとつは小さな行動ですが、相手の心というコップに貯まっていく「信用貯金」です 。この石が貯まっている部下は、上司の厳しい指導や難しい依頼に対しても、自然と「イエス」と答えやすくなります。逆に、日頃から「ほっこり石」を置いていない(無視や否定ばかりの)上司が、どれほど正論を説いても、部下の心に響くことはありません。



結論:「人にやさしく、約束を守る」ことから始めよう


「人材育成やマネジメントにおいて、小手先のテクニックは二の次です。もっとも大切で、そして基本的なことは、『人にやさしく、約束を守ること』ことなんです」

 

相手を一人の人間として尊重し、思いやりを持って接する(やさしく)。そして、リーダー自らが規律を守り、約束を果たし、誠実であること(約束を守る)。この「当たり前」をマネージャーが体現し、部下に「ほっこり石」を与え続けること。それこそが、現代の多様な価値観を持つメンバーを一つのチームへと変え、成果を上げ続けるための道、というわけです。


【記事を書いた人】

編集部

漫画、インタビュー、コラムなど、さまざまな記事を行き来しながら、視点が少しずれる並びを試しています。ウェブメディアの運営とあわせて書籍編集も行っています。近刊は『補助金で沈む会社×伸びる会社』ゼロからわかるLLMOAIに選ばれるための集客戦略』。

 


【話を聞いた人】

ree

網谷洋一さん

昭和55年5月5日、大阪生まれ。

人材育成コンサルタント、研修講師、実業家。人間力グループ8社を経営し、そのすべてで黒字化に成功させる。財務大臣・片山さつき氏の公式YouTube「さつきチャンネル」でも紹介・推薦された自身の「人間力メソッド」を広く伝えるため、インド世界経済フォーラムでの登壇をはじめ、国内外を問わず幅広く活動している。

 


 
 
bottom of page