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炎上より怖いのは、何も起きないこと。川西功志が語る「意思決定」という仕事

  • 執筆者の写真: 編集部
    編集部
  • 34 分前
  • 読了時間: 8分
撮影:久保親平
撮影:久保親平

カワニシカバンは、YouTubeやTikTokを中心に発信を続け、多くのファンを集めてきました。一方で、注目される会社だからこそ、批判や厳しい意見と向き合う場面もあります。では、発信や企画が会社の姿勢として受け取られる時代に、経営者はどこまでリスクを引き受けるのか。スタッフに任せることと、意思決定を手放すことは何が違うのか。社長の川西功志さんに話を聞きました。

 


注目される会社ほど、批判も集まる


――カワニシカバンは、SNSを中心に幅広く発信していて、ファンとの距離も近いですよね。

 

そうですね。YouTubeやTikTokを中心に、かなりの頻度で発信しています。ライブ配信でも動画でも、本当にたくさんのコメントをいただきます。

 

――YouTubeの登録者数も14万人を超え、ファン層はますます広がっています。ただ、注目が集まれば集まるほど、炎上リスクも高まります。「こんなのカワニシカバンじゃない」「裏切られた」と受け取られる可能性もある。そうしたリスクについては、どう考えていますか?

 

批判的なことを言われたら、もちろんショックは受けます。僕のことを好きでいてくれた人が離れていけば悲しい。それは正直な気持ちです。ただ、周りの目を気にして動けなくなることのほうが、僕にはずっと嫌なんです。

 

――発信していく以上、炎上や批判は避けられないものとして受け止めているわけですね。

 

厳しいご意見をいただくこと自体は、一番大きな問題だと考えていません。カワニシカバンは、商品もスタッフも会社の動きも、すべてがブランドの姿勢として見られています。だから「一つひとつの行動が信用に関わる」と言われるのは当然だし、これからもそうでしょう。でも、それよりも怖いのは、何も起きないことなんです。

 

――何も起きない、というのはどういう意味ですか?

 

会社にとって一番大切なのは、成果物を出すことです。商品でも動画でも、まず世の中に出してみなければ、良かったのか悪かったのかもわからない。出して、反応を見て、次につなげる。そのくり返しで会社は前に進むことができる。だから、何も起きないことが、僕にとっては一番の問題なんです。

 


決めなかった仕事は、宙に浮き続ける


――カワニシカバンは、スタッフさんが自由に企画を出せる会社という印象があります。動画に出たり、積極的に発信する人もいます。実際のところ、いろいろな人からアイデアが上がってくるんですか?

 

そうですね。僕が思いついたアイデアもあれば、スタッフ発案のものもあります。どんどん提案が上がってくること自体は、いいことだと思っています。でも、それだけでは成果物にはなりません。

 

――成果物にするには、何が必要なんでしょうか?

 

仕事って、提案があって、やる・やらないの意思決定があって、はじめて実行に移されます。つまり、意思決定が必要なんです。それは本来、経営者である僕の仕事です。ただこの1年、それができていなかった。やるのかやらないのか決めないまま、多くの物事が宙ぶらりんになってしまっていた。

 

――宙ぶらりんというのは?

 

提案が出た時点で、すでにコストがかかっているんですよ。「こういうイベントをしよう」「こんな新商品はどうか」「サンプルを作ってみました」——これらはすべて、スタッフが時間と労力をかけて考えてきた提案です。それなのに、やるのかやらないのかを決めない。やらないなら損切り、やるなら実行へ進む。この2択をしないまま時が流れるようなことが、この1年間、起きてしまいました。うやむやにしたものは、うやむやなまま宙に浮き続けるんです。

 

――決められなかった理由は何だったんでしょうか。

 

みんなの意見を聞いて、うまく合わせて答えを出すことがいいと思っていたんです。この1年、ずっとそれでやってきたんですけど、全然ダメで。

 

――スタッフさんに任せていた、ということですか?

 

仕事を任せるだけでなくて、意思決定まで渡してしまっていたところがあるんです。それじゃ前に進まない、とようやくわかりました。自分が決めることから逃げていたのかもしれません。


 


「こうする」と言えるのは、社長だけ


――では、そこからどう変わったんですか?

 

今年の3月から、すべての意思決定は自分がすると決めました。社内にもそう伝えました。すべての意思決定は僕のもとになされる。誰が何を言ったとしても、最後は僕が決める。僕が決めたら、そのとおりにしていく、と。結局、社長の仕事は意思決定につきると思うんです。「こうする」と言う、それだけなんです。それがなければ、提案は実行に進まないし、成果物も出ない。意思決定という仕事を、正直なめていましたね。

 

――意思決定において重要なことは何でしょうか。

 

一つはスピードです。意思決定は早ければ早いほど、会社は成長します。もう一つは、一度決めたら変えないことです。これが本当に難しい。だから、決めるタイミングで、できるかぎりの情報を短時間で集める必要があります。

 

――決定を急ぐと、誤った判断も生まれそうですが……。

 

もちろん、その決定が正しかったかふり返ります。どうするかというと、「こうする」と決めたら、期限もセットにするんです。「○○までは、こうする」ですね。そうすると、その期限がふり返りのタイミングになります。それまではみんな迷わず走れるし、期限が来たらまた判断できる。

 

――社長が全部決めるとなると、スタッフさんが意見を出しにくくなる、ということは起こりませんか?

 

みんなの意見を聞くということの答えがようやく出ました。みんなの意見のとおりにやるんじゃなくて、みんなの意見を聞いた上で、僕が決めるんです。多数決には絶対にしない。仮に、スタッフの意見と合わないことがあっても、「みんなはそっちがいいんだね。でも、会社としてはこっちで行くよ」というのが大事だと思っています。

 

――そのとき、合意は得られるものなんですか?

 

スタッフに納得感があるかどうかは、大きな問題ではないと思っています。「意見を言ってくれてありがとう。けど、こっちに行くからな。頼むぞ」と仕事を任せることが大事です。意見を聞かなかったら、気持ちがわからない。だから意見を聞くのは大事です。でも、出してくれた意見を全部切り捨ててこっちに決めた、ということをちゃんと受け入れてもらわないといけない。

 

――意見を聞くことと、判断を預けることは違う、ということですね。

 

そうです。意思決定するには情報が必要です。だからこそ、意見は言ってくれ、どういうふうにしたいかを教えてほしい。そのとおりに決めないかもしれない。逆に、社長さえ説得すればどうにかなるって、思ってもらえたらいいなと。

 

――人が離れる不安はありませんか?

 

この1年間、みんなの言うことを聞かなかったら人が離れるんじゃないかと思っていました。これが本心です。でも、もうそれもやめようと思って。今いるメンバーとずっとやっていきたい。それは本当にそう思っています。ただ、自分の意思決定を貫いた結果として人が離れていくなら、それはそれで仕方がないと、自分の中で線を引くことが大事だと思いました。




任せることと、放任することは違う


――覚悟を決めた上で、それでもスタッフさんに任せる部分は任せていく、ということですよね。たとえばYouTubeだと、川西さんが絡まない動画もたくさんあります。川西さんはどこまでチェックしているんですか?

 

動画に関しては、ほとんどチェックしないんです。仕組み化されていて、売上利益が出るように回っています。こういう数字になっていたらいけている、こういう数字になっていたらいけていない、という基準がある。来期からは予算もつくようになったので、予算を超えるときに相談してくれたらいい、という感じです。

 

――任せているけれど、放任ではない。

 

そうです。こまかく指示命令をしたいわけではないんです。判断基準がある。その中で現場が動いている。意思決定という点では絶対に誰にも渡さない。でも、現場の自由は守りたい。

 

――ただ、任せることにはリスクもありますよね。動画だけでなく、製品作りでもミスが起きることがある。会社が大きくなるほど、全部を自分でチェックできるわけでもない。

 

ものづくりってそういうものなんですよ。YouTubeもそうです。だから、何か起きたとき最初にやるのは、どれぐらいのマイナスが出るかの計算です。最悪の事態はこれだけのマイナスか、というのを理解した上で決めて、やっていく。リスクを無視しているわけじゃなくて、引き受けて進んでいる感じです。

 

――スタッフさんに任せることには、同時にリターンもありますよね。企画が動き、動画が出て、会社の魅力が外に伝わる。結果として、認知や採用にもつながる。そういう効果まで含めて、ある程度は計算しているのでしょうか。

 

それは二次的・三次的な効果だと思っています。根本にあるのは別のことで、カワニシカバンがお客様に提供する価値は、「ものづくりエンターテインメント」だと思っているんです。カバンも動画も、その価値を届ける成果物です。エンターテインメントとは何かというと、僕は究極の教育だと思っています。その人の頭の中にずっと残るものなんです。メイド・イン・ジャパンがどう作られているのか、何にこだわっているのか。それを知ることで、ものに愛着を持ってもらう。愛着のある人生は、幸せなことだと思っています。

 

――カバンを売るためにYouTubeを使うというより、もっと根本的な話ですね。

 

動画を通して、ものに対してプラスの気持ちを持ってもらえると、愛着が湧くと思うんです。僕のエルメスの動画を見て、エルメスを持っている人は少し気持ちよくなっているはずなんですよ。それでいいんです。その人がエルメスを通して幸せになってくれる。愛着を持つことは、自走できる幸せですから。

 

――つまり、発信も商品づくりも、根本には「愛着を生む」という目的がある。だからこそ、批判のリスクがあっても成果物を出し続ける、ということですね。

 

そうですね。出さないと、何も始まらないですから。


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カワニシカバン

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