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福祉×スイーツの事業から学ぶ、全員が得するビジネスのつくり方

  • 執筆者の写真: 編集部
    編集部
  • 2 日前
  • 読了時間: 9分

ビジネスが長続きしない理由の一つは、「誰かが損をしている」からです。売り手だけが儲かる。買い手は満足できない。社会的には意味があるのに経営が続かないーーどこかにひずみがある構造は、必ずどこかで限界を迎えます。では、関わる全員が「続ける意味がある」と感じる事業は、どうすれば設計できるのでしょうか。そのヒントは「三方よし」ならぬ、「四方よし」という考え方にあります。本記事では、兵庫県尼崎市で福祉×スイーツの事業を営む経営者・大瀬ゆゆさんの経験をもとに、この思考法の構造と使い方を解説します。



就労継続支援施設というビジネス


大瀬さんが経営する「株式会社ゆゆ」は、障害や疾患などにより一般企業への就職が難しい人たちを対象とした就労継続支援施設です。利用者がお菓子を製造し、「ゆゆ」ブランドとして販売・卸・ケータリングを行う「株式会社luv sweets(ラブスイーツ)」と連携して事業を展開しています。

 

大瀬さんは2024年、23歳のときに赤字を抱えた施設を引き継ぎ、売上1億円規模の企業に育てあげました。

 

一見すると「福祉×スイーツ」というめずらしい組み合わせに見えますが、この事業の本質はそこではありません。複数のステークホルダーの課題を一つの仕組みで同時に解決しているーーその設計こそが、この事業を成立させている核心です。



詳細は後述しますが、各プレイヤーは「差し出すもの(負担)」と引き換えに「得るもの(メリット)」を受け取ります。どこか1者でも「負担ばかり」「得るものが薄い」状態になると、この循環は止まってしまいます。この記事では、循環が止まる典型パターンと、止まらないための設計を解説します。

 


収益構造:2つの車輪と、その落とし穴


就労継続支援施設の収益源は大きく2つあります。一つは行政からの給付金です。利用者一人ひとりに応じて支給される支援金・補助金で、安定した経営の土台になります。もう一つは自主事業による売上。利用者が実際に作った商品を販売して得る収益です。

 

「売上と給付金はどちらが大事かではなく、両方が大事なんです。この2つは車の両輪のようなもので、どちらか一方が欠けても前に進むことができません」(大瀬さん)

 

給付金は利用者数に比例して増えますが、単価はざっくり言うとA型が月10〜20万円前後/B型が月3〜5万円前後(利用者1人あたり)です。

※A型:雇用契約を結び、最低賃金以上の給与を支払う仕組み/B型:雇用契約は結ばず、工賃(出来高など)が中心になる仕組み。

 

自主事業は、販路がかみ合えば卸売だけで月100万円規模になることもあります。ただ、商品によっては賞味期限3日のように在庫リスクが重く、廃棄がそのまま利益を削ります。

 

一見するとしっかりした構造に見えますが、実は大きな落とし穴があります。給付金を得るには利用者に意味のある仕事をつくらなければなりません。しかし、自主事業で本当に十分な売上を立てることはできるのでしょうか。

 

実際、大瀬さんが事業を引き継いだ当初、施設はやりがいのある現場を作ろうとしていました。利用者はお菓子を作り、催事にも出店していました。しかし、その裏で経営は赤字が続いていました。

 

「やりがいはあっても、売上はついてこない。では、本当の課題はどこにあるのか、と考え続けました」(大瀬さん)

 

やりがいと売上は、自動的にはつながらない。ここに、この事業が最初に直面した問題がありました。

 


問題の正体:「作る側のロジック」と「買う側の動機」のズレ


なぜ、売上が伸びないのか。大瀬さんが突き当たったのは、「消費者がわざわざ買いたい理由がない」という問題でした。福祉施設がお菓子を作っているという事実だけでは、消費者が「買いたい」と思う動機にはなりません。そんな中、催事出店でお客さんと直接話す中で、大瀬さんはあることに気づきます。

 

「人々は味だけを見ているわけではありませんでした。『どこで作っているの?』『誰が作っているの?』。そういう問いかけの中に、お客様が商品を選ぶ本当の理由が隠されているのではないかと考えました」(大瀬さん)

 

消費者は意識していなくても、「わざわざ買う」理由を望んでいるのではないか? 大瀬さんはそう考えました。多くの人は購入を検討するとき、最初は味や日持ち、手みやげに合っているかなどを重視します。しかし、これは「わざわざ」選ぶ理由ではないわけです。

 


解決のフレーム:三方よしから四方よしへ


では、消費者が「わざわざ買いたい」と思える理由は、どうすれば生まれるのでしょうか。

大瀬さんがたどり着いたのは、「買うという行為そのものに意味を持たせる」ことでした。お菓子を一口食べるたびに、誰かの就労支援につながる。そのストーリーが消費者の「わざわざ」を生むと考えたのです。

 

この発想を実現しようとしたとき、大瀬さんはあることに気づきます。江戸時代の近江商人に伝わる「売り手よし・買い手よし・世間よし」という商いの哲学です。

 

消費者の課題が解決されることで、利用者と事業者のやりがい・安定(売り手よし)、消費者の満足(買い手よし)がそろう。そして、世間よしーーこれは行政が求めるものでした。行政は地域社会の課題を担う存在であり、就労継続支援施設に「社会参加への予備校」としての役割を期待しています。利用者が社会とつながり成果を積み上げる仕組みは、行政が求めるものと直結する。つまり行政が評価する事業は、そのまま世間よしでもあったわけです。

 

「複数の課題を同時に解決する仕組みとは、全員にとって続ける意味がある状態をつくること。私にとってそれは三方よしどころか、『四方よしやん!』と叫びたくなる考え方でした」(大瀬さん)

 


四方よしの設計:一つの仕組みが4者の課題を解く


「その一口が、誰かの力になる」。これは、大瀬さんが四方よしを体現するコンセプトとして考案したキャッチコピーです。このフレーズ一つが、4者それぞれの課題にどう応えているのでしょうか。

 

・利用者の課題:「やりがいのある仕事がしたい」に対して

単純な内職作業ではなく、消費者と直接つながるお菓子づくりが、社会参加の実感をつくります。「誰かの力になっている」という手応えが働く動機になります。

 

・事業者の課題:「給付金と売上の両輪を回したい」に対して

消費者に選ばれる理由(ストーリー)が生まれることで自主事業の売上が立ち、給付金と合わせて経営が安定します。

 

・消費者の課題:「買うことに意味を感じたい」に対して

おいしいお菓子を買うという行為が就労支援につながります。「一口食べるたびに誰かの力になれる」というストーリーが購買の動機をつくります。

 

・行政の課題:「利用者を社会に送り出したい」に対して

施設が担う「社会参加への予備校」としての役割を果たします。お菓子づくりを通じて利用者が消費者と接点を持ち、成果を積み上げていく仕組みは、行政が求める取り組みに直結します。

 

4者全員が「この事業が続いてほしい」と感じる理由を持っている。これが持続可能な経営の土台になっています。

 


四方よしを自分のビジネスに使う6ステップ


大瀬さんはこの経験をもとに、どんな事業にも使える6つのプロセスとして言語化しています。

 

①関係者を洗い出す

自分の事業に関わる人をできるだけこまかくリストアップします。「誰がどんな形で関わっているか」を見える化することが出発点です。

 

②それぞれの課題を書き出す

関係者ごとに「困っていること」「望んでいること」を具体的に書き出します。欲求と不満を並べると、意外な共通点が見えてきます。

 

③課題の重なる部分を探す

一見バラバラに見える課題も、根っこは同じことが多いです。重なりを見つけることが突破口になります。

 

④一石三鳥の仮説を考える

重なりが見つかったら、それを一つのアイデアで同時に満たせる仮説にまとめます。全員を含めることがポイントです。

 

⑤小さく試す

いきなり大きく展開せず、テスト販売や試作から始めます。反応を確認しながら修正できるため、失敗のコストを最小化できます。

 

⑥ストーリーとして共有する

「なぜこの商品・サービスなのか」「誰のどんな課題を解決するのか」を言語化し(大瀬さんの場合は「その一口が、誰かの力になる」)、関係者と共有します。理由が伝わると応援者が増え、持続可能性が高まります。

 


まとめ:「誰の何を解決するか」がビジネスの設計図


四方よしの核心は、「全員にとって続ける意味がある状態をつくる」ことです。起業初期ほど「何を売るか」「どう差別化するか」に意識が向きがちです。しかし商品やサービスはあくまで手段です。「誰の何が解決されるのか」が明確でなければ、やがて「なぜ買われないのか」がわからなくなります。

 

自分の事業に関わる人を洗い出し、それぞれの課題を把握し、重なる地点に一つのアイデアを当てる。この思考のプロセスは業種を問わず使えます。「何を売るか」より先に「誰の何を解決するか」を問うこと。それが、長く続く事業の設計図になります。

 

最後に実務でこのサイクルが崩れるケースにも触れておきましょう。たいていの場合、次のどれかが先に壊れます。

 

・消費者が「買う理由」を失う(品質・ストーリー不足)。

・行政が「適正運営」を疑う(記録・報告の破綻)。

・利用者が「主役」になれない(工程設計ミス)。

 

どこが先に壊れそうかを見立ててから、手当ての順番を決めるのが近道です。

 

「福祉の仕事って、やりがいだけで語られることが多いんです。でも私がやりたかったのは、続く仕組みを作ることでした。誰かが我慢している事業は、いつか壊れます。全員にとって意味がある状態を設計することが、経営者の仕事だと思っています」(大瀬さん)

 

23歳で赤字の施設を引き継ぎ、1年半で売上1億円企業にした大瀬さんの原動力は、特別な才能ではなく「誰の何を解決するか」を問い続けた思考にありました。


 【話を聞いた人】

大瀬ゆゆ(おおせ・ゆゆ)さん

2001年、和歌山県生まれ。「好きなことに全力で挑戦する」その姿勢で、Z世代のロールモデルとして注目を集める若手女性経営者。看護学校を親に内緒で辞め、夢を追いかけるも挫折。その経験が転機となり、福祉の世界に飛び込む。福祉の現場で働きながらパティシエ修行を重ね、22歳で福祉事業会社の代表取締役に就任すると、翌月にはスイーツ事業「株式会社luv sweets」を設立。赤字だった事業をわずか1年半で年間売上1億円規模の黒字企業へと成長させた実績を持つ。モットーは「その一口が、誰かの力になる」。現在は2社を経営しながら「失敗しても、やり直せる」「好きなことを社会の力に変えられる」というメッセージを発信し続けている。

 
 
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